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SoC半導体設計サービスの新しいビジネスモデルが相次ぐ

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既存の半導体ビジネスに加えて、また水平に広がる新しいビジネスモデルの企業が出てきた。一つは、システムのどこを半導体のチップに切り出し、そのうちどの回路をハードワイヤードにするか、どの回路をプログラムで実現するか、といったシステム的な切り分けを行うベンチャーであり、もう1社はIPをビジネスとして売買するための技術サポートを仲立ちとして行う企業である。

図1 Algotochip社CTOのSatish Padmanabhan氏

図1 Algotochip社CTOのSatish Padmanabhan氏


いずれも半導体ビジネスであるが、サポート業務を主体とするビジネスだ。システム的な観点から半導体チップを切り出す仕事を請け負うのはアルゴトチップ(Altogochip)社である。同社はデザインハウスではなく、ファブレス半導体メーカーでもない。上位設計の一部だけを手掛ける技術企業だ。企業の名前は、「アルゴリズムをチップに」という意味で名付けた、と同社CTOのSatish Padmanabhan氏(図1)は言う。

同社は顧客からシステム仕様のC言語コードをもらうと、チップに焼き込むためのソフトウエアやファームウエアの最適化を行い、RTLあるいはGDS IIレベルで提供するというビジネスである。顧客の仕様を完全に理解することが求められる。

ここでは、顧客からC言語のプログラムを受け取り、顧客が作りたいシステムを理解した後で、ハードウエアとシフトウエアの切り分けも行う。仕様変更がありそうな回路は、マイクロプログラム方式などのソフトウエアで行い、仕様変更がなくレイテンシや遅延が許されない高速な回路はハードウエアで処理する。顧客は、アルゴトチップ社の独自技術を理解する必要はなく、ツールの使い方を学ぶ必要もない。すべてアルゴトチップ社が顧客の望むシステムLSIを設計する(図2)。


図2 SoCの機能設計ルーチン 出典:Algotochip社

図2 SoCの機能設計ルーチン 出典:Algotochip社


例えば、アルゴリズムやテストベクトルを開発するために書かれたC言語プログラムをもらうと、アルゴトチップ社は独自のGCC(Gnu C Compiler)を使ってそのCコードを検証し、その後解析・最適化して顧客に戻す。これがOKなら、次にシステム仕様について不明な点を質問し答えをもらったら基本のシステムアーキテクチャを構成し、SoCに落とせるような処理を行い、合成可能なRTLデータ、DRC/LVS終了したGDS IIファイル、ソフトウエア開発キットの完成版(コンパイラ、アセンブラ、リンカー、高精度なサイクルシミュレータ)、ファームウエア、ドキュメンテーションを提供する。この後もサポートする。

これまでなら数年かかる作業を集積度にもよるが8~16週間でC言語プログラムからGDS II(フォトマスクの原版データ)まで渡せるという。同社が提供できるサービスには消費電力削減アーキテクチャ、予想されるチップ面積、コストの見積もりまでも含む。さらに必要なプロセス技術やファウンドリ企業の選択肢も提示する。SoC設計だけではなく、CコードでもらったデータをシリコンIPとして提供することも可能だ。

IPの流通には技術サポートがキモ

一方、自社のIPを売りたい、あるいはある半導体企業のIPが欲しい、といった要求に応える企業がIPエクストリーム(IPExtrem)社だ。チップからIPを抽出し、ライセンス可能なIPに仕上げるのが同社の仕事だ。これによってIPは流通しやすくなる。これまで半導体の回路の一部であるIPは、別のメーカーの半導体チップにそのまま使える状態にはなっていなかった。このためIPを売りたい企業と使いたい企業とのミスマッチが起きていた、と同社CEOのWarren Savege氏(図3)はいう。最初にこのミスマッチを理解したのがフリースケール・セミコンダクタとインフィニオンテクノロジーズだった。


図3 IPExtreme社社長兼CEOのWarren Savege氏

図3 IPExtreme社社長兼CEOのWarren Savege氏


ARMやイマジネーションテクノロジーズなどのIPベンダーはサポートがしっかりしており、IPを半導体に焼き付ける作業まで行う。このため、IPエクストリーム社の主な顧客はIPベンダーではなく、むしろファブレスやIDMなどの既存の半導体メーカーだ。半導体メーカーの持つIPを、別の半導体メーカーが利用する場合にIPをそのままでは使えないことが多いため、代わりにサポートするという仕事である。

例えば、既存チップ上にあるIPを他の半導体メーカーが欲しい場合には、IPエクストリームがそれを取り出して、新しいシリコンSoCに集積できるような商用IPとして使えるようにする。ソースコードや構造、EDAスクリプトと制限事項、検証用のテストベンチとスクリプト、ドキュメンテーション、そしてドライバやデバッガ、ソフトなどを付けて提供する(図4)。顧客をサポートするため、Xenaと呼ぶ開発ソフトウエアを昨年暮れにリリース、大手企業向けと、中小企業向けのクラウド向けの2種類用意した。大手企業向けは年間料金制、クラウド利用企業向けには安価な月額200ドルのライセンス制の二つのメニューを揃えている。


図4 IPの移植を手伝う新しいビジネス 出典:IPExtreme

図4 IPの移植を手伝う新しいビジネス 出典:IPExtreme


半導体メーカーにとって、例えばプロセッサコアを広めることはセカンドソースを確保することにつながる。しかし、このためにセカンドソース先をわざわざ探す努力をすることはほとんどない。IPエクストリームに依頼することで、自社のCPUコアを広めることに成功した企業の一つがフリースケールだ。例えば同社の32ビットCPUコアColdFireとPowerアーキテクチャのCPUコア、自動車用のFlexRayコアなどをIPエクストリームは扱っている。自動車エレクトロニクスのDrive-by-wireやBrake-by-wireにフリースケールのFlexRayコアが使われた。BMWはサスペンションコントロールに使った、とSavege氏は言う。

IPエクストリーム社がIPとして取り扱うのは大抵RTLレベルであり、GDS IIを顧客に渡したのはインテルの持つBluetooth回路だけだという。同社は、ライセンス可能なIPを顧客に渡すまでの技術サポートとIPセールス、法的問題を扱う。IPを流通させるビジネスで重要なことはIPそのものをシリコン上にインプリメントできるように技術的なサポート体制を持つことだとしている。

(2012/04/27)

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