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ワンチームを掲げ、サイプレスと共に成長を目指すインフィニオンジャパン

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ドイツに本社を構えるInfineon Technologiesは昨年4月にCypress Semiconductorの買収を完了し、ようやく合併作業を終えた、と思うやいなや、車載用半導体不足に振り回された。同社日本法人インフィニオンテクノロジーズジャパンも同様に悩まされたものの、自社のファブはフル稼働で対応している。日本法人代表取締役社長の川崎郁也氏に現状を聞いた。

図1 川崎 郁也氏、インフィニオンテクノロジーズジャパン株式会社 代表取締役社長

図1 川崎 郁也氏、インフィニオンテクノロジーズジャパン株式会社 代表取締役社長


Infineon全体としては、2020年度(2020年9月期末)は前年度比6.7%増の8567億ユーロ(約1兆966億円)の売上額で、営業利益率は13.7%の1170億ユーロとなった(図2)。合併したCypressの分は5月から9月までの5ヵ月分が含まれているが、これを除くと少しマイナスだと川崎氏は言う。ちなみに2019年(1〜12月)におけるCypressの売上額は22億531万ドルとなっている。


Infineon at a glance

図2 Infineonの概況 出典:Infineon Technologies


2020年は春頃に新型コロナウィルスの感染拡大を受け、工場を停止する自動車メーカーが相次ぎ、クルマ向け半導体メーカーが大打撃を受けた。中国では第2四半期になってようやく回復の兆しを見せ、後半には順調になってきたため、車載半導体メーカーも徐々に生産を回復し始めてきた。それが第4四半期に入ると回復が進み、それどころか12月になると急に不足という事態に見舞われた。Infineonは今、超繁忙期になっている。

Cypressを買収したことで、製品のポートフォリオの幅が広がると共にバランスがとれるようになった。特にセキュリティ部門は大きく変わった。以前は車載部門や産業機器部門、パワー&センサ部門と比べ、小さく、他部門との相乗効果がやや薄いように感じられた。ここにCypressが加わったことで、マイコン(マイクロコントローラ)や IoT半導体、ワイヤレス製品もこのCSS(Connected Secure Systems)部門に加わり、全体の売上額の14%を占めるようになった。この結果、製品ポートフォリオの充実だけではなくバランスも良くなった。


Infineon offers the entire system for IoT - unlocking new markets andapplications

図3 IoT向けのシステムがCypressの加入で強化された 出典:Infieon Technologies


Cypressが加わったことでもう一つ大きな変化は、車載半導体が充実したことだ。車載用半導体全体ではInfineonはNXPとほぼ互角のシェアを占めていたが、Cypressによりトップシェアになった。また、マイコンはNXPとルネサスに次ぐ16%の2桁シェアを占めるようになった。元々持っていたセキュアマイコンのAurixに、旧富士通系のマイコンTreveo IIとCypressが元々持っていたマイコンpSoCが加わったことによる。

Infineonは元々パワー半導体の王者であったから、自動車用途に限ってもやはりトップ企業であるが、センサもBoschに次ぐ2位に入っている。

ひと口に車載半導体といってもボディからクラスタ・インフォテインメント、シャシー、パワートレイン、ADASまである(図4)。例えばセンサでは、これら全ての領域に渡って使われるが、Cypressの加入はタッチセンサのTrue TouchやCapSenseをもたらし、HMI(Human Machine Interface)を充実させた。Infineonは、レーダーを高価なGaAsやSiGeから安価なCMOSへともたらし、しかもパッケージでもモールド化によって低価格に導きクルマ用レーダーの普及に貢献してきた、とあるユーザーは述べている。


Infineon has industry's broadest product portfolio covering entire range of automotive applications

図4 車載向け半導体のCypressとの補完関係 出典:Infieon Technologies


CypressのマイコンはボディとインフォテインメントでpSoCやTraveoが使えるようになり、広がった。また、メモリではCypress(旧Spansion)のNORフラッシュはクルマ用マイコンとセットで使われている。さらにSRAMやNv-SRAM、F-RAMなどもCypressのものだった。また、コネクティビティに関しても有線のUSBや、無線のWi-Fi、Bluetooth、Bluetooth LE(Low Energy)などもCypressから来ている。

急な供給不足になった車載用半導体に関しては、自社で製造しているパワー半導体とセンサはフル稼働状態に達している、と川崎氏は言う。ただ、マイコンなどのデジタル製品は外部のファウンドリに委託しているため、インフィニオン側ではどうにもならない。TSMCだけではなく、UMCやGlobalFoundriesも稼働率はいっぱいだというが、少なくとも自社製品は月産能力を上げる努力を惜しまない。Infineonはオーストリアのフィラハに300mmウェーハの新工場を建設しクリーンルームを作り、半導体製造装置を搬入も終えているという。今年末までに量産開始の予定だったが、前倒しで量産を始めたいとしている。

合併に際して最も重要な企業文化の違いを吸収できるのだろうか。日本法人はインフィニオンジャパンと日本サイプレスが一緒になることで企業文化の違いなどでの摩擦をどう避けるのだろうか。

インフィニオンジャパンの川崎社長は、「新型コロナ禍の中で、直接面会できないため統合作業は遅れ気味だが、両社ともすでに合併のPMI(Post Management Integration:経営や業務、制度、意識など統合するために必要なプロセス)プロセスを経験してきた。インフィニオンは数年前に買収したInternational Rectifier社の日本法人との合併作業を経験し、日本サイプレスも買収されたスパンションジャパンでの経験もある。このため初歩的な問題はなかった」と語る。ただし、顧客との窓口は1本化しなければならないため、セールス・マーケティングチームはコロナ禍でも最優先して1本化作業を行ったという。

そうは言っても企業文化が違いすぎると買収はしにくい。これに対して川崎氏は「インフィニオンに該当しない部署がある場合は、そのまま組織にいれるだけで、インフィニオンは当分の間、何も手を付けない。インフィニオンがその内容を十分理解するまではLift & Place(いったん棚上げにしておく)で行く。ようやく今頃になって中身がわかってきたから、これから最適化していく」と述べている。

「Infineonは企業文化を大切にする慎重な会社で、(軋轢を生むような)無理はしない。企業文化をケアしながら、1チームになれるようにワークショップの場を設けている」(川崎氏)と、時間をかけながら気を使いながら1チームを目指していく。

(2021/03/03)

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