セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

次世代パワーグリッドを想定した電力貯蔵用リチウムイオン電池の寿命を倍に

|

日立製作所は、スマートグリッドやデジタルグリッドなど将来の電力貯蔵を目的とした、リチウムイオン電池の寿命を倍増させた。日立製作所によると、リチウムイオン電池には、瞬発力を重視する自動車向けと、持続力を重視する電力貯蔵用がある。今回の蓄電池は電力貯蔵を主目的としており、次世代グリッドを視野に入れている。

電力貯蔵用と自動車用では特性が違うリチウムイオン電池

電力貯蔵用と自動車用では特性が違うリチウムイオン電池


日立製作所はエネルギー密度120Wh/kgと持続力が高く、寿命がこれまでの2倍以上というリチウムイオン(Li+)蓄電池を開発した。寿命は、NEDOで定義された、充放電を繰り返すサイクルの平方根として、容量維持率が60%に落ちるまでの期間と定義している。


リチウムイオン電池の寿命試験

リチウムイオン電池の寿命試験


開発したリチウムイオン電池は、NEDOプロジェクト「次世代蓄電システム実用化戦略技術開発」の一環としての成果である。これは2006年度から2010年度までの5年間にわたる次世代新型蓄電技術の開発計画であり、日立製作所はそのなかの要素技術開発を担当している。

今回、長寿命化できたのは、主に二つの技術を開発したことによる。一つは、正極(カソード)の基本材料である、スピネル構造の酸化リチウムマンガン(LiMn2O4)の結晶構造を機械的に強くしたこと、もう一つは電解質溶液に溶けにくい材料として層状系複合酸化物を正極材料に混ぜ込んだこと、である。

結晶格子の中にあるMn(マンガン)原子の格子位置に別の原子を置換させ、機械的に強くした。Liイオン電池は、正極材料の中に含まれるLi+を放出させることで電子を外部へ流し電流として取り出すという原理の電池である。充電過程はその逆。正極ではスピネル構造の酸化リチウムマンガン(LiMn2O4)の結晶構造をしており、Li+が放出されると結晶格子は歪む。このため機械的に弱くなり崩れやすくなる。そこで、結晶格子を形作るMn原子のサイトに機械的に丈夫な別の原子に置換させた。その原子については明らかにしていない。この原子をMnサイトに入れることで、Li+が出入りしても影響されないような骨格の結晶格子を作りだした。この原子は入れすぎると基本構造ではなくなり、正極としての機能を果たさなくなるため、適度の量を入れている。

もう一つの対策は、電解液に含まれるLi塩が水と合わさって酸性となり、Mn原子を結晶格子から溶け出させてしまうことに対するものである。Mn原子が電解液に溶けだせば、基本結晶格子はやはり崩れてしまう。すなわち寿命が短くなる。そこで、この結晶材料に原子的に層状の複合酸化物を混ぜ合わせると、Li塩酸性成分にMnが溶けにくくなることを見出した。正極材料は直径100nm程度の1次粒子の集まりであり、一つの1次粒子の中に、LiMn2O4と層状複合酸化物が入っている形になっているという。


日立と新神戸電機が共同で試作した円筒型Liイオン電池(右)

日立と新神戸電機が共同で試作した円筒型Liイオン電池(右)


今回は長さ 10cm程度の円筒型電池を新神戸電機と共同で試作している。なお、最終年度である2010年度には100Ah級の大型電池の試作、5kWモジュールの開発、電池の制御システムの開発などを実現させる計画だ。

(2010/04/06)

月別アーカイブ