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地震に強い防災システムをラピス宮城に構築・進化させる沖エンジニアリング

東日本大震災の記憶が1年以上経ってもまだ鮮明に残っているが、半導体工場のラピスセミコンダクタ宮城(旧OKIセミコンダクタ宮城で、現在ロームの傘下にある)の地震予測システム構築を手掛けてきた沖エンジニアリングは、地震に強い工場を作るコツをこのほど明らかにした。

図1 ラピスセミコンダクタ宮城の工場に地震計とデータ解析システムを独自に構築 出典:沖エンジニアリング

図1 ラピスセミコンダクタ宮城の工場に地震計とデータ解析システムを独自に構築 出典:沖エンジニアリング


BCP(事業継続プラン)という言葉が最近よく語られるようになったが、地震や災害が起きても工場を稼働し続け、事業を継続するための仕組みのことだ。マグニチュード(M)9.0と巨大な東日本大震災にもさほど大きな被害を出さずにすんだラピス宮城は、用意周到なBCPの一環として地震予測システムを構築していたことがその大きな要因となっている。ではそのシステムとはどのようなものか。このシステム作りに係わってきた沖エンジニアリングがその仕組みについて語った。

宮城県の古川駅からクルマで仙台市に向かう途中にあるこの工場では、過去地震に何度も見舞われた経験がある。1978年6月にM7.4の宮城沖地震、2003年7月にM6.2の宮城県北部連続地震、2005年8月にM7.2の宮城地震に襲われた。ここ数十年に渡り、国内で起きた大きな地震の中でも被害の大きかったものとして1995年1月の阪神・淡路大震災がある。1988年に設立された宮城沖電気(ラピス宮城の前身)は95年の大地震を契機として、地震対策を考えるようになった。もちろん、阪神・淡路大地震の前からも埋設配管の廃止、停電対策、ガス漏洩対策等の総合防災対策は実施していた。装置の固定方法や配管のサポート等の考え方はこの頃に見直しをしているという。

さらに、2003年7月の宮城県北部連続地震で半導体工場(当時)が被災し、地震への対応強化や地震予測の必要性を再認識することとなった。2005年9月には気象庁が配信する緊急地震速報のデータベースに立地地盤情報が加わり、精度が上がるようになった。気象庁および防災科学研究所などが地盤調査結果を情報として発信している地盤の揺れ情報や、揺れやすさなどの情報を有効活用している。それとともに地震の履歴を蓄積し、工場設置地震計のデータ補正を行った。

次に、気象庁からの緊急地震情報に基づく予測だけに頼らず、工場内にもP波の地震計を設置・併用することで誤報を回避しようとした(図1)。さらに、この地震計のP波波形データによる予測システムを2006年に構築し、精度を上げた。これは、気象庁からの緊急地震速報は、地震波がどの方向から来るか、いつ頃到着するかという総合的な情報として有効活用しながら、地震振動の大きさをより正確に判断するために現地地震計を有効に活用したもの。これによって直下型のような地震にも対応できるようになった。

地震計と高精度な解析システムからできている「オンサイト地震防災システム」では、数秒〜数十秒前に震度と揺れの到達までの時間を推定できる。これによって、作業員は安全姿勢の確保と、避難経路の確認、安全地域への避難が可能になる。同時に、建屋ではさまざまな危険特殊ガスや薬品を地震到達前に遮断したり、クリーンルームでは精密機器や高速回転装置を停止したりできるようになった。これらによって、人的・経済的損害を最小に食い止め、ビジネスをできるだけ早く復旧できるようになった。2009年12月にはP波の波形データ解析時間を短縮できるようにした。

この工場では、地震予測システムを構築しただけではなく、このシステムを活用した防災訓練も定期的に行っている。予測値が80Gal(計測震度は4.7)になると、社内に緊急放送が流れ、人命を守る緊急避難行動に移る。次に二次災害を防止するため、120Gal(計測震度5.1)になると、特殊ガスを遮断し、薬品の供給も止める。同時にビジネスへの影響を最小限に食い止めるため、露光機、搬送トラック、テスターなどの生産装置も停止させる。

地震が収まった後は、早期に復旧しなければならないが、自動復旧だと漏電火災や薬液などが飛散するという危険性が残っている。このため、被害状況を確認しながら手動で復旧していく。その確認を安全に行うため必要な器具を、安全な場所に常時保管している。

東日本大震災後の2011年12月に、地震防災システムを改善し、P波の波形データ解析アルゴリズムを変更、複合地震にも対応できるようにしている。沖エンジニアリングとラピス宮城の地震防災システムの進化は続く。

(2012/05/18)
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