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姿を現わしつつある米国のDX:5G・IoT・APC ・Industry 4.0 (3) スマートシティ

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この連載の(1)と(2)から5Gと光ファイバの敷設計画が米国で進められている様子をレポートした。ここでは5G向けのスモールセル、そしてこれらの応用事例となりうる交通信号コントロールをはじめとするスマートシティの発表についてレポートしている。(セミコンポータル編集室)

著者:AEC/APC Symposium Japan 前川耕司

前回では、第一ラウンドとも言える5Gレベルのブロードバンド事業のための社会インフラ構築の例として、長距離にわたる光ファイバ埋設の話を述べた。今回は、新たなるファイバ埋設およびミニタワーとも呼ばれるスモールセル設置に関する事業規模の話である。

Lisa Younger氏はこの後、一つの試算に言及した(図 1.11)。 
(1)米国内において、25主要都市に5G技術レベルの情報を伝達するためには、140万マイル (約225万キロメートル) に渡る新たな設置が必要。
(2)この規模のファイバ設置には、合計1500億〜1800億ドル (約16-19兆円), 5-7年の投資が必要。
(3)今後10年で、全米で各家庭へのブロードバンドサービスの接続率を90%にまで引き上げることが可能で、必要な投資額は700億ドル(約8兆円)に上る。
(4)このようなレベルでの長期的投資には、連邦政府の援助が行われている。主な参入機関はFCC ( Federal Communication Commission ), RDOF (Rural Digital Opportunity Fund), USDA RUS (US Department of Agriculture Rural Utilities Service)だ。この話が、さりげなく語られたとき心なしか、会場の空気が一瞬揺らいだ感があった。


FBA Study - Deploying Fiber to 90% of US Households

図1.11 接続率90%へ、出典: Funding 5G Infrastructure – Fiber, Lisa Youngers, Fiber Broadband Association


Crown Castle社の製品開発兼戦略担当のVPであるMark Reudic氏は、ニューヨーク市地域で、すでに設置されているファイバマップ(図1.12)を示した。


New York City fiber map.

図1. 12  ニューヨーク市ファイバ網、出典:Crown Castle DC5G, Mark Reudink 氏


5Gのスモールセルは、低出力アンテナを内蔵している小さな箱である。ミニタワーとでもいう機能を備えている。4Gのアンテナとともに、街角の街灯に設置されている(図1.13)。スモールセルは、光ファイバを通じてネットワークに常時接続している。Crown Castle 社によれば、7万個以上のスモールセルが設置済みという。これにより、街中でも十分なカバー密度を賄うことができるという。4Gの段階では、ネットワークへの接続は保たれているものの、データをダウンロードできないという、カバー密度不足の影響が出ている。自動運転を想定する5Gでは、クルマは常時ネットワークにつながっていなくてはならないので、カバー密度不足は問題だ。スモールセルがいたるところに設置されていくことになる。


Small cell deployment example

図1. 13 スモールセルの設置例 出典:Crown Castle DC5G, Mark Reudink氏


Smart Cities Council でExec Director であるJason Nelson氏は、米国における5G技術を使ったスマートシティのパイロットプロジェクトに言及した。スマートシティの試みは、大小をあわせると全米ですでに200件を超えており、社会インフラ構築のため過去2年間に投下された資金は、750億ドル(約8兆円強)という。主な目的は、シティサービス業務のデジタル化で、トラフィックマネージメント(交通管制システムの構築)、公共安全(消防、洪水、雪崩等の予測警報)、ライブラリの整備等である。

途方もない金額の話が飛び交うため、筆者は付いて行くのにやや困難を覚えていた。このような場で示されたデータの細部を検証することは不可能であり、また、このような内容が大風呂敷になりがちであることを考慮しても、規模の極めて大きな投資が継続的に進行していくという十分理解できるであろう。

夕刻のレセプションの時、この話の感想を、参加者と話をした。皆さん、140万マイルのファイバ埋設の話は、印象的であったようだ。DQE Communication 社のShawn Blanner 氏のコメントが記憶に残っている。彼は次のように述べている、「今までに、これだけの距離のファイバを埋め込んできたのだ。これまでの投資だけでも、ばかにならない金額だ。今後、今までとは桁違いの投資が必要で、桁違いの工事が必要となる」。彼の口調には、明るい将来への大きな期待感が溢れているのだが、同時に、既に行われてしまった投資に対し、ビジネス的な結果が求められる点についての、プレッシャを感じ取っていた。

1-4. 交通信号コントロール、自動運転:スマートシティへの道

連邦政府関係者や地方行政関係者にとっては、Industry 4.0 構想を基にしたスマートシティ実現のための、社会的インフラ構築への投資は、大変大きな命題である。この項でも、スマートシティの件に触れることにする。

Industry 4.0を目指すスマートシティ化とは、何を具体的に示すものか、筆者には不明なことが多かった。今回のパネルでは、車の流れをいかにスムースに行うかというモビリティについてのスマート化という観点での話しであった。

Carnegie Mellon 大学の研究教授であるStephen Smith氏は、ピッツバーグ市で、2012年より2016年にかけて行われた、SURTRAC(Scalable Urban Traffic Control)による、交通信号コントロールの結果を発表した。図1.14 にあるように、通行時間は26%の短縮、交差点での停止回数は31%減、停車中のクルマのアイドリング時間は41%減少で、排気ガスは21%の減少であった。また、車同士の衝突事故は、13%〜36%減少との調査結果もある。


Scalable Urban Traffic Control

図1.14 交通信号コントロールの結果 出典:Smart Infrastructure for Urban Mobility, Carnegie Mellon大学のStephen Smith氏


この試行が行われたのは、図1.14に示すように、50カ所の交差点にまたがる。1日あたりの交通量は35,000台である。東京都心でのクルマの交通量に匹敵する。この地域には、商店、オフィスビルが立ち並び、クルマのみならずバイク、バス等も多く、また通行人も多い地域だという。

SURTRACは、その名の通り分散システムである。図1.15に示すように、交差点の信号に取り付けられたCCTV(監視カメラ)とコントローラより成り立つシステムが、次の下流にある同様のシステムと通信しあって、青信号の時間を最適化する手法である。このシステムはシステム同士をつなぎ合わせることによって、より広範囲の領域をカバーできる、スケーラブルな手法である。


Benefits of Being Connected

図1.15 ピッツバーグ市での実験例 出典:Smart Infrastructure for Urban Mobility, Carnegie Mellon 大学のStephen Smith氏


Smith教授は、CCTVが捉えた、対象物の識別が困難であった点に言及している。CCTVが捉える景色の中には、建物とクルマだけではなく、バイクや人、さらにイヌ、ネコ、鳥やらがいる。雑多な映像情報をリアルタイムで自動的に分類識別できるようなシステムを構築するのは、簡単ではなかったとコメントしていた。

さらに、図1.16にあるようにリアルタイムでの応答が重要であると言及した。安全かつ効率的な信号コントロールシステムのためには、5G技術は不可欠として締めくくった。

Broader Picture

図1.16  将来への展開 出典:Smart Infrastructure for Urban Mobility, Carnegie Mellon大学の Stephen Smith氏


FordのGlobal Director であるJohn Kwant氏は、自動運転への道のりと、5G技術の関連を述べている。2019年からの全ての新車は、5Gへの接続機能を持ち、2022年より米国での新しいモデルには、C-V2X(Cellular Vehicle-To-Everything)機能を搭載すると述べた。図1.17に示すように、C-V2Xは、車同士が直接通信し合うダイレクト方式と車がネットワークと通信し合うネットワーク方式とがある。ダイレクト方式は、1km以内の近距離のコントロールに使われる。周りのクルマや歩行者との距離、交通信号への応答のコントロールである。リアルタイムすなわち低遅延の応答が要求され、5G技術の見せ場であろう。ネットワーク方式にも、接続障害がないことが必要条件になる。スモールセルにより十分なカバー密度がもたらされるはずだ。


CV2X Communication Technology Same Platform

図1.17自動運転への展開 出典:CONNECTED MOBILITY, FORD MOTOR のJohn Kwant 氏


自動運転に使われる5G技術は、5.9GHzの周波数帯域を必要としている。現在、この帯域は、軍事用に多用されている。Kwant氏は、5.9GHzの自動運転への使用は必須であり、連邦政府による調整を強調した。

クルマの安全走行は、大きな社会的テーマだ。アクセルとブレーキを踏み間違えても、暴走しない車の持つ意義は大きい。C-V2Xでは実現可能な話だ。未来の道路では、もはや新車でのカーチェイスはなくなるのだろう。007 ジェームス・ボンドも、地下鉄で悪人を追っかけるのだろうか?

Qualcomm社スマートシティ担当グローバルヘッドのSanjeet Pandit 氏は、5Gに関する通信用の半導体の開発に触れている。Qualcomm社が、5G技術および商品の開発に、他の関係する会社とともに、数年という時間と、莫大な金額の投資を行ってきた点を淡々と語っていた。わずか1個の半導体チップを作るために何億円ものマネーと多数の技術者集団が必要とされたという彼の言葉は、他人ごとではなく重く響く。

Qualcomm社は、半導体ファブレスの大手である。5G技術の半導体デバイス、ハンドセットの開発、標準化に深く関わってきている。その姿勢は、単に5G用の半導体およびハードウエアをデザインするという点を超えている。むしろ、5G技術を利用して、新しいマーケットの創出にリーダーシップをとるという考えが読み取れる。

この会社は、iPhoneをはじめとするスマートフォンの市場創出に積極的に関わり、その業績を急激に伸ばしてきた。2003年頃、筆者はカリフォルニア州シリコンバレーで行われた、Qualcomm社のプライベートイベントに参加したことがある。当時のCEOが、 後日スマホと呼ばれるようになる、ガラ系携帯電話より一回り大きなサイズの電話の模型を高く掲げていた。彼は、その新しい機能と、それにより新らたに創出されるマーケットの姿を、熱っぽく語っていた。彼の話の内容のほとんどは、後年iPhoneの大規模な普及によって、現実となっている。Qualcomm社は、すでに70種以上のハンドセットをそれに使われる半導体と共に製品化しているという。

バージニア州アレキサンドリア市の部門長であるBob Garbacz 氏は、ペンタゴンに近いアレキサンドリア市での交通コントロールシステムのみならず、駐車場の確保から料金の支払いに至る全ての過程で、安全性を重視しつつモビリティをスムースにする点を語った。交通信号システムを一元的に管理するような大きな話しではないとの前置きで始まった彼のスピーチは、プロジェクトの事業化に伴う、小さいながらも決して無視できない事柄の積み重ねに言及している。極めて広範な話であり、一例を示すにとどめたい。最近、筆者の周りで進行している例である。

ショッピングモールに隣接する、千台以上の規模のクルマを収容する、多層階建てビルの有料駐車場の例である。以前は クルマの入場時と退場時にゲートがあり、ドライバーは一旦クルマを止めて、駐車料金支払い用のカードを取らなくてはならなかった。近年、このゲートが廃止されている。ドライバーは、車を停車することなく、駐車ビルに入り、止めたい(空いた)スペースに車を止める。どのスペースが空いているのかの表示もある。

CCTVが、ナンバープレートや駐車時間を記録している。帰るときにドライバーは、パーキングメータに立ち寄り、駐車スポットの場所なり、ナンバープレートの情報を入力すると駐車料金が示される。カードで支払いを済ませ、車に乗り駐車場より出て行く。パーキングメータは、ドリンクの自動販売機よりも一回り小さい。

図1.18は、英国Dublinで施行されている例である。類似の末端装置を自宅近辺で見かけるようになった。


Asset utilization example Dublin UK

図1.18 スマートシティの装置例 出典:Dublin City Council、Connect-Enable, Smart DocklandsのEdward Emmanuel氏


このシステムが導入されてからは、入庫時・退出時に起きていた、車の数珠繋ぎ状態もなくなり、空きスペースを探してうろうろすることもなくなり、モビリティが大変改善されたことを実感した。この監視システムは、CCTV、画像解析、データ解析を含めた分散システムにより成り立っている。

料金を踏み倒しても無人であるため、誰のとがめもない。後ほど、罰金の通知がくるそうである。ナンバープレートを何かで隠している場合は,どうなるのだろうか?筆者は、このような悪魔的試みを実行していないので、この辺りは不明だ。

5G技術を使えば、スマートシティが実現できると誤解しがちだ。ここで述べられているように、5G以前に基礎となる要素技術の準備ができていなくてはならない。この例でもスマートシティへの様々な試みは、ここ数年取り組まれてきており、個々の分野(例えば、画像解析、ビッグデータ収集、カメラの解像度の改良)では成果が得られている。このたび高速、低遅延、大容量の特長を持つ5G技術の登場により、各要素技術がネットワーク化しても、リアルタイムでの応答が可能となってきた。スマートシティ実現化への道のりは大幅にスピードアップしているのだ。

この項では、5G技術の実用化によって、今まで開発されてきた、各要素技術が有機的につながり、スマートシティという具体的な形を作る例を述べてきた。いわゆるデジタルトランスフォーメーションへの道のり、Industry 4.0の社会への道のりである。読者は、前回と今回で、米国における、政治と技術の接点での社会事業化の一例を、ご覧になったかと思う。次回は、今までとはやや異なる、国家安全保障の観点からの、技術への接点をご覧いただけると思う。

(続く)

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