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IDMからファブライト、さらにファブレスへと進むIDT、アナログを強化

米IDT(Integrated Device Technology)社は、かつて微細化を優先、そこに価値を持たせた高速SRAMのIDM(垂直統合半導体メーカー)だった。昨年からファブライト戦略を打ち出し、今年末にはオレゴンの工場を売却し完全なファブレスを目指す。アナログを強化したインターフェース半導体をコア技術として持つメーカーへと脱皮する。

図1(a) 米IDT社Corporate VPのGraham Robertson氏

図1(a) 米IDT社Corporate VPのGraham Robertson氏


図1(b) 米Intersil社CEOのDave Bell氏

図1(b) 米Intersil社CEOのDave Bell氏


なぜ、アナログを強化したインターフェース半導体か。なぜファブレスか。決め手となる重要なメガトレンドは、モバイルインターネットである。スマートフォンやタブレットがモバイルインターネットを推進する。これらのモバイルデバイスは今後急速に伸びると予測されている。しかもモバイルデバイスはクラウドコンピューティングの利用には最適なデバイスだ。となると、数多くのモバイルデバイスとその利用が進めば進むほど、データ通信回線は足りなくなってしまう恐れがある。このため通信ネットワークのインフラを強化しなければならない。

この考えは、米インターシル(Intersil)のCEOであるDave Bell氏(図1b)が「人間の体験を加速する(Powering the Human Experience)」と題した講演で指摘した4つの重要な要素とも一致する。すなわち、1)スマートフォン、2)3G/4Gの通信インフラ(LTEなどのベーステーションなど)、 3) 巨大なデータセンター(クラウドコンピューティングの源)、4)ブロードバンドをアクセスするデバイス(タブレットやPC)、である。同氏は最近の中東情勢を例に引き出し、スマートフォンやPCなどを使ったSNAで国内世論を動かし、さらに世界を動かしたと指摘した。同時にこの4つの要素がFacebookやYouTubeなどのプラットフォームになり、半導体の大きな市場になると見る。

IDTは基本的なトレンドをインターシルと同様に捉えているものの、IDTはここに自社の強みを重ねていく。IDTは、高速SRAMから始まり10年以上前にクロック制御などのタイミングIC製品を出してきた。「タイミング製品はボードの心臓に相当する」(Corporate VPのGraham Robertson氏)。次にIDTが力を入れたのは、Rapid I/OやPCI Express、DisplayPortなどの高速シリアルインターフェースICだ。こういった得意な製品群を自社のコアコンピタンスとするIDTは、デジタルシステムとアナログの世界をつなぐ市場に注力する企業となった。これは人間とのアナロジーを使い(図2)、頭脳であるプロセッサと心臓であるタイミングIC、さらにアナログのフロントエンドとなるべき「見る」、「聞く」、「触る」といったアナログをカバーし、それらをつなぐインターフェースICも強化する。


図2 心臓に相当するタイミングIC、頭脳や五感ともつなぐ

図2 心臓に相当するタイミングIC、頭脳や五感ともつなぐ


今やIDTのエンジニアの35%がアナログエンジニアであり、新CEOが来る前の3年前にはゼロだったという。CEOのTed Tewksbery氏はIDTを変え、アナログエンジニアを増やした結果、パワーマネジメントICやワイヤレス技術に欠かせないRFICなどを強化することができた。


図3 IDTがフォーカスするタイミング、アナログとインターフェース分野

図3 IDTがフォーカスするタイミング、アナログとインターフェース分野


さらに、こういった個々の製品をハンマーに例え、タイミングICは単なるハンマーにすぎないとした。図1aで同氏が金槌を持っているのはこの演出のためである。「IDTはもはやハンマー製品だけを考えるべきではない。ユーザーにとって価値を高めるのはソリューションである」とRobertson氏は語る。ユーザーにとって価値のあるソリューションをするためには、RF分野やワイヤレスインフラ分野、クラウドコンピューティング分野など、それぞれ注力する分野で製品のポートフォリオを増やし市場を拡大していくことが重要だとする。製品ポートフォリオの充実によって顧客にソリューションを提供できるようになるという訳だ。

(2011/04/21)
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