KGDビジネス、特殊DRAMで独自の地位を築く台湾Etron社
Nicky C.C. Lu氏、Etron Technology社 CEO兼会長
台湾ではMediaTekやAli、Realtek、Sunplusなどファブレス半導体メーカーが意外と多い。設計ハウスも含めて225社もあるといわれている。DRAMビジネスにおいてもファブレスメーカーがいる。Etron Technology社は、元IBM社ワトソン研究所でDRAMを開発してきたNicky C.C. Lu氏が設立したファブレスのDRAMメーカーである。昨今のDRAMチップの単価下落を受けてDRAMビジネスは厳しくなっている。これからのDRAMビジネスをどう進めていくか、Etron CEO兼会長のLu氏に聞いた。
Q(セミコンポータル編集長):Etron(イートロン)社のビジネスモデルについて教えてください。
A(Etron Technology社、CEO兼会長のNicky Lu氏):Etronは株式上場したファブレス企業です。当社のビジネスモデルは二つあります。特殊DRAM製品とSiPサービスビジネスです。製品の90%は特殊なDRAMで、当社が設計したものです。10%はDRAMチップを搭載したSiPをカスタム設計して提供することです。顧客が当社にSiPの設計を依頼します。当社はKGD(Known Good Dieと呼ばれる良品を保証された裸チップ)メモリーを提供しております。顧客は当社にSoC設計を依頼し、当社はKGDのDRAMチップも搭載してSiPパッケージに収め、顧客に提供します。
このSiPは汎用製品ではなく顧客の仕様に合った設計を行います。顧客がフラッシュやSoCを持ち込み当社がDRAMと一緒にSiPを開発することもあります。特殊DRAMでは、当社はデジタル家電向けのDRAMをたくさん出荷しています。現在、月産4500万個のDRAMを出荷しています。そのうち、1000〜1500万個はKGDです。この数量はかなり多く、当社はKGDメモリーのトップメーカーです。KGDビジネスとして、パッケージする前の裸のチップ(ダイと呼ぶ)の品質を当社は保証して10年間、出荷してきました。
Q:どのようにしてダイの品質を保証しているのですか。
A:まず当社はいくつかの回路を設計し、プロトコルを使ってウェーハ上でバーインテストができるようにします。電圧、電流、温度のストレスを与え、ウェーハプロービング技術によってスクリーニングします。これを当社はウェーハバーイン試験と呼んでいます。この技術そのものは新しくありませんが、EtronはこれをDRAMに応じて最適化しました。
Q:アドバンテストもウェーハバーンイン装置を出していますよね。
A:そうです。装置やプローブカードはアドバンテストが提供しているように、特に新しい訳ではありませんが、当社はそのソフトウエアノウハウを持っています。テストするための回路を設計し、テスト手法やバーンイン手法などに独自のノウハウがあり、予測可能な技術に完成させました。時には顧客と一緒に開発します。通信用SiPは民生用SiPとは要求が違いますから、SiPごとのテスト方法をデザインします。
Q:エルピーダメモリは汎用のPC用DRAMとモバイルDRAMを生産しています。モバイルDRAMはやや専用DRAMですから製品が似ているように思います。Etronはエルピーダとどのように違いますか?
A:ソフトウエアのノウハウを持っている点が当社の強みです。DRAMはコンピュータ、通信、民生とそれぞれの分野によって品質への要求が違います。当社の強みはそれぞれの用途に応じて、KGDを使ってテスト方法や品質をカスタマイズします。
エルピーダのことを詳しく知っているわけではありませんが、アプリケーションサービスがおそらく違うと思います。当社は顧客にもっと密着しています。エルピーダのモバイルDRAMはアプリケーションスペシフィックではありません。膨大な数量のDRAMを出荷しています。われわれはもっとサービスオリエンテッドです。当社のDRAMは容量が低く、256Mビット以下です。エルピーダはもっと大容量の512Mや1Gビットを狙っています。Etronは特別なニッチ市場を狙っていますので、エルピーダとは競合しません。
Q:EtronはKGDの品質を保証できる唯一の企業ですか?
A:唯一とはいえませんが、大手の1社には間違いありません。KGDはメモリーコンビ(あるいはメモリースタック)として使います。KGDとSoCを組み合わせてパッケージに収めるのが当社の特長です。フラッシュとDRAMをスタックするのは他社でもやっていますが、特にKGDのDRAMチップとシステムチップとを積層できることが新しいところです。当社にはそのソフトウエアノウハウがあります。性能や、消費電力、高温になった接合温度など、DRAMとSoCではそれぞれ違います。メモリーはロジックと違って温度が上がりませんので、積層してもパッケージングは簡単です。
加えて、バンド幅も必要です。組み込みビデオRAMなどには高速データレートが必要な製品や接合温度が上がるものもあります。これを保証するための合否判定などのソフトウエアを持っています。他社はデバイスを小さくすることには力を入れていますが、当社は違います。一定の温度内において、高速データレートで動作するように保証します。他社にはこれはできないでしょう。
2007年の売上は400M米ドルで利益は出ています。成長し続けていますので、小さなビジネスではなくなりつつあります。
Q:DRAM出荷量の1/3のKGDについてはわかりましたが、残りの2/3のDRAMについて教えてください。
A:これらはコンシューマDRAMです。汎用DRAMの主力は1Gビットですが、当社は128Mビットと容量が低いですが、アプリケーションスペシフィックな製品を開発しています。例えば、ハードディスク装置(HDD)のキャッシュに使う製品や、LCDディスプレイの応答を早めるのに使います。液晶は、ダイポール(双極子)分子を使いますので、応答速度が遅いのです。動きの速い画面を映すには残像が残ります。だからフレームバッファにDRAMを使い、前のフレームのイメージをDRAMに貯めておき、次のフレームと連続に自然な感じでつながるようにします。LCDパネル内部に使い、テレビ受像機に入れるわけではありませんので、LCDパネルの高速化に寄与します。
デジタルカメラでも同じように画像処理にDRAMを使います。LCDメーカーごとによって画像が違うために、テーラーメイドの洋服のようにEtronが補正します。LANのルーターやワイヤレスルーターにも使います。要は、各アプリケーションに応じてDRAMに要求される仕様が微妙に違うので、テイラーメイドで設計するのがEtronの特徴だといえます。
Q:EtronのDRAMはニッチ市場狙いだといっても、最近のDRAM価格低下に対する値下げ圧力は来ませんか。
A:われわれはもっとコスト競争力をつけ、サービスを強化しなければなりません。ユーザーが利益を上げわれわれもそれをシェアする方向に持っていけば利益は確保できます。分野によってはただ低価格しかやらない製品分野もあります。そうなると、コスト競争力だけになってしまいます。
Mパート、あるいはMソサエティと呼んでいるルールがあります。Mの字は右上と左上が高く、真ん中が低くなっています。つまりハイエンドやハイアプリケーションサービスと、ローエンドあるいはローサービスがビジネスになるのです。ユーザーは価値をもっと上げようとします。ハイエンドの製品はもちろん高い価値を持ちます。ローエンドの製品は安いという価値を持ちます。しかし、もし中間の標準に向かうのなら価値は出ません。
日本のすしも同じです。北海道から今ついたばかりの魚だとおいしいから高いお金を払いますが、安い魚はおいしくありません。昨夜は焼き鳥屋へ行きました。地鶏だと高いのですがおいしい。ブロイラーは安いのですがおいしくありません。味が全然違います。おいしいものに高いお金を支払います。しかし、中途半端な製品は価値が低いのです。