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初の燃料電池外販メーカーを目指すMTI Micro

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MTI Micro Fuel Cell社 CEO Peng Lim氏

米MTI Micro Fuel Cell社は機器メーカーMTI(Mechanical Technology Inc.)Holdings社が持つ二つの子会社の一つで、2000年に燃料電池を開発・製造するという目的で設立された。MTIそのものは1961年設立の古い企業であり、傘下にMTI Microと、精密測定機を手掛けるMTI Instrumentsを持つ。MTI Microはメタノールを燃料とする燃料電池を開発してきた。2008年2月末に東京ビッグサイトで開かれた「燃料電池展2008」では、携帯機器に使用する小型燃料電池試作品のシリーズを数々見せた。MTI Micro Fuel CellのリーダーであるCEOのPeng Lim氏に製品戦略を聞いた。

MTI Micro Fuel Cell CEO社 Peng Lim氏


Q(セミコンポータル編集長、津田建二):MTI Microの燃料電池の特長は何ですか?他社との違いを含めて説明してください。
A(MTI Micro Fuel Cell社CEO Peng Lim氏):わが社の製品の特長は、メタノールを使う燃料電池です。それも水で希釈しない方式、すなわちダイレクトメタノール方式なのでポンプは要らない上、水をためるタンクも要りません。このため小型化が可能です。
 この方式の特長は、動作温度範囲が0℃から40℃までと広いことです。他社が持つような水で希釈する方式だと、0℃では使えません。水が凍ってしまうからです。
 小型化を示す例を紹介しましょう。携帯電話機に燃料電池を取り付けたものが下の写真の応用です。モックアップではなく、実際に電池として携帯電話に電源を供給しています。これは、携帯電話に使っているリチウムイオン電池を取り外して、燃料電池を取り付けたものです。若干厚くなっていますが、その分はほんの数mmです。


スマートフォンのLiイオン電池を取り外して燃料電池を取り付けた

スマートフォンのLiイオン電池を取り外して燃料電池を取り付けた


Q:この試作品だけを見ていますと、燃料電池の実用化は間近に迫っているように見受けられます。商品化の時期も含めて商品化に向けて考えている製品戦略は何ですか?
A:実際の製品はおよそ3種類を考えています。一つは、ユニバーサルチャージャーで、二つ目はバッテリ充電スタンド、最後が組み込み式の燃料電池、です。
 ユニバーサルチャージャーは、インターフェースがミニUSB端子を持っているため、デジタルカメラなどの携帯機器を充電します。AC電源コンセントのない場所や、ACコンセントの合わない国への旅行や出張などにこのチャージャーを一つ持っていれば、携帯電話なら8〜10回充電できます。この試作品ではメタノールのタンク容量は20〜25cc程度です。
 これまで、2006年8月に試作品1号機を作り、同年11月に堆積を40%減らした2号機を試作しました。2007年の5月にはさらに堆積を40%減らした3号機を試作しました(下の写真)。これまでの試作品のエネルギー容量は同じです。つまり、体積だけを小型にしました。現実の製品ではこの3号機をさらに小型にするつもりです。商品化時期は2009年を予定しています。


ユニバーサルチャージャー 最小の試作品は138mm×59mm×25mm(厚)

ユニバーサルチャージャー 40%ずつ体積を減らしている。
最小の試作品は138mm×59mm×25mm(厚)


 バッテリ充電スタンドは、特に1眼レフカメラのようにプロのカメラマンが何枚も写真を撮り、電池がすぐになくなってしまうという用途を狙っています。カメラを使わない場合には、このスタンドに差し込んで充電しておくことができます。このスタンドを使うと電池の寿命は約2倍に伸びます。このカメラスタンドも2009年に商品化します。
 3番目の応用である組み込み電池の商品化時期は、これらを商品化した後になるでしょう。燃料電池を機器に組み込む場合には、燃料タンクはカートリッジ式にします。現在、米Duracell(デュラセル)社と共同でカートリッジを開発中ですが、その内容についてはまだお話しできません。最初の応用のユニバーサルチャージャーの試作品はリフィル方式ですが、商品はカートリッジ方式に変えます。リフィルだと、メタノールの充填の仕方を100%のユーザーが理解しなければなりません。それはとても難しいため、リフィル方式は困難だとみています。

Q:液体の航空機への持ち込みは禁止されているのではありませんか。禁止されていれば携帯電話やノートパソコンを機内に持ち込めなくなります。
A:民間機の航行安全を規定している国際航空機構のICAO(International Civil Aviation Organization)では、3オンス(約88cc)以下の液体であれば機内持ち込みを2006年に認めました。ですから、カートリッジの容量はもちろん、これよりもずっと少ないですから問題はありません。ただし、具体的な承認は各国に任されています。英国とカナダ、日本、中国はすでに認可しましたが、米国は今年中に認可される見通しです。
 
Q:実際に燃料電池システムを使う場合には、Liイオン電池と比べて不便ではありませんか。例えば、燃料電池では電源をオンした後に急速に電流を流すことはできないと思うのですが。Liイオン電池では、負荷電流の変化に対応して電流を大量に流すことができます。
A:その通りです。燃料電池システムは単なる燃料電池パックだけでは使えません。私たちのこのユニバーサルチャージャーには、燃料電池エンジン(下の写真)に加え、小型のLiイオン電池とDC-DCコンバータなどパワーマネジメントICも搭載しております。メタノールと酸素との反応によって生じる水素と酸素とを反応させて電流を起こす仕組みでして、電圧は1V程度と低いです。このためDC-DCコンバータで昇圧しなければ現実の電子機器には使えません。この燃料電池バッテリチャージャーなどのパックには電子回路も入っています。


4cm角程度の小型燃料電池エンジン

4cm角程度の小型燃料電池エンジン


Q:燃料電池モジュールの価格はリチウムイオン電池と比べて高ければ売れません。どの程度の価格を見込んでいますか。
A:商品化を狙っているカメラの充電スタンドは、リチウムイオン電池と比べて2倍長持ちするわけですから同じ価格というわけにはいきません。リチウムイオン電池よりも高いことは高いですが、桁が違うような価格ではありません。しかも、量産を始めてその効果が出てくれば単価はおそらくほぼリチウムイオン並みになるでしょう。

Q:説明されたのはすべて携帯機器への応用ばかりですが、燃料電池は電気自動車にも使われます。携帯機器以外の応用についてはどのように考えていますか。
A:わが社のターゲットは、携帯機器です。自動車のような大きなエネルギーを必要とする燃料電池は今のところ考えておりません。携帯機器だけでも十分、大きな市場が見込めるからです。たとえば、エネルギー密度は昨年の試作品では1.3Wh/ccでしたが、今年は1.4Wh/ccと着実に上がってきています。ちなみにリチウムイオン電池は0.4Wh/ccですから、小型燃料電池は小さな体積で大きなエネルギーを取り出せるというメリットを生かします。

Q:来年商品化するということですが、そのための課題は何ですか?
A:今はニューヨーク州アルバニーにある本社にパイロットラインを作っていますが、量産に移行するとこのラインではとても間に合いません。今考えている量産工場はアジアです。どの地域にするか、検討しているところで、まだ決まっていません。
 また、燃料電池のエンジンは、メタル部分も含めてインジェクションモールドで作りますので、低価格化のめどは立っています。将来、リチウムイオン並みの価格にできると言ったのはこのためです。
 また、ビジネスモデルとして、自分たちのブランドにはこだわりません。顧客の仕様に合わせた製品を顧客のブランドで売ることも考えています。たとえば、デュラセル社は電池メーカーとしてのブランド力は極めて高いですので、デュラセルにはOEM供給してデュラセルブランドで一般市場へ売ることは十分にあり得ます。サムスンブランドも同様です。もちろん、MTI Microブランドで売ることも可能です。

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