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イスラエルAltair、ソフトウエア無線とハードのコンビでクアルコムと競争

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Eran Eshed氏、イスラエルAltair Semiconductor社共同創業者兼マーケティングおよびビジネス開発担当バイスプレジデント

LTEに特化したモデムチップを開発、提供しているファブレスベンダーがイスラエルにいる。クアルコムと競合している2005年設立のアルティア(Altair Semiconductor)社だ。同社創業者の一人で、マーケティング担当兼ビジネス開発担当VPのEran Eshed氏との電話インタビューを通してその狙い、戦略を聞いた。

イスラエルAltair社VPのEran Eshed氏

イスラエルAltair社VPのEran Eshed氏


Q1(セミコンポータル編集長):  アルティアはLTE(long term evolution)技術に関して、今年の2月にプレスリリースを立て続けに出されています。
A1(アルティア社VP Eran Eshed氏): 当社はLTE(long term evolution)技術に特化した製品を出しています。特長は、LTEだけにフォーカスしているため、高性能で低消費電力、低コストの製品を提供できることです。2月は、MWC開催前の20日に、二つのベースバンドチップFourGee-3800、FourGee-3802と1個のRFチップFourGee-6300のチップセットを発表しました。続いて、26日には、アルティアのチップセットFourGee-3100/6202がnVidiaのTegra3タブレットのリファレンスボードに搭載されたというプレスリリースを発表しました。

Q2: 御社の特徴と製品について教えてください。
A2:  LTEの規格は世界中で40以上ありますが、全てをカバーするようにしています。FDD-LTE方式もTDD-LTE方式も両方のモデム技術をカバーしています。米国や中国、インドなどどの通信オペレータにも対応しています。それもモデムだけではなく、LTE向けのRF回路も製品化しています。
当社のLTEチップセットはすでに米国のAT&TやVerizonのスマートフォンに搭載されています。
他社の製品にはLTEの他に3GやHSPAモデムなども載せています。LTEのスマートフォンや携帯電話では、データ通信にはLTE、音声には3G/2Gを利用します。アルティアはLTEしか製品を持たないので、LTE以外のモデムは他社製を使ってもらいます。2G/3Gでは競争しません。

Q3: LTEの用途はスマートフォンやタブレットですか?
A3: はい。それに加えて、マイファイ(モバイルWi-Fiルータ)やUSBドングル、M2M(machine to machine)などの用途もあります。

Q4: LTEのさまざまな規格に対して、ソフトウエアを変更するだけでモデム方式を変更できるソフトウエア無線(software defined radio)が注目されていますが、この技術を使っているのでしょうか?
A4: ソフトウエア無線は使っていますが、それだけではありません。一部はハードワイヤードロジックを使っています。
世の中に出ているLTEモデム製品と比べると、性能的にはクアルコムのチップと競合します。クアルコムのチップはハードワイヤードロジックが中心で構成されていますので、電力効率はいいのですが、アイセラ(現nVidiaの一部)と比べるとチップサイズが大きくなります。アイセラはソフトウエア無線で全て処理しています。アイセラのチップは、DSPをフルに並べた並列動作のマシンとなっています。クアルコムのチップと比べると性能的には落ちるので微細化が必要となります。Altairのチップと比べると例えば、100Mbpsのデータレートをサポートすると仮定しますと、アイセラのチップは28nmのプロセスが必要で、1GHzのクロックで動作させなければなりません。一方でアルティアのチップなら65nmプロセスで設計し、200MHzのクロックで同じ性能を出せます。

Q5: 今回、プレスリリースで発表されたチップセットの特徴を教えてください。
A5: フレキシブルな設計のソフトウエア無線技術を使い、今回はLTEリリース10をサポートしていますが、将来のリリース11にもソフトウエアでアップグレードできます。加えて、カテゴリ4をサポートしており、将来のリリース11に向けてソフトウエアのアップグレードができます。すでに量産しているFourGee-3100/6202ではサポートしていなかったキャリアアグリゲーション技術(編集注)を使ってデータレートを150Mbpsに上げることができます。
RFチップは、送受信周波数400MHzから3.8GHzと広範囲にサポートしています。特に高周波の上限が量産チップでは400MHz〜2.7GHzでした。ソフトウエアスタックも提供します。
クアルコムも同様なチップを発表していますが、アルティアのチップはソフトウエア無線方式を使っているため、低コストで高性能です。

Q6: アイセラのソフトウエア無線技術と何が違いますか。
A6: アイセラのチップは強力なDSPを並列動作させるHSPA方式のモデムです。DSPプロセッサを走らせてモデム機能を実現しています。
これに対してアルティアのチップはアイセラほど多くのDSPは集積していませんが、複数のエレメントが入っています。回路ブロックを、ハードワイヤードモジュールと、コンフィギュアラブルモジュール、プログラマブルモジュールに分け、それぞれを性能に応じて使い分けています。
基本的なアーキテクチャはLTE専用の並列プロセッサで、性能だけを見ますと20 BIPS (billion instructions per second) と高性能です。しかも低消費電力です。プロセッサだけが電力を消費する訳ではありませんが、消費電力はざくっと言って競合品の半分です。

Q7: 設計ノードは何μmのプロセスを使っているのでしょうか。
A7: 当社はプロセスノードを公開しておりません。量産チップのFourGee-3100/6202と比べると、新製品のFourGee-3800/6300はシュリンクしていることだけは言えます。

Q8: 日本市場をどのように見ていますか。
A8: 日本市場に期待しています。かつて、ウィルコムの次世代モデムに使われたことがあります。ウィルコムはソフトバンクに買収され、このモデムはソフトバンクの認証をパスしています。アルティアはKDDIとも話し合いをしています。ただ、NTTドコモは独自のサプライチェーンを構築していますのでアプローチを変えなければダメでしょう。

編集注)
通信帯域内と帯域間で複数の無線チャンネルを束ねることでデータレートを上げる技術。帯域が20MHzだと、二つの帯域を束ねれば40MHz相当になり、データレートが上がるというもの。3G時代からも可能だった技術。

(2013/04/17)

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