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東芝、研究開発体制をグローバルで強化、現地向け商品やソフト開発力を増強

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東芝は、海外の開発拠点の人員を合計750名増やし研究開発を強化する方針を決めた。同社は、今後成長していくための研究開発テーマをトータル・ストレージイノベーションとトータル・エネルギーイノベーションの二つに狙いを定めた(図1)。二つのテーマをハードからソフトまでソリューションとして提供する。

図1 東芝が研究開発のコアとする二つのトータルイノベーション

図1 東芝が研究開発のコアとする二つのトータルイノベーション


東芝は、これから成長する社会をスマートコミュニティと定義し、トータル・ストレージイノベーションは、NANDフラッシュメモリからSSD、HDD、ストレージアレイ、サーバ、データセンタ、クラウド環境といった応用までをカバーする。上位にあるシステムを、オーケストレーション技術と呼び、オーケストラのようにデータセンタとクラウドの配分をダイナミックに最適調整する。クラウド基盤では、ビッグデータを高速に扱えるようにする技術を開発する。ただし、東芝はビッグデータ処理をすべて自社で開発するつもりはない。同社執行役専務の須藤亮氏(図2)は、「得意な企業と組みたい」と述べている。


図2 東芝執行役専務の須藤亮氏

図2 東芝執行役専務の須藤亮氏


下位のデバイスとしてはNANDフラッシュのさらなる大容量化を目的とする。現在の延長である微細化技術と共に3次元メモリにも力を入れる。大容量化が目的であり、抵抗変化型のReRAMや、メモリセルを配線領域に積層するBiCS技術をNANDフラッシュと並列に開発する。フラッシュの延長にこれらの3次元メモリがある訳ではないという。NANDフラッシュの限界はまだ見えないため、平行に開発するとしている。使われ方がRAMであろうがデータROMであろうが、今の段階では問わない。

これら上位と下位の中間に位置するストレージアレイやデバイスでは、大容量・低コストだが動作速度が遅いというHDDの欠点を補うために、高速のSSDをHDDのキャッシュとして用いるキャッシュSSDの応用製品が今年立ち上がるといわれており、東芝もいち早く、製品を出していく。パソコンのHDDには8GB程度の小容量のSDDをキャッシュにすることで、安くて速い1TBパソコンをリリースしていく。

ストレージの応用として、クラウド環境でユーザーの嗜好に合わせたCRM(Customer relationship management)や画像認識・検索、ジェスチャーや音声のユーザーインターフェース(UI)、テレビやタブレット・スマートフォンとの連携などのソリューションを提供する。小売店などの応用を意識して、顧客好みの買い物を支援するAR(仮想現実)技術や、POSデータや需要予測などは、IBMと連携しながらクラウド環境で実現する。鮮明な内臓の画像やCTスキャンなどの医療系のソリューションもストレージの応用として位置付けている。

トータル・エネルギーイノベーションでは、再生可能エネルギーやスマートグリッドだけでなく、HEMSやBEMSのような家庭・ビルのエネルギー管理システム、パワーエレクトロニクス、畜電器、電気自動車なども含めている。火力発電はさらに効率の高いガスと蒸気の両方を利用するコンバインド発電機や、CO2を回収する超臨界タービン、安全性をさらに追求した原子力発電も視野に入れている。もちろん、地熱、風力、太陽光を利用する再生可能エネルギー、燃料電池などの高効率化も進めている。

パワーエレクトロニクスでは、東芝が独自に開発したリチウムイオン電池SCiBの高サイクル寿命化や、残存電荷の見える化技術を開発中である。新しいソリューションとしては、電車の駅において、回生ブレーキを有効に使って回生率を5〜15%改善している。これまでは回生ブレーキを使って電力を架線に戻しても近くに電車がいなければ、作った電気を捨てざるを得なかったという。蓄電池、ソーラーパネルを利用することで電力の無駄を減らす。駅舎の近くにバスステーションを設ければ、電気バスをワイヤレスで充電できるようになる。

家庭でもHEMSにより使用電力の見える化を進め、電力のデマンドレスポンスにより電力のピーク値を5~10%でも下げることができれば、供給側(電力会社)の負担は軽くなる。

こういった二つのイノベーションをさらに進めるための研究開発体制については、特に、設計やソフトウエア開発力の高いインドや中国の研究所の人員を増やしていく。2014年までにインドとベトナムでは現在の980名(合計)のソフトウエア開発者を1450名に、中国では現在720名を980名にそれぞれ増強する。

東芝は、ローカルな文化に合った商品開発のための研究所を欧州と米国に持っている。英国ケンブリッジ(画像処理や量子暗号通信など)とブリストルの通信研究所をはじめとする欧州全体で1100名の開発者を1110名に、センサネットワークなどが得意な米国では1380名を1390名へ、それぞれ10名ずつ増やす。グローバルな研究開発を強化することで、知的財産となる海外特許の出願率を現在の51%から70%へ高めていく計画だ。これによりライセンス収入も14年度には現在の1.3倍に増えると目論んでいる。

(2012/07/17)

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