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英市場調査会社から見た日本の半導体産業、コラボレーションの勧め(2)

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Malcom Penn氏、英Future Horizon社 CEO

市場調査会社フューチャーホライゾン(Future Horizon)のCEOであるマルコム・ペン氏は、世界の半導体産業をずっとウォッチしてきた。日本の半導体産業を復活させるためのアイデアを語る。

英Future Horizon社CEOのMalcom Penn氏

英Future Horizon社CEOのMalcom Penn氏


Q3(セミコンポータル編集長): フューチャーホライゾンは欧州の450mmウェーハプロジェクトについて調査レポートを最近発行しました。その目的は何ですか。なぜ調査したのでしょうか。

A3(Future Horizon社CEO Malcom Penn氏): この調査はEUの委員会の依頼を受け、2010年11月からスタートし、11年12月に終わりました。それまで、450mmウェーハ計画が一体どう進んでいるのか、装置・材料がどうなっているかわかりませんでした。半導体メーカーからのコミットメントもありません。欧州では、ファブライトやアセットライトへと進み、製造プロセスが弱くなったために450mmという先端プロセスの状況がよくわかりませんでした。

欧州の300mmファブは、インテルのアイルランド工場と、グローバルファウンドリーズのドイツのドレスデン工場などしかありません。450mmウェーハ計画はTSMCやサムスンも発表しています。もし450mmウェーハ計画が立ち上がったら欧州の半導体産業にどのようなインパクトを及ぼすのか、わかりませんでした。例えばIMECやASMLは欧州を離れ台湾や韓国、米国に行くようになるかもしれません。この調査によっていつ450mmウェーハが立ちあがるのか、また欧州から半導体プロセス技術が失われた時のインパクトについても議論しました。

調査には産業界とのインタビューをベースに幅広く行いました。インテルやTSMCのような大手企業からクアルコムやザイリンクス、ブロードコム、nVidiaなどのファブレス企業、装置や材料メーカーにもヒアリングしました。この中には公式なインタビューだけではなく、非公式なインタビューやコンフィデンシャルな情報もあり、個人的なディスカッションもありました。レポートにはできるだけ感情的な議論を排し、強み・弱み・トレンド・脅威などのさまざまな側面から分析しました。

Q4:調査の結果はいかがでしたか。

A4:ハイライトだけかいつまんでお話しすると、今のところ450mmウェーハの生産ラインは小規模生産でさえまだ見通しがつかないことです。フランスのクロレにある300mmウェーハラインでさえ、まだコスト的に見合いません。

450mmは装置が非常に大きすぎる上に、完全自動化しなければなりません。R&Dラインがそのまま生産ラインになるでしょう。これまでのウェーハは、R&Dライン、パイロットライン、量産ラインと流してきましたが、450mmのような大きなウェーハではもはや従来方式は使えません。R&Dで使った装置をそのまま使い、R&Dセンターがそのまま量産工場になるでしょう。

Q5:クロレの話が出ましたが、クロレの共同ファブはどうなりましたか。

A5: STマイクロエレクトロニクスのクロレ工場を利用する共同ファブ構想の実験が行われてきましたが、うまくいきませんでした。日本でも共同ファブ構想は失敗しました。数社で使うと、誰が責任者なのか明確ではありません。たすき掛け人事も、責任の所在をあいまいにしています。

共同ファブの見方を変えると、現在のファウンドリこそ、共同ファブではないでしょうか。今のTSMCは、STマイクロやフリースケール、ルネサスなど600社以上のカスタマが共有する共同ファブになっています。半導体メーカーも並列に使うことでリスクを減らし、運用コストも減らしています。ファブレスの大手企業はウェーハを買うのではなく、生産能力を買っています。

また、ASMLやIMECのような研究開発会社や、装置メーカーは総合的に12万人の雇用を生み出していますが、欧州のIDMは10万人しかいない上に、減少しています。日本も似たような状況です。日本はこれまで何も手を打たなかったために成長するチャンスを逃してきました。

450mm工場は新しいチャンスになります。日本も欧州も、台湾や米国にすぐにキャッチアップできます。ルネサスも富士通セミコンも東芝も450mmでリーダーになれます。装置メーカーとのコラボレーションはマインドセット(ものの見方)をもっとポジティブに考えるように改めることが重要で、日本でも欧州でも世界の装置メーカーとのコラボレーションをうまく行くように協力しあうことが大事でしょう。

Q6: 450mウェーハは、チップの微細化が行き詰まると、高集積化では大きなチップになり、これに向くのではないかと見る人もいます。どう思われますか。

A6: 通信用チップやインテルの一部のチップを除き、チップを大きくして機能を詰め込もうということは、これまでもこの先もないと思います。チップの大きさをむやみに大きくしても歩留まりが上がらないからです。集積度を上げる手として3次元という方法もあります。また、インテルは10nm未満のプロセスについても研究しています。7nm、5nmトランジスタの研究でも技術に自信を持っています。

Q7: 欧州と日本のコラボレーションについてどう思いますか。

A7: すでにIMECと日本はコラボレーションしています。ベルギーのIMECにはフランス、ドイツ、オランダ、台湾、韓国、米国などからも参加してきます。世界では、競争していると同時にコラボレーション(協調)もしています。次の10年の技術的課題を見てみると、これまで以上の変化があります。全てのプロセスノードごとに、プロセス、トランジスタ、EDAなど全ての分野で同時並列的に問題を解決しなければなりません。IMECはグローバルなコラボレーションを図ったことによって、垂直方向にももっと深く伸ばし、大成功したといってよいでしょう。

Q8: 最後に、日本が得意な技術を生かしてこれから伸ばしていくために何が必要ですか?

A8: 日本が半導体ビジネスで得意だった製品は、規模の問題を追及したメモリです。メモリは、限られた大手メーカーが大量に使うビジネスでした。日本のグローバルなユーザーは10社程度しかいない割に各社の要求する生産数量は極めて多かったために、日本の半導体企業は、ひたすら数量を追求しました。

メモリは得意でしたが、ロジックもマイクロプロセッサもあまり得意ではありませんでした。これらの製品では、マーケティングやセールスの問題を解決しなければなりません。たくさんの小さな企業にも対応するための技術を開発する必要がありました。

自動車産業は、この少量多品種に対応する生産システムを構築しましたが、半導体産業は構築できませんでした。ひたすら数量を追及してきました。欧米の半導体企業は、いろいろなタイプの顧客に対応できるようにプラットフォーム戦略を打ち出しました。いろいろな顧客のためにカスタマイズするためです。日本の半導体は数千もの顧客に対応できませんでした。グローバルマーケティング問題となると、日本はもっと難しいでしょう。

今は、これらに加えて財務問題も出てきています。欧州では、スペイン銀行への資本注入の話があり、金融業界の問題が浮上してきました。事態はより複雑になり、さらに難しくなっています。

参考資料
1. 英市場調査会社から見た日本の半導体産業、コラボレーションの勧め (1) (2012/06/27)

(2012/06/27)

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