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ソフトを変えるだけで世界各地のTVを受信できるICを100カ国に販売へ

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Ronen Jashek氏、イスラエルSiano Mobile Silicon社マーケティング担当バイスプレジデント

中東から欧州にかけての地域でイスラエルは英国に次いでファブレス企業の多い国である。イスラエルでシリコンの1チップテレビ受信機を設計しているSiano Mobile Silicon社から電話インタビューの誘いが来た。Siano社とは何者か。何を狙い日本のメディアに接触したか、そのファブレス企業の強みについて紹介する。

図1 Siano Mobile Silicon社マーケティング担当バイスプレジデントRonen Jashek氏

図1 Siano Mobile Silicon社マーケティング担当バイスプレジデントRonen Jashek氏


Q1(セミコンポータル編集長):Siano社はテレビ用の半導体ICを開発しています。なぜ、今そのような半導体を開発したのですか。
A1(Siano社VPのRonen Jashek氏):当社は2004年設立のファブレス半導体企業です。設立した当時、テレビ受像機は世界的にアナログからデジタルに移行することが決まっていました。当社は放送用半導体チップにフォーカスしていますが、それは各国で規格の違うデジタルテレビ放送受信用のチップとして世界中に供給できると思ったからです。
会社設立後に大きな革新技術を開発しました。それは一つのハードウエアチップでいろいろな国の標準規格に対応できる技術です。デジタル放送は世界中で多種多様な方式が使われることになっており、しかも地上波デジタル放送だけではなく、携帯電話機に搭載するモバイルテレビ放送も含めると、規格は非常に多いです。

Q2:その技術は、同じハードでソフトウエアだけを変えることでさまざまな方式に対応できるソフトウエア無線(software defined radio)と同じと考えてよろしいですか。
A2:基本的にはそうですが、ソフトウエア無線はベースバンド回路の復調方式をソフトウエアで変える技術ですが、当社のチップはRF回路部分も各方式ごとに変えられます。ですから厳密にはソフトウエア無線とはいえないと思います。

Q3:デジタルテレビ放送受信機の市場をどのように見ていますか。
A3:デジタルテレビは 先進国から発展途上国まで極めて幅広く、100カ国で使われます。私たちは100カ国に売れるチャンスがあります。もちろん、各国ごとに事情は違います。日本はモバイルテレビが非常に盛んですし、国によって規格が全く違います。WiFiやBluetoothは世界で規格が統一されましたが、デジタル放送受信機は国ごとに違うため、当社のソフトウエアで仕様を変えるという技術は中国のような独自仕様の国には対応しやすいのです。当社はすでに中国市場で50%のシェアを持っていますし、ブラジルをはじめとする南アメリカ市場でも40%のシェアを持っています。ブラジルは日本と同じ、ISDB-T方式ですので、日本市場への参入も狙っています。米国はATSC方式で市場はまだ小さく2社しかプレーヤーはいませんが、当社はそのうちの1社です。ちなみにもう1社はLGです。

Q4:英イマジネーションテクノロジーズ(Imagination Technologies)もマルチスタンダードのテレビ受信用IPを出していますが、これとの違いは何ですか?
A4:他社の技術はよく知りませんが、イマジネーションはIPを販売していて顧客は半導体メーカーです。当社はチップを売っていますので、ビジネスモデルが全く違います。しかもテレビ受信回路の全てを設計しますので、IPとは異なります。

Q5: かつて米国のベンチャー企業でXceive社がシリコンチューナーチップを開発していました。シリコンラボ(Silicon Laboratories)社もテレビ用チューナーチップを出しています。これらとの違いは何ですか。
A5:これまでのテレビ用のシリコンチューナーはRFチューナーだけでした。しかも、性能はまだ満足できるものではありませんでした。当社のICはRF回路とベースバンド復調回路の両方を持っていますので、アンテナ入力から、出力はアプリケーションプロセッサ等のホストマイクロプロセッサと直結できます(図2)。


図2 入力はアンテナに、出力はプロセッサに直結

図2 入力はアンテナに、出力はプロセッサに直結


しかも入力感度は-99~-100dBmと極めて高く、チューナーの性能としてはシリコンでは最高です。携帯電話やスマートフォンでは屋外だけではなく室内でも見られるように感度が高くなければユーザーは満足しません。しかもマルチパスによる信号品質の劣化に対してもプリイコライズ、ポストイコライズ処理を施し、S/N比(ノイズに対する信号の比)を改善しています。
さらにメリットは高速で移動しながらでもデジタル放送をきれいに受信できることです。当社のチップは時速200kmの自動車や鉄道で移動しながらでもテレビ映像が途切れることなく受信できます。
携帯電話やスマートフォンにも搭載しますので消費電力も少ないです。方式にもよりますが日本のワンセグなら78mW、フルセグでさえ230mWしかありません。中国のCMMB方式なら40mWと最も少なく、しかも感度は-100dBmと最も高いです。欧州市場のDVB-T方式(携帯ではなく据え置き型の地デジ)だと190mWです。

Q6:テレビチューナーのように高周波回路ではバイCMOSやSiGe、SOIなどのプロセスを使う例が多いですが、1チップのデジタルテレビを実現した技術は何ですか。それを採用した理由は。
A6:バルクのフルCMOSプロセスです。理由は携帯機器での利用には低消費電力化が欠かせないからです。最初のデザインではフルCMOSで高周波回路を実現することが難しかったのですが、CMOSプロセスは成熟しています。何μmプロセスかは言えませんが、CMOSプロセスは集積しやすく、ファウンドリも確立しています。TSMCやSMICなどのファウンドリにプロセスを依頼しています。

Q7:チップを購入する顧客はどのようなメーカーですか。
A7:顧客というより当社はチップをミツミやアルプスなどのチューナーモジュールメーカーに供給しますので、彼らはパートナーになります。そしてチューナーメーカーは携帯やスマホなどのセットメーカーにモジュールを売ります。シャープやソニー、富士通などがセットメーカーです。当社はセットメーカーにチップを直接売ることはしていません。

Q8:ユーザーから求められる要求で最も優先度が高いのは何ですか。小型化、低消費電力等の要求がありますが。
A8:小型化よりも高品質です。非常に高い品質を求められますので、これに応えるように努めています。

Q9:最後に日本市場へのアプローチについて教えてください。
A9:実は日本市場への参入は出遅れました。というのは当初、私たちはISDB-T方式をサポートしていなかったからです。しかし、日本のISDB-Tを導入した南米で市場参入に成功したため、日本市場にも参入していきます。ユーザーの要望によっては日本にオフィスを設立するつもりです。来年には新製品を日本市場に向けて投入します。その時に新サービスも提供するつもりです。

(2011/08/10)

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