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英国特集2011・グローバルな水平分業を徹底、さらなる成長を目指す

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水平分業と、得意分野の強化こそ、他社を寄せ付けない圧倒的な力になる。半導体メーカーとしては日本の大手よりもずっと小さなファブレス半導体や機器メーカーが自分の得意な技術をソフトウエアに落として、限られた市場だが大きなシェアを収めようとしている。

ソフトウエア無線やソフトウエアを強化して差別化を進める動向では、賢いソフトウエアでフェムトセルを設計するUbiquisys社、ワイヤレスインフラ用チップのソフトウエア無線を推進するウィンテグラ社を買収したPMC-Sierra社、などを紹介する。


生産部門をソニー系へ手放し、台湾に生産を依頼
フェムトセル機器を生産する会社からソフトウエア開発にフォーカスする会社に変わり、そのビジネスモデルまでも変えてしまって成長を図る会社がある。フェムトセル機器の生産では大手の英国ユビキシス(Ubiquisys)社は、機器の生産工場を英国ウェールズにあるソニーウェールズに売却し、開発設計だけに特化する企業へと変身した。

図1 ユビキシスのSteve Shipley氏

図1 ユビキシスのSteve Shipley氏


ところが、ユビキシスは売却したかつての工場に製造を任せていない点が戦略的だ。というのは、英国はモノづくりを必ずしも得意としない民族だからである。イノベーティブなアイデアや発明・発見は得意だが、モノを安く作ることは得意ではない。世界的に見てモノを安く作ることのできる天才的な民族は台湾だ。そこで、ユビキシスは生産すべきフェムトセル機器を台湾のサーコム(Sercomm)社に依頼している。

ユビキシスはリファレンスデザインボードを設計・作製し、台湾の生産会社に渡している。なぜここまで水平分業に徹するか。フェムトセル市場でユビキシス社は実はトップレベルにいる(ARIリサーチの調べ)。しかし、もはやコストダウンの競争に入ってきたと、同社Steve Shipley氏は言う。2年前は20社がフェムトセルを手掛けていたが、結局小さなユビキシスが市場を支配した。「われわれはフェムトセルのコストをさらにドラマチックに下げることを狙っている。具体的には100ドル以下の機器だ」(Shipley氏)。だからこそ、自分の得意な設計に注力し生産を台湾に委ねることで、どこよりも性能の良い製品をどこよりも安く提供して自分たちの地位を確立しようとしたのである。

ユビキシスが技術面で力を入れたのは、二つの大きなソフトウエアエンジンだ。一つは他のネットワーク、例えば3GやHSPA、携帯電話機そのもの、さらには他のフェムトセルなどからの干渉を避けるアルゴリズムである。同社はある周期ごとに他のネットワークを常にサーチしており、検出するとパワーを調整し、干渉を避けている。これを自動的にダイナミックに行っている。もう一つはフェムトセル間のハンドオーバーができるソフトウエアだ。フェムトセルは常に周囲の無線環境をチェックしているため、同じようなフェムトセルがあると、ロードのバランスを見ながらハンドオーバーが可能かどうかをチェックした後、ハンドオーバーする。

ユビキシスは日本のソフトバンクにフェムトセルを納入しており、実績がある。フェムトセルのユーザーはオフィスや家庭であるが、通信オペレータも顧客である。通信オペレータの中ではフェムトセルの顧客としてソフトバンクは最大だという。Shipley氏によると、ソフトバンクはしっかりしたビジョンを持っており、フェムトセルを使ってカバー範囲を確実に増やそうとしている。特に、iPhoneのカバレージとスピードを確保する上でフェムトセルは欠かせない。ADSLの顧客にはフェムトセル装置を無料で貸し出しているという。

ソフトバンクに対しては、ユビキシスが直接ソフトウエアを提供し、ハードウエアは台湾のサーコムが納入する。ただし今後、フェムトセル装置の市場がさらに広がっていくと、ハードウエア生産能力が足りなくなる恐れがあるため、サーコム以外のハードメーカーも拡張していきたいとする。

製品としては、8ユーザーまでのFC27xUシリーズ(下り7.2Mbps、上り1.4Mbps、出力10dBm)や16ユーザーの企業向きFC23xUシリーズ(同じデータレート、出力20〜24dBm)などがある。フェムトセル同士のハンドオーバー機能があるため、小さな村だとフェムトセルだけでカバーできるという。


Wintegraは仕様固めを英国、IC設計はイスラエルと役割分担
米テキサス州オースチンに本社を置くウィンテグラ(Wintegra)社は、イスラエルに研究開発センターを置き、英国スコットランドのグラスゴーにシステム設計と顧客サポートオフィスを構えるファブレス半導体メーカーである。このウィンテグラをカナダのファブレス半導体PMC-Sierraが昨年秋に買収した。このファブレス同士の合併は通信インフラ系の半導体製品ポートフォリオをさらに豊富になった。

PMC-Sierraは光ファイバネットワークとトランスポートシステムに力を入れてきた。ストレージ向けのFibreChannelやSATAインターフェースIC、SONET/SDH、OTN、イーサネットなどの有線ネットワークに加え、RFICやSerDesなどのトランスポートICなどを得意としていた。一方のウィンテグラは2G、3G、LTEなどさまざまな無線プロトコルが必要とされる無線ネットワークのプロセッシングを得意としていた。

PMC-Sierraにとっては、無線ネットワークのプロセッサを手に入れ、得意な通信インフラ系半導体の製品ポートフォリオを拡大できるチャンスとなった。一方、社員が150名しかいないウィンテグラは売り上げの50%が欧州という企業であるため、PMC-Sierraグループに入ることは米国やアジアの市場にも進出でき、さらに成長できるという意味がある。

得意分野に集中して自社の価値を高めるという意味では共に同じ方向を向いている。ウィンテグラのIC開発・生産は水平分業をグローバルに展開している。ネットワークプロセッサの基本システム設計は、グラスゴーのウィンテグラが行い、シリコンに落とす論理設計はイスラエルチームが行い、製造はTSMC、アセンブリは台湾ASE、という具合に生産を分担する。

ウィンテグラが得意なのはネットワークプロセッシングとソフトウエア開発であり、それもアクセス系のインフラシステムに注力する。このプロセッサはベースステーションの機器の心臓部となり、独自のプロセッサに載せる、いろいろなネットワークプロトコルをシリコンに焼き付ける訳だが、日本のNTTドコモやKDDI、ソフトバンクなどにも接触しており、携帯電話のインフラ系に強い。

グラスゴーではシステムエンジニアとして、欧州の顧客と話をしながら、FPGAをベースにしたリファレンスデザインを使って仕様やアーキテクチャを決め、顧客の要求を固めていく。携帯のアクセス系プロトコルのベースは共通にしておき、顧客ごとに少しずつカスタマイズしていく。「たとえば、NTTドコモの場合、基本のプロトコルを使い、それ変更を加えさらに開発していく訳だが、日本の顧客向けにソフトウエアを変えることでカスタマイズする」、と同社ワイヤレスインフラストラクチャ&ネットワーク事業部のシニアマネージャのColin Alexander氏(図2)は語る。

図2 ウィンテグラ社ワイヤレスインフラストラクチャ&ネットワーク事業部のシニアマネージャのColin Alexander氏

図2 ウィンテグラ社ワイヤレスインフラストラクチャ&ネットワーク事業部のシニアマネージャのColin Alexander氏

(2011/03/28)

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