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「ちょうどいいプロセッサの時代がやってきた」応用拡大を図るARMの戦略を語る

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Warren East氏、英ARM社、CEO

世界の半導体産業の成長率よりも常に高い成長率を確保する英ARM社のビジネスの秘密は何か。これまで携帯電話におけるアプリケーションプロセッサやベースバンドプロセッサで圧倒的なシェアを占めてきたARMのプロセッサIPが、ネットブックやスマートブックと呼ばれる携帯型パソコンへの応用拡大を図っている。実はプロセッサと実需要との関係から最適なプログラムサイズのプロセッサ(right-sized computing)の時代がいよいよ来たと同社CEOのウォレン・イーストCEO(写真)は語る。

Warren East氏、英ARM社、CEO


これまでARMのIPコアを使用したチップは世界中で150億個が出荷されている。2008年だけで40億個にも上る。プロセッサのライセンスは200社に600件、供与してきた。こういった実績は、半導体産業の水平分業のブームにうまく乗り、ビジネスモデルの構築、ビジネス分野の拡大、技術開発への投資を続けてきたことによる。水平分業ではパートナーシップは欠かせない。イースト氏は、「パートナーシップこそが成功するためのカギ」と断言する。水平分業だからこそ、川上・川下の相手とパーソナーシップを組む。それぞれのパートナーは自分らの得意な技術に集中できるため、それぞれの分野でイノベーションが生まれてくる。

ARMは世界の半導体産業の伸びに比べ10%ほど高い伸びを示してきたという。昨今の経済不況にも堅調な成長が期待できるとする。ARMのビジネスモデルは、ライセンス、ロイヤルティ、サービスの3つの収入ならなる。ライセンスビジネスは毎年60〜70件のペースで成長していく。ロイヤルティビジネスは携帯機器がもっと賢くなり、非携帯分野で市場シェアを増やせば収入も増えていく。3つの収入のうち、「ロイヤルティ収入が全社売上のほぼ半分を占める」とイースト氏は言う。


ARMのライセンスビジネス


携帯電話が賢くなったスマートフォンや、ネットブックが賢くなったスマートブックなどによって、なぜARMの収入が増えるか、イースト氏は明快に説明する。機能の少ないローエンドの携帯電話に入っているローエンドのベースバンドチップのロイヤルティ価格を1とすると、スマートフォンでは7になる。その内訳は、アプリケーションプロセッサが3、3GのベースバンドICが2、WiFiが1、Bluetoothが1である。アプリケーションプロセッサや3Gベースバンドチップには高度なARMプロセッサを搭載し、WiFiやBluetoothには比較的ローエンドの向けの安いIPコアを搭載している。例えばCSR社以外のBluetoothチップのコントローラにはARM-7プロセッサが使われているという。WiFiでもAtheros以外のチップにはARMのIPコアが使われているとしている。


End Goal - Increasing the ARM Value


スマートフォンにはARMコアだけでも7個分使われているため、スマートフォンが売れるたびにロイヤルティ収入が増えることになる。スマートブック(イースト氏によると「ネットブックよりは機能が高く、スマートフォンのようにメールができる」)だと、1台当たりのロイヤルティ収入は12個分相当のコアの収入が入いることになる。ARMが脱携帯電話を標榜し、スマートフォンやスマートブックに力を入れる理由は1台売れるたびに、7〜12個のIPコア相当のロイヤルティ収入が入ってくるからだ。

しかも、スマートフォンやスマートブックでは、性能や消費電力、ソフトウエア規模などがちょうどいいサイズになっている。イースト氏が意味する「ライトサイズドコンピューティング」とは、まさに「ちょうどいいサイズのプロセッサ」のことだ。プロセッサのコード効率を上げ、できるだけ軽いソフトウエア(プログラム行数の少ない)を作れば、使用するメモリーが少なくて済む。

同氏によると、パソコン用のプロセッサはひたすら性能を上げることに努力してきたが、実際に使うコンピュータの能力はFacebookやSkype、YouTubeなどそれほどの計算能力の必要のない用途をユーザーは要求してきた。これまでのプロセッサはユーザーの機能を実現するのには、いわばオーバースペックだったという訳だ。これからのノートパソコンやスマートブックでは、ちょうどいいサイズのソフトウエアで済むようなプロセッサを使おうという動きが出ている。パソコンに関しては性能よりは低消費電力すなわちCO2排出量の少ないパソコンにし、環境や世界の子供たちが使いやすい性能や消費電力、価格へ持っていくべきだとする。

今後、スマートブックは一日中つけっぱなしで、インターネット接続しており、ビデオやオーディオを楽しめる端末になる。プロセッサはこういった使い方に耐えられるくらい消費電力が少なく通信がセキュアでマルチメディア機能が充実している必要がある。そのためにはさまざまなOSが選択肢に入り、Web 2.0をサポートするアプリケーションプラットフォームが要求される。「今回のComputex台北でこういった動向が見られた」とイースト氏は語る。

ARMがIPコアの応用を拡大するのは、こういったアプリケーションプロセッサやベースバンドなどの特定用途のICチップを使う分野だけではない。マイクロコントローラ、すなわちマイコンでもプロセッサ部の市場シェアを奪おうと虎視眈々と狙っている。特にマイコン分野では標準となるようなコアをビジネスとしていく。

今後ともARMは世界の半導体成長率よりも高い成長率を維持し、さらにイノベーティブなIPコア製品を開発し続けていく。R&D投資は売上の30%と高い。これまで通り毎年1~2個のIPコアを世の中に出していく。プロセッサがもっと革新的になり、より賢くなれば通信や、コネクティビティ、ヘルスケア、環境などの分野でもっと賢い半導体をデバイスメーカーが生み出すだろうと期待する。「これからも、世界のGDPよりも半導体産業の方が高い成長率で発展していく」とイーストCEOは見ている。


(2009/06/04 セミコンポータル編集室)

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