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「サイバーフィジカル時代はスマートATEで生き残る」

National InstrumentsはICT業界のトレンドを常にウォッチしており、毎年トレンドに関する冊子を発行している。今年は、5Gと、それに伴うIoTの普及によって産業用のIoTすなわちIIoTによる機械の知能化、それによる新しいモノづくり革命、さらにATE(自動テスト装置)の変革、について触れている。

図1 2015年の技術動向をまとめたNIのExecutive VP、Eric Starkloff氏 写真はNIWeek 2014でプレゼンした時のもの

図1 2015年の技術動向をまとめたNIのExecutive VP、Eric Starkloff氏 写真はNIWeek 2014でプレゼンした時のもの


この冊子は、同社セールス&マーケティング部門担当エグゼクティブバイスプレジデントのEric Starkloff氏が責任編集した、解説書。エレクトロニクス・IT産業の未来を映し出すトレンドを描いている。5Gのコンセプトは、データレートの高速化だけではない。10Gbpsを目指す高速化に加え、数十億個を超えるデバイスとの接続が可能になることから、ビルや橋梁のメンテナンスなどに使う工業用のIIoTと、ヘルスケアデバイスに代表される民生用IoTなど、異なるデバイスが異なる周波数帯で共存するようになる。ネットワークにおける遅延を数十msではなく、1ms以下の短時間で自律的な操作を可能にする必要がある。

これまでの2G、3G、4Gへと世代交替するごとにデータレートを上げてきた。しかし、データレートが数百Mbpsまで上がるとビデオ伝送が大衆化し、さらにビデオの高精細化が進むようになっている。HDテレビでは満足できない4Kなどの高解像度ビデオを放送する準備は整っている。モバイルは4Kをストアする機能を持ち、大型画面でコンテンツを見るという役割に変わってくる。

技術的なデータレートの向上には、高周波利用だけではなくビットを増やす変調方式も検討されている。現在のOFDM(直交周波数分割多重)から、1Hz当たりのビット数をさらに増やす変調方式や、ネットワークを高密度にするためのスモールセルの設置や、C-RANを利用する手もある。アンテナの数を増やすMIMO技術も感度を上げる一つだ。もちろん波形整形・誤り訂正は言うまでもない。

IIoTに関しては、産業全体が「サイバーフィジカル・システム」に移行すると見ており、これが新しい産業革命を引き起すとする。デジタルの世界と、物理的な世界を、センサやアクチュエータを使って接続し、複雑な制御の問題を解決する手段だと捉えている。工場では膨大な数の機械を相互接続して通信させ、データ解析とアクションを連動させることで生産性を上げられるようになる。

NIは、測定器メーカーであるから、インターネットにつながるIoTの普及で自動テスター(ATE)がどう変わるかについて、洞察している。少なくともIoTには、センサ、アナログ、制御マイコン、送受信回路を備えている。これらはアナログとデジタルが混じった回路である。このミクストシグナル回路のテストは、デジタル回路と違って難しい。回路ごとに機能が異なり回路構成も違う。しかも数量がある程度多くなると見られるため、大量処理すなわちスループットを高めなければならない。

IIoTデバイスのテストには、スマートハウスやスマートビルディングのように賢くテストする必要がある、とNIが考えた。NIはこれをスマートATEと呼び、IoT製品の様々な変化にもすぐに対応できるATEを目指している。さまざまな機械とそれに使うセンサやアクチュエータ、その情報を送受信するIoTは、メモリ製品と比べると少量多品種生産であり、そのテスターはそれぞれに用意する必要がある。しかし、それぞれのテスターを開発するにはコストが膨大になる。だからこそ、スマートATEが求められる。

スマートATEでは、あらゆるデバイスのテストに安く対応する。例えば、SamsungのスマートフォンGalaxy S5ではテストコストをS4よりも1台当たり0.09ドル削減しながら5種類のセンサを増やしている。これを可能にするため、相互運用性に優れたオープン規格に基づきテスト戦略を構築したという。このテスト戦略こそ、ATEのプラットフォーム化だとNIは見る。ATEのプラットフォームのモジュール性を活用することでプロセスの簡素化を図ることができるとする。

最近、NIがSoftware-Designed Testと言っている言葉とも符合する。モジュール式だとデータ解析や制御に使うコンピューティング機能をIntelなどの商用にマイクロプロセッサを中心に実現すればよい。測定部分のハードウエアをモジュール化しておけば、アナログや送受信回路など回路ごとにモジュールを取り換えるだけで必要なテストが可能になる。ソフトウエアもOS、ミドルウエア、アプリケーションと階層構造でモジュールされていれば下位のソフトウエアを書き直すことなく、アプリケーションを変えるだけでテストできる。

ただし、コンピューティング機能が陳腐になるといくらソフトウエアを書き換えても、テスター性能は上がらなくなる。このため、計算能力の中核となるマイクロプロセッサの性能そのものを上げることも必要である。NIは、Intel Xeonプロセッサを搭載したPXI Expressを搭載したコントローラ「NI PXIe-8880」を4月2日に発表した。これは8コアのXeonプロセッサ「E5-2618L v3」を使った演算モジュールで、従来はクアッドコアのCore i7だった。新プロセッサによる性能は、LabVIEWでFFT(高速フーリエ変換)演算で1.91倍、CPUMarkで1.76倍の高性能化を果たしている。CPUのクロック数は2.3GHz。

1台のモジュールでさえ、FPGAのように再プログラム可能なファームウェア技術を採用することで、モジュールの機能拡張や改良が可能になる。今後の新デバイスのテストには、ソフトウエアを書き換えるだけでかなりの部分は使えるようになる。

最後のトレンドとしてNIは、「メーカームーブメント」という言葉を挙げている。これは、3Dプリンタや3D CADなどの普及などにより個人でもモノづくりができる時代に入ったという意味である。かつて自宅のガレージでパソコンを作ったAppleのSteve Jobs氏とSteve Wozniak氏のように個人がモノづくりをできる時代が再び訪れている。資金的にも、さまざまな人たちから少額の投資で出資金を集めるクラウドファンディング(Crowdfunding)が使えるようになってきている。企業側も、例えばGEは、学生や起業家とメーカーが共同で、未来の電化製品を開発するためのメーカースペース「FirstBuild」を立ち上げたという。この考えは、教育現場も変えると期待されている。

(2015/04/03)
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