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次世代社会システムを議論したシリコンシーベルト

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経済発展と、エネルギーの確保、環境保全という三つの要素は、それぞれトレードオフの関係があるためジレンマ(Dilemma)ではなくトリレンマ(Trilemma)と、安川電機システムエンジニアリング事業部長で常務執行役員の中村公規氏は呼ぶ。2月19日に北九州で開催された「シリコンシーベルトサミット福岡 2013」ではトリレンマが話題に上った。

図 シリコンシーベルトのパネルディスカッション風景

図 シリコンシーベルトのパネルディスカッション風景


安川電機は、そのトリレンマを解決するための決め手となる再生可能エネルギーを生成するためのインバータやモータドライブ、FAの省エネシステム、パワーコンディショナー、エネルギーマネジメントシステムに力を入れている。もちろん、再生可能エネルギーが今すぐ大きなビジネスとして成り立つわけではない。しかし、長期的な観点から大電力化、小型化、省エネ化などを進めている。

一方、再生可能エネルギーを推進するだけがCO2削減手段ではない。電力の利用効率を上げることも、使用するエネルギーを減らせるためCO2を削減できる。九州工業大学の電気電子工学研究系教授の大村一郎氏は、エネルギー効率向上によるCO2削減をネガワットと呼び、電力生成コストをソーラーや風力のエネルギーと比較した。500Wクラスで効率の高いインバータを製造するのに必要なコストは0.15米ドル/kWhと低く、300Wのソーラーの0.55米ドル/kWh、5MWソーラーの0.42米ドル/kWh、100kW風力の0.2米ドル/kWhなどと比べ、電力を作りだすコストが安くなることを見積もっている。

インバータの効率を上げ、スイッチング動作の無駄な電力を減らすことのできるデバイスがSiCパワーモジュールである。電力をスイッチングさせる場合、電流そのものを流したり止めたりするためのトランジスタと、高速ダイオードを並列に接続する。この高速ダイオードは、状態を切り替える時のオーバーシュート・アンダーシュートの過渡電流(電荷)を素早く減らしスイッチング電力を減らすために使う。ダイオード、トランジスタ(MOSFET)の二つともSiからSiCへ変えると動作周波数が上がり、ロスは少なくなる。しかも同じ耐圧ならSiCは、オン抵抗をSiよりも減らすことができる。三菱電機は、東京メトロ銀座線の新型車両の回生ブレーキシステムのキモとなる、直交変換用インバータにSiCのダイオードとSi IGBTを使い、電力を38.6%削減したという。トランジスタをSiのIGBTからSiCのMOSFETに変えるとさらにスイッチングスピードが上がりロスが減り、効率はさらに上がる。しかし、SiCウェーハはSiよりも10倍以上価格が高いため、用途が限られている。三菱電機は、SiC MOSFETをインバータだけではなくモータドライブ制御にも使うなど、さらに進化、低コスト化を進めていく。

パネルディスカッション(図)では、次世代社会システム構築とアジア地域との連携について議論した。これまで半導体はIT分野でたくさん使われてきたが、そのITの役割が企業中心から社会へと変わってきた、と三菱商事顧問の岩野和生氏は語った。IBMに長年在籍した同氏は、クラウドがサービスの基盤になってきており、ITは個人や企業の所有から使用へと変わってきており、その重要な技術となるものが標準化と共有化であると述べた。社会の物理インフラやサービスの基盤としてのITが求められるようになるという。

社会インフラの整備が不十分な発展途上国では、電力がグリッドではなく地域ごとにソーラー・バッテリとのセットによって供給されるプレイス&プレイ(P&P)という考え方を、電気通信大学大学院情報理工学研究科教授の市川晴久氏が提案した。いわゆるエネルギーの地産地消である。途上国でトリレンマを解決できる手段の一つになる。インターネットやアクセス系、基幹係ともP&Pの元で構築すると共に、農業にはワイヤレスセンサネットワークによる収穫の効率向上を目指そうとしている。同氏の研究室ではμW以下で動作する半導体チップやエネルギーハーベスティングで動く通信チップなども試作している。

キヤノン顧問の南谷崇氏は、次世代社会システムのための7つの提言と題してプレゼンした。言葉の定義について議論が起きたものの、エネルギーのトリレンマをITの最適化で解決しようと提案した。

パネルディスカッションでは、IT、次世代社会、トリレンマというキーワードが議論の場に出てきたが、肝心の半導体は、センシングやアクチュエータ技術しか議論に上らなかった。社会システムを動かすIT、そのITに必要な機能、その機能を実現できる半導体。半導体を使えば、社会システムをどう変えられるかという議論が望まれたようだ。

(2013/02/22)

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