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英国特集2010・プラスチックエレクトロニクスの狙いは丸められるフォトニクスと設計

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英国は今、プラスチックエレクトロニクスのブームに沸いている。応用範囲はシリコンでは実現できない分野。シリコンが不得意な大面積ディスプレイ、大面積の照明、大面積のソーラーセル、しかも紙のように丸められる、といったフレキシブルなフォトニクス応用を、昔ながらの製造技術、すなわち印刷(プリンティング)技術などで実現する。

図1 ウェールズ州スワンシー大学ではフィルム上に配線などを印刷で形成する

図1 ウェールズ州スワンシー大学ではフィルム上に配線などを印刷で形成する


印刷技術は、15世紀半ばに発明されたグーテンベルグの活版印刷から発展してきた。プラスチックエレクトロニクスは、製造技術という視点からプリンテッドエレクトロニクスということもある。ただし、有機半導体という最先端の材料を使う。古い技術と新しい技術が行き着くところは、決してシリコンに代わるものではない。性能では将来に渡っても残念ながらシリコンには勝てない。ただ、シリコンの苦手な所を探すと、大面積・光る・柔軟、だろう。ここをプラスチックエレクトロニクスが受け持つ。

プラスチックエレクトロニクスの構成部品は、実はさまざまな材料から成り立っている。半導体特性や発光特性を持つ有機分子やポリマーだけではない。金属のナノパーティクルのような無機材料や、さまざまな基板材料も構成材料だ。作り方は液晶製造プロセスでもあるし、古くからの印刷技術でもある。

これまで、プリンテッドエレクトロニクスやプリンタブルエレクトロニクスという言葉が使われてきたが、ここでは手段ではなく目的を主眼に置くという意味で、「プラスチックエレクトロニクス」という言葉を使う。プリンテッドエレクトロニクスでは昔からのプリント回路基板も同じ印刷技術で作られたものである上に、製法自身の新しさが見えない。プラスチックすなわち有機ポリマーを主体とするエレクトロニクスという言葉の方が新しさを表していると考えた。

何が新しいか。材料そのものはナノスケールまで細かいパーティクルに加工できるようになったが、プラスチックトランジスタの再現性・性能面ではまだ不十分。それをクリヤーするための製造法や材料は開発されていない。デバイス設計に必要な理論もまだ確立していない。シリコンなどの単結晶半導体では、結晶格子が周期性を持つため、量子力学的な効果が働き、エネルギーバンドギャップという概念が生まれた。プラスチックという有機材料は1次元のポリマー鎖を基本とする。1次元ポリマー鎖を重ねたり並べたりするような構造における電子の挙動はどのように制御できるか。この理論が確立すれば、プラスチックの電気的特性を人為的に設計できるようになる。すなわち再現性のあるプラスチックエレクトロニクスができるようになる。こういった研究をロンドンインペリアル大学やケンブリッジ大学が行っている。


図2 プラスチックエレクトロニクスにはシリコン業界の参加者が増えている

図2 プラスチックエレクトロニクスにはシリコン業界の参加者が増えている


英国は日本の経済産業省に相当するBIS(Department for Business, Innovation & Skills:ビジネス・イノベーション省)が旗を振り、プラスチックエレクトロニクスを推進する。なぜか。プラスチックエレクトロニクスは世界市場として今の19億ドルが2020年に120億ドル、2027年には330億ドルになるという予測がある。今はそれほど大きくない市場でも将来は大きくなる可能性があるため、政府が後押しするという訳だ。

プラスチックエレクトロニクスは、現在でもすでに全世界で800ヵ所ほどの研究機関、企業が手掛けており、英国政府はその将来性を買っている。英国政府が支援している具体的な支援内容は、1)大学での基礎研究、2)大学と企業との共同研究開発、3)KTNと呼ばれるネットワーク、4)各地における研究センター、などがある。

「大学でのプラスチックエレクトロニクスの基礎研究には過去3~5年間で7000万ポンド(約100億円)を投じた。毎年に直すと最近は2000万ポンド(30億円)になる」とBISのデピュティディレクタのピーター・バチェラー氏(写真)は語る。この資金を支援するのは英国政府傘下のカーボン・トラスト社とEPSRC(Engineering and Physical Sciences Research Council)。カーボン・トラスト(Carbon Trust)は、CO2を低減したり省エネやCO2削減技術を商用化する企業に投資する政府系のベンチャーキャピタル兼コンサルティング会社(標準化を主導したりアドバイスを与える)であり、EPSRCはものづくりと物理科学部門の研究資金や研修をサポートする組織である。


図3 英国政府BIS省のピーター・バチェラー氏

図3 英国政府BIS省のピーター・バチェラー氏


研究プログラムを有効活用するために大学と企業との間のコラボレーションを進めるための支援も行っている。これをサポートするのは、TSB(Technology Strategy Board:技術戦略会議)委員会(英国特集2008を参照)。BISの傘下にあり、技術革新を起こすためのプロジェクトに投資する訳だが、「2004年から現在に至るまで5000万ポンド(70億円)以上もの資金を投入してきた」とバチェラー氏は言う。ちなみに英国には官公庁の独立の研究機関はないため、大学が企業の研究開発の役割を担う。また大学はすべて公立大学だ。

KTNと呼ばれるネットワーク組織はTSB傘下にあり、この二つの組織は密接に連絡を取り合うようになってきている。KTNはさまざまな分野、例えばプラスチックエレクトロニクス分野では、フォトニクス&プラスチックエレクトロニクスKTNという組織があり、プラスチックエレクトロニクス関係のセミナーを開催し、企業やベンチャーキャピタル、広報会社、大学などをつなぐ役割を果たす。加えて、全英各地に存在する産業界組織ともつなぐ。例えば、スコットランドオプトエレクトロニクス協会やウェールズオプトエレクトロニクスフォーラムなどともつなぎ、人脈形成を支援する。ビジネスを行う上で人脈は何にも代えがたい。

英国には全国5カ所にプラスチックエレクトロニクスの中核をなす研究センター(Centres of Excellence)がある。北東イングランドの小さな町セッジフィールド(Sedgefield)にこの分野最大のPETEC(Printable Electronics Technology Centre)があり、ケンブリッジ大学内にCIKC(Cambridge Integrated Knowledge Centre)がある。イングランド中西部の都市マンチェスターにはやはりマンチェスター大学内にOrganic Materials Innovation Centre、ウェールズ州のスワンシーにはWCPC(Welsh Centre for Printing and Coating)、ロンドンのインペリアルカレッジにはDTC(Doctoral Training Centre)がある。

「これらの研究センターのうち、マンチェスター地区はアカデミックすぎるきらいがあるが、ほかの4地区は産業寄りの開発を進めている」とバチェラー氏は言う。今回、セミコンポータルは産業オリエンテッドの4つの地区、すなわちロンドン、スワンシー、セッジフィールド、ケンブリッジを回り、各地の研究開発センターを訪れた。そのレポートをこのシリーズにおいて紹介する。

(2010/03/29)

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