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M&Aよりパートナー作りに注力

Tony Vento氏、National Instruments社Vice President, Systems Assurance and Partners
National Instrumentsは、1976年に設立され、GPIBバスからPCIバスを通して計測部分はハードウエアモジュールで、テスト手法はグラフィカルなソフトウエアのLabVIEWで、それぞれ行い、データ処理はパソコンで行うというプラットフォームベースの測定器を開発してきた。昨今のプラットフォームやSoftware-defined xxxというコンセプトを先取りしてきた企業だ。LabVIEWの最初のアプリケーションエンジニアだというTony Vento氏がこのほど来日、ユニークなパートナー作りについて聞いた。

図1 Tony Vento氏、National Instruments社Vice President, Systems Assurance and Partners

図1 Tony Vento氏、National Instruments社Vice President, Systems Assurance and Partners


セミコンポータル:名刺の肩書にあるシステムアシュアランス&パートナーズとは何を担当する仕事ですか?
Vento氏:この仕事を説明する前に自分のこれまでの仕事を説明しましょう。NIに入社してまず、米国から世界、特に欧州、次に日本を見るようになりました。ワールドワイドで担当するアプリケーションエンジニアでした。その後システムズエンジニアに代わりました。当初、アプリケーションエンジニアは販売後のサポートやバイプロダクトを業務としていましたが、全てを見ることになりました。
創業者であり社長(CEO)でもあったドクターT(Truchard博士)は、私の上司として私を連れて世界各地のシステムエンジニアンリングセンターを回りました。NIと一緒にやれるパートナーを探す目的もありました。だから、パートナーの役割も極めて重要で、パートナープログラムも私の仕事になりました。私の肩書であるシステムアシュアランスは、顧客が何を行っているのかを確認し、顧客の成功事例を当社のR&D部門にパートナーと共にフィードバックすることです。
システムアシュアランスでは、あるアーキテクチャやコンセプトが正しいのかどうかを検証します。その一つとしてテスト用のソフトウエアツールであるLabVIEWを使います。LabVIEWはブロック図をベースにした非常に優れたシステムツールです。ブロック図を使ってどのようにシステムを定義するか、LabVIEWはシステムを設計するうえで優れたアイデアツールです。このシステムのアイデアをパートナーと共に正しいことを確認するのです。そのアイデアをキーインダストリ、すなわち半導体テスト、ワイヤレス通信テスト、ハードウエアループテストなどに、どのように組み入れるか、このことに私は強い関心がありました。
システムエンジニアリングがスタートしたのは2004年です。当初はテキサスのオフィスにあり、その後各地に拡がっていきました。特に、2007年から2011年にシステムエンジニアリングは拡大していきます。社内には多くのシステムエンジニアを採用しました。2011年に本格的に立ち上がり、世界中を駆け巡るようになります。ドクターTはスティーブ・ジョブズの伝記も読んでいました。あなたがハイテク製品企業のCEOなら製品担当者を自分の周りに置くべきだとジョブズが言っています。ドクターTも製品担当者を周りに置きました。その一人が私です。

セミコンポータル:最近、ドクターTがCEOを辞任し、代わってAlex Davern氏がCEOに就任しました。NIは変わるのでしょうか?
Vento氏:Alexもプラットフォーム戦略を気に入っているので、これまでの戦略を引き継ぐことになるでしょう。特にATE(自動テスト装置)にもっとフォーカスし、ATEでのナンバー1を目指します。さらに顧客に特化したATEや、半導体のATE、ワイヤレス通信テスト、ハードウエアループ(HIL)テスト、IoTのテストにも興味があります。これらは重要な分野なので、フォーカスする対象です。組み込みシステムでは、もっとテストが必要になるでしょう。

セミコンポータル:高周波分野はどうなりますか?
Vento氏:当社のLabVIEWなどのテストツールはグラフィカル設計を特長としていますので、AWRの設計ツールMicrowave Officeとも似ています。
当社にとって新しいデジタル設計、すなわちEDA分野にも注目しました。AWRはRF設計ツールメーカーであり、当社とは競合しませんでした。AWRは、高周波のGHz、GaAsデバイスなどの設計に長けており、AWRの買収は良かったと思います。さらに成長し続けていまして、NIと共にグラフィックス設計を得意としています。AWRは、ソフトウエアに力を入れており、当社はハードウエアとソフトウエアの両方に力を入れています。5G時代を見据えると、高周波技術は重要になります。

セミコンポータル:半導体業界はNXPがFreescaleを買収し、ソフトバンクがARMを買収、AvagoがBroadcomを買収するなどM&Aが盛んになっています。今後はどうなるとみていますか?
Vento氏:この先のM&Aはあまり大きく変わらないのではないかと思います。M&Aは大変な労力がいりますから。NIにとって重要な分野はM&Aの対象になりますので、M&Aのことは常に頭には入れていますが、今力を入れていることは、それよりもパートナーと一緒になって開発することです。
もしM&Aを行うとすれば、両社が組み合わさることで新しい能力を持つか、あるいはもっと多くのソリューションを持つようになるかでしょうが、NIはすでに数1000社のパートナーを持っています。つまりエコシステムです。ここにもっと投資します。ここにさまざまなアプリケーションが手に入るからです。
NIにとってのエコシステムは、テストのためのエコシステムです。全てのテストと測定に必要なエコシステムであり、パートナーはみんな強力なメンバーです。他には例えばテスト自動化分野では、natural adjacency(自然に隣合った分野)と呼んでいますが、開発から量産へ移行する場合、量産のテストでは多くの時間がかかるため自動化が欠かせません。ここはビジネスが急成長している分野で、この分野に注目することはとても重要です。システムビジネスでは、たくさんのパートナーから成り立つエコシステムが、たくさんの応用には必要なのです。

セミコンポータル:半導体ではムーアの法則がそろそろ飽和し、微細化技術の進展は遅くなっていますが、もっと高性能なプロセッサは必要されるのでしょうか?
Vento氏:NIにとってはもっと性能の高いプロセッサやツールは欠かせません。常に成長分野へと行くからです。その基本はやはりムーアの法則です。それは、プロセッサやそこから生まれるアクセラレータなどの技術があります。

セミコンポータル:半導体ではよいものを安く作るための手段としてプラットフォーム方式があります。
Vento氏:成長トレンドはモジュラベースの測定器です。しかし、まだ専用のボックス方式の測定器が多いのですが、モジュラー方式は伸びています。モジュラー方式は、量産に使う場合でもより安く、オプションがより豊富で、より高速からです。もう一つは量産テストにおけるダイナミックスです。設計と結び付ければ、量産テストでも使えます。今は、ボックス方式の測定器がまだメインですが、PXIベースの測定器を導入すれば、測定するICの仕様が違っても、PXIは設計時の評価テストも量産時のテストも同じPXIシステムを使えるようになります。これがSTS(半導体テストシステム)のメリットです。もっと多くの評価項目を追加しても設計時と量産時のテストを変えることなく使えます。
幸いにもIntelはテクノロジパートナーの1社です。Intelは我々のテストの内側においても協力してくれます。エンジニアはIntelプロセッサにアクセスできます。IoTにおいてもIntelと協力しています。

セミコンポータル:IntelはXeonプロセッサのようにデータセンタ用途のプロセッサで多機能化・高速化を図っていますが、さらに機能や性能は必要ですか?
Vento氏:はい。理由は2つあります。一つはPXIには高性能マイクロプロセッサのコントローラを使っています。これを使って、マルチコアのエッジコンピューティングシステムを搭載しています。エッジデバイスにコントローラを載せるとすべてのデータを処理できます。しかも、センサを搭載しますので、センサとのインターフェースをPXIやCompactRIOのシャーシ内で構成しますので、デジタル処理したデータをデータセンタに送ります。
これは、配信するだけではなく、ソフトウエアの管理も行います。多くのソフトを使い、そのアブストラクションを集め、クラウドとのインターフェースを備え、クラウドに全てのデータを送ります。PXIやCompactRIOでも処理能力が不足していれば、さらにもっと大きなシステムを構築することになります。
もっと多くのデバイスや半導体ICを短時間でテストするためにもっと高性能なプロセッサが必要なのです。

セミコンポータル:もう一つのトレンドは、AIです。Intel AI Dayに出席し、IntelのAIにかける熱意を感じました。NIはAIに対して取り組んでおられると思いますが。
Vento氏:AIももちろん注目しています。Intelとも緊密に開発を進めています。AIはまだ初期段階ですが、常にフォローしています。もう一段階、テスト&測定は常に最先端テクを使いますので、AIとのインターフェースを構成するシステム管理ツールも重要で、クラウドで設定します。

セミコンポータル:Intelとは緊密にやっていますが、Intel傘下にAlteraがあります。NIはAlteraのライバルであるXilinxのFPGAを使ってきました。これからはどうなされますか?
Vento氏:LabVIEWとFPGAはアブストラクションです。大事なことは、LabVIEWユーザの関心はXilinxかAlteraのFPGAかどうかではありません。また、どちらも一長一短あり、どちらが良いということでもありません。FPGAをどうするかについて、まだ発表はしません。ただし、ヘテロプロセッサシステムでは、CPUとFPGAが共に使われるでしょう。Linux RTOSも使われると思います。

セミコンポータル:今回の日本訪問の目的は何でしょうか?
Vento氏:(ずばり)パートナー探しです。日本でもパートナーと一緒に共同で作業しますが、もっと多くのパートナーが必要です。
日本に来るときはいつでも顧客やパートナーにトライアングルモデルで説明します。図2が成功するためのトライアングルです。


図2 NIが提案する成功するためのトライアングルモデル

図2 NIが提案する成功するためのトライアングルモデル


パートナーとNIは対等の立場で、顧客に向けて共同で作業します。このパートナーとは、テクノロジーアライアンスのメンバーや、サプライヤなどを含みます。しかも、NIから見て、パートナーは株主を含むシェアホルダーとも同じ位置にいます。
ただ、日本は世界でもまれに極めて強い文化を持っています。それは日本語です。カスタマやパートナーを求めて何回来ても英語で対応してくれません。10年前はフランスも中国もドイツも英語を話す人が少なかったのですが、今はフランスもドイツも英語を話します。中国では4億人が英語を話すと言われています。米国の人口よりも多い数字です。これは日本が優れたパートナーであり続けることかもしれません。

(2017/05/24)
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