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「危機はチャンスでもある」を実践するインターシル、2年で6社を買収

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Dave Bell氏、米Intersil社 CEO

インターシルは「2008年12月には受注ゼロという異常事態を迎えた」とCEOが語るように今回の不況で大打撃を受けた。しかし、危機はチャンスでもあるとは日本の経営者もよく述べてきたが、インターシルは昨年、賢いアナログ技術のクェランやパワーマネジメントのロックセミ社などを買収、そのチャンスを実践した。ベルCEOはその成長戦略を語る。

米Intersil社CEO Dave Bell氏

米Intersil社CEO Dave Bell氏


Q1(セミコンポータル 津田編集長): インターシルは以前、Wi-FiチップIEEE802.11bで大きなシェアを占め、名を馳せていましたが、802.11aが出てくるとWi-Fi-チップビジネスをやめました。この戦略的なアプローチについてお聞かせください。
A1(インターシル ベルCEO): 日本の半導体メーカーは変化を好まないようですが、この市場は極めて早く変わってきています。ですから素早い戦略の変更が重要になります。Wi-Fiチップからの撤退はとても好例ですね。インターシルは2000年の初めころまで非常にたくさんの製品を扱っていました。2003年、インターシルの802.11bチップは73%の市場シェアを占めていました。しかし、リッチ・べア氏(現在フリースケール・セミコンダクタのCEO)がCEOになり、Elantecを買収しました。
この時、ベア氏はインターシルのビジネスがコモディティ化し、利益が減ってきたことに気が付きました。そこで、Wi-Fiチップの開発をやめ他の企業に売りました。加えて、パワーMOSFETビジネスも売りました。
この後からインターシルは利益が増えてきました。ただ単に利益が出なくなったビジネスを止めるのではなく、インターシルの成長戦略に沿って同じように成長トレンドに沿った企業は買収します。この2年間で6社を買収しました。例えば、高速通信技術のクエラン(Quellan)やデジタル電源のジルカー(Zilker Labs)を手に入れました。この4月にはビデオやサーベイランスのテックウェル(Techwell)社を買収しました。

Q2: なぜテックウェルを買収したのですか。
A2: 理由はいくつかあります。まず、テックウェルが持つビデオ市場が今後伸びるというトレンドがあります。シスコシステムズ社のジョン・チャンバースCEOが述べているように、これからのビジネスをドライブするのはビデオ応用です。広いバンド幅への要求は携帯電話だけではなく民生用のゲーム市場にもあります。
二つ目の理由は、テックウェルの技術がインターシルにはないからです。買収によって補間関係ができます。三つ目は、テックウェルはセキュリティ向けのビデオデコーダICで70%もの市場シェアを持っています。四つ目は、今後自動車用のビデオ市場も伸びるからです。カーナビゲーション用のディスプレイにカメラ映像を映し、カメラはバックモニターやミラー代わりにビデオ映像を映します。さらに工業用のビデオ市場もこれから伸びます。これもインターシルの成長戦略と一致します。
最後の理由は財務的なことです。インターシルは総利益(粗利)が大きく、営業利益も小さくありませんが、テックウェルも総利益・営業利益とも大きく財務が健全だからです。テックウェルのCEO兼社長は日系アメリカ人のヒロ・コザト氏です。

Q3: テックウェルを含めこの2年で6社を買収しましたが、買収する基準は何ですか。
A3: 買収する企業は当社が買えるサイズとしてはちょうど良い大きさの新しいベンチャー企業です。まず、彼らは素晴らしい技術を持ち、買収によってその技術を当社にもたらしてくれます。ただ、テックウェルだけは上場済みの企業です。
二つ目の理由は、買収によって新しい市場、新しいカスタマを開拓できることです。三つ目は働く人たちが健全で一緒にやっていけそうだからです。これら、技術・新市場・人、という3つの要素がカギを握ります。

Q4: 買収した他の企業の特長は何ですか。
A4: D2AudioはD級アンプ、すなわちデジタルアンプを得意とするところです。DSPを含むデジタルアンプです。
KEnetは高速・低消費電力のA-Dコンバータを設計する会社です。通信や医療用、計測機用のA-Dコンバータとして最適です。例えば分解能20ビットでサンプリング速度が500Mサンプル/秒のA-Dコンバータの消費電力は競合他社の2.2Wに対して0.4Wしかありません。
Zilker Labsは、デジタルパワーマネジメントのICのリーダーともいえる企業です。今立ち上がったばかりの技術を持つ企業です。
Quellanは、2製品あります。一つは高速信号を低消費電力で送るためのケーブルイコライゼーションのチップです。データセンターなどで使うHDMIや民生などのDisplayPortインターフェースに使えます。従来のパッシブ方式なら3mのケーブルでしか信号を送れませんが、このチップを使えば20mでも送ることができます。もう一つのチップは、ワイヤレス機器のノイズキャンセラです。スマートフォンやノートPCなどWi-FiやBluetoothなど異なる規格の通信回路を搭載したデバイスのノイズ干渉を抑えます。
RockSEMIは初めての中国企業です。武漢や上海にデザインセンターを置き、スマートフォンやPCナビゲーション向けのパワーマネジメントICを設計します。
テックウェルは先ほど述べたとおりですが、彼らはすでに世界各地18カ所以上にデザインセンターを持っています。

Q5: 今回の世界不況に対して、危機はチャンスでもあると日本の企業は言いながら、買収などはほとんどしません。危機はチャンスですか。
A5: 危機は、未上場企業にとっては死活問題です。ですから、不況時は企業を買いやすいのです。インターシルから見ると、これは「正しい危機(right crisis)」です。

Q6: 日本の企業はファブライトとかアセットライトとか製造設備を軽くする方向に向かっています。インターシルはファブについてどのように考えていますか。
A6: 25年ほど前、AMDのジェリー・サンダースCEOは、「本当の半導体企業はファブを持つものだ」と、言っていましたが、今は昔ですね。実は最初にアセットライトを打ち出したのはこのインターシルです。
私たちの基準ははっきりしています。標準プロセスで作れるICはファウンドリを使い、特殊なプロセスではないと作れないようなICは自前のファブを使います。75%のICがファウンドリを使いますが、衛星通信用の耐放射線デバイスなどの特殊なプロセスが必要なICに限り自社のファブで生産します。特殊なプロセスはファウンドリにはないからです。 自社ファブを使う製品は残りの25%です。

Q7: 先ほどパワーMOSFETビジネスを売却したと述べましたが、パワーMOSFETは今後電力向け市場に需要があると思います。なぜ売ったのですか。
A7: 理由はマージンが小さいからです。売却した時はもはやコモディティとなっていました。私たちはプライスのみの競争となった製品をコモディティと定義します。総利益(粗利)は56〜57%くらいはありますので、この割合を確保できなければコモディティになるでしょう。
ただ、パワーMOSFETをモノリシックにシリコンに集積する製品やあるいは2チップで1パッケージに収める製品など、コントローラも含むような応用では、パワーMOSFETデバイスは作ります。

Q8: 将来のパワーMOSFETとしてGaN MOSFETは開発しますか。
A8: 高電圧・大電流デバイスとして、米国ジョージア工科大学と共同開発することを昨年秋に発表しました。 商用化は数年先、2〜3年後かもしれません。GaNデバイスの基板としては、バッファ層付きのシリコンやサファイヤ基板などを検討しています。ただ、SiC基板は高価すぎますので、選択肢にはおそらく入らないでしょう。

(2010/06/23)

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