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姿を現わしつつある米国のDX:5G・IoT・APC ・Industry 4.0 (4)セキュリティ

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連載第4回は、DC5G会議レポートの最後のパートである。ここでは、セキュリティについて議論している。セキュリティに関しては民間企業(T-Mobile)と国家安全(US Air-Force)に携わる人間とでは違いは大きい。脅威の源を政治扱いするか否かという違いであるが、いずれもセキュリティを確実にすべきという考えに違いはない。(セミコンポータル編集室)

著者:AEC/APC Symposium Japan 前川耕司

前回まで、第二ラウンドとも言える、ブロードバンド事業以降への、5G技術の展開を述べてきた。この項では、見方を変えて、国家安全保障の観点より、5G技術との接点を述べることとする。

1-5. 技術に関するセキュリティ:国家と民間企業

デリケートな部分に踏み込む議論であるため、ITTAのScience and Technology担当ManagerのRobert Shields氏に彼の見解をもらい、まとめてみた。

T-Mobile 社のCyber Security Technology and Engineering Program 担当DirectorのDrew Morin氏と、Hudson InstituteのSenior Fellow でありUS Air Force のSpecial Assistant to the Vice Chief of StaffのRob Spalding氏(博士)の議論は、注目の的だった。

Morin氏は、次のように述べている。5Gは初期には、4G技術用のネットワークを使い普及に弾みをつけようとするであろう。しかしながら、2020年以降はネットワークスライシング(編集室注)を伴う、5G 固有のネットワークが必要とされてくる。5G固有のネットワークはクラウドをプラットフォームにする。この時点で、サイバーセキュリティの問題が浮上するわけである。

Spalding氏は、(国家安全保障レベルの話であるが、と断ってから)現時点で、民間企業によって構築されている5G技術のセキュリティレベルは、他国からの脅威に対して、十分ではないと指摘する。他国とは中国を意味する旨と解釈できるが、彼は特定の国の名前には決して言及しなかった。5G技術全般に関して、米国と共に民主主義の原則を受け入れている国の人々が使用する技術は、その原則を受け入れない国からの脅威に対して、十分なセキュリティを持つべきである。新しい技術においては、このような原則を重視すべきである。政治に関わる部分があるせいか、彼の発言は慎重であった。

Morin氏は、他国からの脅威には理解を示しながらも、官民協調でのHuawei社も参加した上での、新しい5Gネットワークシステムの構築が必要であると主張した。従来よりも格段に優れたセキュリティ機能を備えた新しいネットワーク が必要で、3GPPの標準化に加えられるべきである。Morin氏は、このようなアプローチが政府主導で始められるべきとした。さらに彼は、クラウドを基本とするネットワークのセキュリティに言及し、クラウドシステムの方が現行のシステムに比べ、セキュリティ上で優れている旨について述べた。


5G  Security Domains, Drew Morin, T-Mobile

図1.19 5Gの セキュリティドメイン 出典:5G Security Domains, Drew Morin, T-Mobile


この議論の根っこにあるのは、Huawei社からの脅威に対する米国政府と民間企業のスタンスの違いである。米国で近年広まっている、ビジネス関係でのエコシステムの概念(ゆるい協力)が、どこまで広がって良いのかという問いだ、と解釈している。民間における技術開発やビジネス主導の考え方では、競合会社を含むエコシステム的な取り組みは、ユーザーにとっては、利益となってきて、さらなるマーケットの拡大に繋がっていく。冷戦後、米国一強の時代が続いていた時、米国発のグローバルスタンダードにとっては、エコシステム的発想は急速な成長をもたらす要素であった。

今、時代は変わって、国家安全保障レベルでの脅威を考えた場合、どのように対処していけばよいのか、再び、問いかけられてきているのだ。

このテーマは、両者(Moris氏対Spalding氏)を含むパネリストたちの間に激しいながらも冷静な議論を巻き起こしていった。パネルの議論の中では、誰も結論を出せなかった。この場での終着点は、脅威となる国の参加、排除はともかくとして、現れてくるネットワークに必要とされるセキュリティは、現在のものとは一線を画すようなものでなくてはならないということだった。

日本の読者には、思い過ごし的な、不思議な無駄な議論と思われる方もおいでかもしれない。米国では、近年、情報セキュリティに関する議論の高まりが顕著だ。ここ、ワシントンDCでも、情報セキュリティのセミナーが、多数開催されている。

前回の大統領選挙での、インターネットを使った米国外からの選挙干渉は、日本の方もよくご存知と思う。長年にわたる米国外からの、民間および国防システムへの繰り返されるサイバー攻撃も、それに伴う某国駐米武官たちの米国外追放の件は、日本では知られた事例と思う。

そのほかにも、心穏やかではない噂をたまに聞く。例えば、米国外で組み立てられたサーバ内部に、ある種類の半導体が密かに組み込まれている。この半導体は、オペレーションコードを読み取り自動送信する。このようなサーバが、米国のデータセンターで多数使用されている。FBIがこの半導体を設計したシリコンバレーにある半導体のスタートアップファブレス会社を内定しているなどだ。

連邦政府関係者の国家安全保障レベルでの懸念というのは、決して、政治的ジェスチャーで済まされるものではないと考える。IoTのような高度なネットワークが形成された場合、万が一にでも、サイバーセキュリティが破られた場合に引き起こされる社会的混乱は、想像しがたい。トム・クランシーの小説を地でゆくような事態も十分考えられるのだ。5G固有のネットワークに、どのようなレベルのセキュリティが適用されるようになるのか、未だ、筆者には見えてこない。

二日間のカンファレンスを終えたのち、会場となったホテルを出てみると、すでに秋の日の日没であった。帰りの道すがら、残照に映えるワシントンメモリアルタワーを望見する。その向こうには、白亜のコングレス(議事堂)があるはずだ。筆者の中には、政治と技術の接点での会話が、いまだに余韻を長く残していた。この次の一歩がいかなるものであろうか、心中、疑問と同時に膨れ上がる期待を感じていた。

1-6. カネとモノを通じて見えてくる未来 :デジタルトランスフォーメーションの道のり

DC5Gで語られた内容は、ファイバ埋設に始まるインフラ整備、スマートシティ化を目指す交通信号コントロールシステム、車の自動運転、ネットワークシステムのセキュリティ等々、国家プロジェクト的な事業規模をうかがわせるものが多い。5G技術は、これらの事業を推進するための必要な手段であり、5G技術が最終ゴールではない。また、5G技術のブロードバンドへの展開は、デジタルトランスフォーメーションという道のりの始まりであって終着駅ではない。

今、姿を現しつつある変化は、本当に大規模な変化として現実になるのだろうか。妄想の産物で終わることはないのだろうか。優柔不断の筆者の心中には、未だ、ぬぐいきれない疑問があった。

そこで、ITTAのRobert Shield氏に感想を求めてみた。米国においてデジタルトランスフォーメーションの大規模な変化は、2020年なのか、その後なのかはやや不明な点はあるが、極めて近い将来現実となる。彼の答えは、極めてストレートであった。経済はカネ、モノ、ヒトで動くという。筆者がDC5Gにおいて目にしたものは、いわばカネとモノによってもたらされてくるであろう、技術革新によって引き起こされる変化のシナリオであった。明快な話を聞いたとの印象であった。

この後、筆者はIoM(Internet of Manufacturing)で、ヒトが絡んでくる別の世界を垣間見ることとなる。第2部以降で述べたいと思う。
(第1部終了)

編集室注)
5Gではビデオ伝送のような高速のデータ伝送と、IoTのMEMSセンサからの遅いデータ伝送が混在する。そこでコア基地局では、これらを自動的に分ける作業が必要となり、その技術をネットワークスライシングという。

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