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IoT革命の本質は、製造業もサービスを提供できること

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半導体産業は、ファブレスにせよファウンドリにせよ、典型的なモノづくり産業の一つだ。ソフトウエア産業と分類されるPTC社は3次元CADやPLM(プロダクトライフサイクルマネジメント)ソフトウエアを設計・生産している企業であるが、顧客には製造業が多い。PTCのJames Heppelmann社長兼CEOとHarvard Business SchoolのMichael Porter教授が共著で「IoT時代の競争戦略」という論文を発表した。

図1 PTC社SLM事業部門のVP、Asher Gabbay氏

図1 PTC社SLM事業部門のVP、Asher Gabbay氏


Harvard Business SchoolのMichael Porter教授は、「競争の戦略」という著書を著したことで知られているが、IoTはこれまでのIT革命というコンセプトの中で最大の動きだと述べている、とPTC社SLM事業部門のバイスプレジデントのAsher Gabbay氏(図1)は解説する。ソフトメーカーであるPTC社の社長が「IoT時代の競争戦略」の共著者で、IoTに注目するのは、IoTはインターネットの革命ではなく、モノづくり革命だからである。だからこそ、PTCはIoTという言葉よりも、「接続機能を持つスマート製品(Smart, connected products)」を好む。

接続機能を持つスマート製品は、センサとマイコン、トランシーバ、ソフトウエアなどを含んでいるが、この製品をインターネットに接続することで全く新しいサービスを実現する。例えば、クルマだと今のバッテリ状態、何キロ先に充電ステーションや渋滞があるといった情報を得て、充電する準備をしたり、渋滞を回避するルートを選んだりする。日本では、ヘルスケアやウエアラブルをIoTの典型例として捉えられているが、先を行く米国では工業用が主なターゲットとなっている。例えば、エレベータメーカーのシンドラー社は、エレベータの需要パターンを予測し、目的階への最短所要時間の算出や、利用者を迅速に運ぶのに適した号機の手配などにより、待ち時間を50%短縮している。

IoTあるいはスマート製品が行う機能は、(1)モニタリング、(2)制御、(3)最適化、(4)自律性、の四つだとこの論文では述べている。四つの段階全てを行うことがこれまでのIT革命とは違う。つまり、何が起きているのかをまずモニターで知り、ではそれが大きいなら小さくするように制御する。最適化になっていなければ最適化し、無駄を除く(最適化)。そして、最適化するだけではなく、自分で判断して今後は常に最適化できるように行動を起こす(自律性)。

こういった機能はインターネットのクラウドを通じて、実現される。端末だけでは計算が重すぎるからだ。

スマート製品が工業用に入るとモノづくりは何が変わるか。サプライヤーと顧客との関係が大きく変わる。特に、ビジネスモデルが大きく変わる。これまでメーカーはモノを製造し、その対価を収入としていた。これからは、モノを製造することは同じだが、サービス収入も得ることができるようになる。例えばGE(General Electric)が製造するジェットエンジンにIoTやスマート製品を多数取り付け、ほとんど壊れないエンジンを製造することができる。エンジンの様子を四六時中IoT端末でモニターしていけば、不具合が起きそうな時に前もって部品を交換できる。かつては航空機メーカーのエアバス社がエンジンをGEから購入していたが、IoT時代ではエアバスはこれまでよりも低価格で購入できる。この結果、航空会社もエアバス社から安く購入できる。GEは低価格で売った代わりに、人や物を輸送している航空会社のアリタリア航空から飛んだ距離や時間に応じて料金をいただく。加えて、IoT(スマート製品)からの24時間データもアリタリア航空に提供する。アリタリア航空はデータを見ながらメンテナンスを最適化できる。

テニスプレイヤーのナダル選手は、IoT端末を埋め込んだラケット(Smart Connected Racket)を使っている。ラケットのどのような順番で、どのポイントにどのような力が加わってきたのか、ボールの速度やスピン、インパクトエリアなどを全て記録してあり、試合後に分析する。

サービス業でさえ、大きく変革できる可能性が高い。例えば、レンタカー会社だ。米国のZipcar社はオフィスもパーキングスペースも持っていないレンタカー会社あるいはカーシェアリング会社である。顧客はインターネットからスマホでクルマを予約し、近くにあるレンタカーを借りる。目的地まで行ったら、その場に乗り捨てる。顧客にとっては便利さが大きく向上する。メーカー側は全てのクルマにIoT端末を積んでおけば、その走行履歴や、スピード、給油状況などがわかるだけではない。新規の顧客に最も近い距離にいるクルマを自動的に顧客に知らせることができる。

これらの事例は、製造業というメーカーが顧客に対してサービスを行い、サービス収入も得ることができるということを表している。IoT革命、スマート製品革命はメーカーのビジネスモデルを変えることで、メーカーの競争力を大きく変えられるようになる。半導体メーカーは、IoT向け半導体を作るだけではなく、IoTを使ってどのようなサービスができるかを考え出し、新しい収入源を得るようにすることが重要になる。

(2015/04/23)

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