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ネット、安全・ヘルスケア、環境に注力する組み込みプロセッサ企業へ脱皮

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Rich Beyer氏、取締役会長兼CEO、Freescale Semiconductor

米フリースケール・セミコンダクタ社の取締役会長兼CEOであるRich Beyer氏は、この1年間の経済不況後の成長への道筋を描く成長戦略をFreescale Technology Forum 2009で発表した。攻めていく分野は3つある;ネットワーク、安全・ヘルスケア、環境である。これらの共通項は、「組み込みプロセッシングに注力する会社」(Beyer氏)である。

Freescale Semiconductor取締役会長兼CEO、 Rich Beyer氏


フリースケールは稀にみる世界の大不況で沈んでしまわないために、なおかつ不況が来る前にも携帯電話事業の一大顧客であるモトローラ社の携帯電話が市場シェアを大きく落としたことによる痛手を回復させるためにも、この1年間は選択と集中を行ってきた。携帯電話事業は撤退した。RFとベースバンドをまとめて売却しようとしたが、かなわずRF技術だけ富士通に売却した。一方で、自動車、民生、産業、次世代通信ネットワークの分野で顧客へのソリューションビジネスへと変えてきた。製品としては、プロセッサやマイコン、DSP、アナログ、RF、センサー、ソリューション向けのソフトウエアに注力する。

製品の選択と集中だけではなく、製品開発サイクルを早めたり、サプライチェーンやセールスチャンネルなど製品の流れのボトルネックを解消したりすることも進めてきた。体質改善の結果、モノづくりの基本であるハードウエアに注力し、特に組み込みプロセッシング技術に強い会社へと変わるという。

例えば、得意なセンサー、アナログ、RF、ネットワーキング技術を利用してインテリジェントな工場を構築する。エネルギー効率が上がり、CO2削減になる。この得意な技術を民生やエンターテインメント分野にも応用する。組み込みシステムでは、ソフトウエアの開発や、迅速にソフトやハードを開発するための開発ツールも手掛けている。「最良のカスタマソリューションを提供する」と同氏は述べる。

そのための技術もきっちりと揃える。次世代通信用ネットワーク用のプロセッサでは、マルチコア化が不可欠。そのためにマルチコアプロセッサ用のソフトウエアVortiQaを開発した。マイコン開発を迅速に行うためのラピッドプロトタイピングのツールとして、さまざまな技術の組み合わせや開発ボード、センサーボックス(さまざまな種類のセンサーを揃えたメニュー)、センサー信号を検出し、信号処理するためのセンサーアルゴリズムなどを用意する。さまざまな技術を定義し組み合わせるのである。フリースケールはこれができるユニークな企業だと、同氏は言う。

ネットワーク、安全・ヘルスケア、環境がトレンド

今の大不況時代は、むしろ最良のビジネスチャンスだ、として時代のトレンドを捕まえ、それにフォーカスしようとする。フリースケールは3つのトレンドに注力することを決めた。1つはマルチメディアコンテンツを載せるネットワークの効果、2つ目は安全・健康やヘルスケアを常時モニターするシステム、3つ目は環境(Going Green)である。

ネットワーキングでは、高速インターネットと検索エンジンのおかげで、YouTubeやニコニコ動画を見ることができるようになった。アジアでは70%の人がビデオをインターネットで見て、米国人の90%がビデオだけを見るという。さらに、携帯ブロードバンド先進国の日本や韓国では7000万人もの人が携帯電話でテレビを見る。オンラインビデオを実に多くの人が見る時代になると、もっと高速のネットワークが求められる。LTE(long term evolution)への移行は間もなく始まる。

安全・ヘルスケアでは、リモート診断によって病気の早期発見・早期治療を実現することで生活の質(QoL)を上げていく。糖尿病のモニターなどによって疾病を予防する。そのために医用とIT、ワイヤレス技術との組み合わせによって患者の体をモニターし、病気の予防に努める。32ビット組み込みシステムとDSP、センサーによって正確で確実なデータを、リアルタイムでとり、病院へ送ったり、データを保存したりする。

安全の分野も重要で、自動車の事故防止用の組み込みシステムにも力を入れる。これまでは事故が起きたら命だけは助けようというパッシブな手法が主流だったが、フリースケールは事故を起こさないように予防するアクティブセーフティという手法を導入する。FTF09において発表した、タカタの車線逸脱警報システムSafeTraK(TM) 3 LDWシステムにフリースケールの16ビットS12マイクロコントローラとアナログ出力ドライバIC MCZ33810を組み込んでいる。このシステムでは居眠りするとクルマがふらついて走行することも検出するとしている。アクティブセーフティには、センサーと組み込み制御システム、ワイヤレス通信技術が欠かせない。

Freescale Semiconductor取締役会長兼CEO、 Rich Beyer氏


環境については、すべてのエネルギーを経済的に考えてその効率を上げることが必要になる。産業用、ロボット向けなどエネルギー効率を上げる方向に持っていく。民生市場では、待機電力の低減こそが重要で、待機電力を削減するバンパイヤエレクトロニクス(vampire electronics:吸血鬼(vampire)のような待機電力の垂れ流しを止めるエレクトロニクス)がカギを握る、とBeyer氏は述べた。

規格統一のためのDSIコンソシアム、新製品発表

以上、三つの大きなトレンドによって成長するチャンスがある、と同氏は見る。自動車市場では、中国とインドが台頭してくるのは時間の問題であり、中国は今年中に米国を抜き世界最大の市場になる。2012年にはインドも成長を遂げ、自動車市場は中国とインドが大きくなる。問題は、安全性と国際的なベンチマークだろうと、Beyer氏は述べ、安全性はエレクトロニクス化で実現できるが、その基準については国際的に統一したベンチマークを使うべきだろうという。例えば、エアバッグシステムの標準仕様を作るためデンソー、TRWオートモーティブとともにDSIコンソシアムを立ち上げた。

フリースケールは携帯電話機向けビジネスはやめたが、通信インフラ向けのビジネスには力を入れる。通信用プロセッサやDSPはますます高性能を求められる。フリースケールは、6コアを集積したマルチコアDSP MSC8156や、ネットワークをはじめとする組み込みシステムの新しいマルチコアプロセッサQorIQ(クォアイキューと発音)シリーズも発表した。マルチコアのこれらのシリーズは3Gや4G、LTEの基地局に入っていくとみている。さらにマルチコアプロセッサ用ソフトウエア開発システムVortiQaは、プロセッサを熟知したサードパーティがソフトウエアを開発するためのもの。

将来は、スマートグリッド向けの半導体も狙う。今でも欧州で使われている自動検針システムをさらに進化させたスマートメーターは、単なる検針機能だけではなく、双方向通信ができ、LCDドライバやマイコン、ZigBeeソリューションなども備えたインテリジェントなシステムとなる。

また、従来は売り上げの25%以上とモトローラ社に大きく依存していたが、その売り上げ比率は今10〜12%程度にとどまっている。モトローラ向けの携帯電話チップセットは減少したが、ネットワークやセットトップボックスなどの用途向けのチップは増えていくため、モトローラ向けの売り上げ比率は10〜12%から大きく下がることも上がることも、もはやないだろうと、Beyer氏は見ている。

(2009/09/11)

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