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JASPAR、AUTOSAR仕様の中でコード効率と信頼性を改善、世界に提案へ

車載用電子機器のソフトウエアを標準化するための国内団体JASPARが、2007年から2009年までの活動報告を2月4日に行った。もともとJASPARは欧州の車載用ECUに搭載する組み込みソフトウエアの標準化団体AUTOSARが開発したプラットフォーム(OS:operating systemやネットワーク用のミドルウエア)を日本風にアレンジしてきた。AUTOSARにはない信頼性の追加やコード効率の向上を進めてきたことを成果としてあげた。

JASPARがデモした3つの制御系ECUボード

JASPARがデモした3つの制御系ECUボード


JASPARや欧州のAUTOSARは、車載用のECU(電子制御ユニット)そのもの、およびECU同士の接続などを主眼にして自動車に必要なソフトウエアの開発をできるだけ軽減するために生まれた。OSやミドルウエアは各社や業界団体で共通にしておけば、アプリケーションや一部のハードウエアだけを開発するだけで他社と差別化できる製品を作り出すことができる。

日本発の標準化を目的とすることは残念ながら今のわが国の実力ではきない。もし、そうするなら日本が音頭をとって毎月のように「世界会議」を開いて意見を調整していかなくてはならない。残念ながら現在の日本企業や政府にはそのような力はない。このため自動車用ソフトウエアではJASPARがAUTOSARのソフトウエアプラットフォームを日本語にローカライズし、さらに必要な項目を追加したり、不要な項目を削減したりするなどして改良してきた。今回は、その改良した部分を公開した。

今回、AUTOSAR仕様を改良したことを実際にデモストレーションするため、ステアリング系制御、安全制御系、ITS系についてECUにソフトウエアを組み込み搭載し、ネットワークでつなげるという実験を行った。

ステアリング系では、ハンドルと前輪との間にある機械的な結合を切り離したステアリング・バイ・ワイヤーシステムを試作した。機械の摩耗という心配がない。ステアリング・バイ・ワイヤーはBMWがすでに使っているが、まだ機械系結合も万一に備えて残すと言う2重構造だ。この実験では低速時にはハンドルを軽く、高速時には重くし、常に中心に戻るような動作を取り入れた。ここではおよそ5MbpsのFlexRay通信を通して、ハンドルの動きを制御するECUと車軸に回転を伝えるモーターを制御するECUを利用した。しかもフォールトトレラント信頼性を考慮するため2重の冗長構成を採用した。ただし、コストはかかる。

安全制御系では、ミリ波レーダーを使ったクルーズコントロールや、レーンキーピングコントロールを導入した。このために前方と後方にそれぞれミリ波レーダーを配置し、さらにステレオカメラやドライバモニターカメラなどを設置し、それらをECUでコントロールした。これにより、前方、後方とも衝突を避けることができる。このシステムでは、ソフトウエアのコード効率を上げるため、AUTOSAR仕様と比べて、CPU負荷は20%減、ROMが18%減、RAMは23%減と減らした。一方で、AUTOSAR R3.0ツールで320もの設定項目を120項目に減らした。

ITS制御系では、市販のECUにソフトウエアを書き換えるだけで実現した、アダプティブ・クルーズ・コントロールの例を示した。これは、ミリ波レーダーやブレーキアクチュエータ、スロットルアクチュエータを搭載し、アクセルやブレーキのペダルを踏まなくても先行車との距離を一定に保ち走行できるというシステムである。

こういったデモを行うためのシステムに必要なソフトウエアの開発スキルが上がったことを検証している。技術と開発要素や管理、チームワークなどを評価する項目を細かく設定しスキルを見えるようにした。

なおJASPARの参加企業は29社であり、国内大手自動車メーカーやティアワン部品サプライヤーはAUTOSARにも入っており、常にAUTOSARの標準化情報を入手できる立場にある。今回、コード効率の改善や、フォールトトレラントをAUTOSAR仕様に組み込んだことで、その改良点をAUTOSARに提案していくと、関係者は語った。ただし、フォールトトレラントに関してはその分コストも上がるため、標準化案に組み込まれるかどうか微妙なところだろう。

(2010/02/05)
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