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MWC2011〜LTE-Advancedチップや LTEの利用環境、M2Mのエコシステムが焦点

3GからHSPA(high speed packet access)、HSPA+へと進みLTE(long term evolution)の世界が開かれることは疑いのない事実になってきた。逆に、このMWC2011でLTEだけの発表はもはやニュース価値はなくなってきた。一方、端末はどうか。アップルがiPhone5をリリースするかと思われたものの発表はなかった。新しい端末の方向がアンドロイドであることは誰も疑わなくなってきた。新しい端末はもはやニュース価値はない。

図 Mobile World Congress2011の正門をくぐり会場へ向かう

図 Mobile World Congress2011の正門をくぐり会場へ向かう


iPhone5に関しては、開発者でさえ貝のように口を閉ざす。スマートフォンを採り上げるメディアもあるようだ。しかし、取材した数十名の業界人に聞いてみると、MWC2011においてスマートフォンやタブレットを話題とする業界人はほとんどいない。一部の日本のメディアが採り上げているが、なぜ採り上げたのかその理由はわからない。

LTEの次のLTE-Advanced(日本でいう4G)向けのチップを開発している半導体メーカーも出てきている。単発的にデータレートの速さを競うのではなく、通信オペレータ(NTTドコモなどのキャリヤ業者)は通信トラフィックの増大に対処することが最大の関心事である。誰もがみんなスマートフォンやタブレットを使うようになってきたからだ。データレートの向上はもちろんその解の一つであるが、オフィスや家庭を小さな基地局とするフェムトセルやWi-Fiも使うデュアルモード、なども解になる。むしろフェムトセルが現実的になってきたことが大きなトピックスの一つである。さらにLTEとHSPA、3Gなどの共存技術にも注目が集まっている。

そして、LTEなどのインフラができ、スマートフォンやタブレットといった新しい端末が登場してきた今、これらの環境を利用して何をやるか。ここに出展社の大きな関心があり、使い勝手や提供すべきサービスの内容、さらにもっと便利な使い方や環境の整備、といったテーマが今回のMWCのもう一つの大きな流れだといえる。

こういった現実的な使い方や環境の整備で活躍するのは、アルカテル-ルーセントやエリクソン、シーメンス、NEC、富士通、ノキア、サムスンなどのビッグネームだけではない。むしろ誰もやってこない新しいソフトウエアやハードウエア、サービス企画などの提案がベンチャーや中小企業から実は出てきている。これらの動きを見逃すわけにはいかない。ユーザーインターフェースの新しい提案はその一つである。

また、データ通信に欠かせない通信モジュールのM2M(machine- to-machine)が立ち上がってきた。ハードウエアはRFとモデムだけ、あるいはそれらにデジタルインターフェースを付加しただけの通信モジュールを使って何をするか、それに必要なソフトウエアやハードウエアは何か、といった所にM2Mの関心が移っている。3Gネットワークを利用するM2M通信モジュールのエコシステムを構築しようと言う動きが英国を中心に起きている。SME(small and medium enterprises:中小企業)と呼ばれるベンチャーのような企業がこういったエコシステムを形成する。

M2Mは自動販売機に取り付けてビールやジュースがあと何個残っているかを把握し、いつ補充するのが最適になるのかを知ることができる。電力メーターに取り付けるとスマートメーターになる。デジタルサイネージと呼ばれる新しい広告ボードにもM2Mを使う。あるいはアルツハイマー病にかかってしまった徘徊老人の衣服に縫い付けると見失うことがなくなる。アマゾンの電子ブックであるキンドルやメディアタブレットにはすでに内蔵されいつでもインターネットからコンテンツをダウンロードできる。輸送車両に取り付け、そのトラッキングによって流通状況を把握するという応用もある。さまざまなモノに取り付けることで通信できるようにするのがM2Mである。

しかし、いくらハードウエアがあってもそれを自由に動かすことのできるソフトウエアも必要になる。好きな時に情報を引き出し、あるいは情報を送り、業務に生かしたり効率を上げたりするのを助けるのがソフトウエアである。M2M用のソフトウエアの開発に注力しているソフトベンダーはいる。

半導体チップに関しては、ソフトウエア無線(SDR)の活躍する時期がようやく訪れるようになってきた。例えば、今はやりの3.9Gと言われるLTEは、各国ごとに周波数や方式が微妙に違う。このため専用のASICを起こしても今の段階では利益は出ない。この時期こそ、SDRを使ったモデム技術を使うのである。企業によっては、HSPA+はSoCで、LTEはSDRで製品化している所もある。では共存方式はどうやって作るのか。この後は、MWCレポートの記事に譲ることにする。

(2011/02/17)
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