MEMSの進展から見えてくる、これからのMEMS市場の広がり
MEMS(Micro Electro-Mechanical Systems)の国際会議「The 15th MEMS Engineer Forum」が先月、東京で開催された。MEMSデバイスは、加速度センサ・圧力センサからマイクロフォン、RFフィルタ、超音波トランスデューサなどさまざまな応用に使われてきた。欧州勢は、自動車市場やスマホ市場などでMEMSデバイスを発展させた。次のMEMSデバイスは何か。
![MEMS Product Introductions / Kurt Petersen](/archive/editorial/conference/review/img/20240514-MEMS_Product_Introductions.png)
図1 MEMSデバイスの商品がますます広がっていく 出典:Kurt Petersen
SiTimeの共同創業者であり、MEMS分野でデバイス開発を進めてきたKurt Petersen氏は、これまでのMEMSの歴史を振り返り、圧力センサから始まって、加速度センサやジャイロなどの慣性センサ、DLP(Digital Light Processing)プロジェクタ、MEMSオシレータなどMEMSデバイスの応用が大きく広がってきたことを伝えた(図1)。MEMS加工による微細なマイクロ流路は、新型コロナの診断で活躍した。
MEMSデバイスの産業的なインパクトは、スマートフォンで導入された加速度センサやマイクロフォンなどだろう。スマホの向きを変えると画面が90度変わったり、歩数計の役割を果たしたり、楽しい機能を加えただけではなく、マイクロフォンは音声入力だけではなくノイズキャンセラーにも用いられている。AIスピーカーに呼び掛けて音声で命令するにもMEMSマイクが使われ、音声のビームフォーミング技術で指向性を強めることもできている。またDLPプロジェクタはほとんどの映画館に導入され、今やデジタル映像が映画界の常識になり、配給システムにも大きな影響を与えた。
数量の多いスマホ向けでは、2015年に14億台のスマホが出荷され、そこに搭載されたMEMSデバイスは50億個に達した。面白いことに、スマホの出荷台数は2022年に12億台に減少したのにもかかわらず、スマホに搭載されたMEMSデバイスは55億個と逆に増えたのである。新型のスマホ市場はほぼ飽和しているため、2028年には出荷台数はさらに11億台と減少するが、搭載されるMEMSデバイスの出荷数は56億個に増える、と市場調査会社のYole Developpementは見ている。しかもこの数字にはスマホの高周波フィルタに使うRF MEMSや、データセンター向けに正確なクロック信号を送出するMEMSタイミングデバイスも含んでいないという。
意外とMEMSデバイスが搭載されているデバイスとして、ワイヤレスイヤホンやスピーカーであるTWS(True Wireless Stereo)デバイスがある。Yoleによると、ワイヤレスイヤホンTWSは2020年に3億個出荷されたが、MEMSデバイスはその4倍の12億個出荷された(図2)。2028年にはTWSイヤホン4億台の出荷に対して、MEMSデバイスの出荷数は25億個になると予測している。1台のイヤホンにマイクロフォン2〜3個にマイクロスピーカー、慣性センサなども載るようになるからだとしている。
図2 ワイヤレスイヤホンTWSに使われているMEMSは多い 出典:Yole Developpement
MEMSを実装するデバイス商品の出荷数が飽和しても、MEMSチップそのものは逆に増えていくという現象は自動車産業と似ている。自動車産業では新車の出荷台数は2000年以降全く伸びていない。しかし自動車に実装される半導体の数は伸びる一方で、半導体チップの集積度も上がる一方になっている。MEMSも集積化の方法は強まっている。MEMSチップをCMOS信号処理IC上に積層することが増えつつある。
MEMSデバイスが生産性良く製造できるようになった理由は、シリコンメンブレンを作るために必要な深いエッチング(Deep Reactive Ion Etching)が使えるようになったことが大きい。Kurt Petersen氏は、垂直にまっすぐエッチングするBoschプロセスを開発したBoschのFranz Laermer氏と、それを実現するDRIEエッチング装置を開発した住友精密工業の社長を務めた神永晉氏を称えた(図3)。神永氏はDRIE装置の商用化によりIEEE Robert Bosch賞を受賞している。
図3 Deep RIE技術と装置の開発者Franz Laermer氏(左)と神永晉氏(右)出典:Kurt Petersen
MEMSデバイスの製造を推進するSTMicroelectronicsは、pMUT(圧電マイクロマシン超音波トランスデューサ)デバイスを従来のバルクのPZTデバイスから、薄膜のSc(スカンジウム)ドープのAlN膜を置き換えることで鉛の量を99%除去するサステナブル技術を開発している。pMUTアレイを構成し、超音波を発生しそのToF(Time of Flight)から顔認証や、体内組織の検査に応用しようというもの。これからの新しい応用となる。
今後、50GHz程度までのマイクロ波スイッチや、医療向けに正確な眼圧測定デバイス、2D/3Dの超音波を使ったイメージング技術などにもMEMSの応用が開けている。バイオやメディカル、ヘルスケアなどの医療分野に向けたMEMS開発は始まったばかりだ、とPetersen氏は述べている。MEMSデバイスの応用は、これからも留まるところを知らない。