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英国特集のウェッブ連載を始めた

セミコンポータルではじめとなる「特集:半導体に注力する英国株式会社」の記事掲載を始めた。これは、雑誌の特集に相当するような記事をウェッブで紹介する試みである。雑誌なら20ページにもなる特集をウェブにそのまま掲載するわけにはいかないため、連載で掲載することにした。あまり知られていなかった英国の半導体事情をつぶさにお伝えできることは私にとって大きな喜びである。

タイトルに「英国株式会社」としたのは、今回のプロジェクトで取材のアレンジをしてくれた、英国マイクロエレクトロニクス協会NMI(National Microelectronics Association)のJohn Moor氏、駐日英国大使館の渡邉悦男氏らと、夕食を食べながら、英国の半導体事情をディスカッションしていた時に、Johnがふと、UKはまさにUK Limitedだよなあ、と漏らした。この言葉に対して、私も渡邉氏も「exactly:まさにそうだね」、と同調し、この言葉をタイトルに入れようと思った。

実際、ベンチャーや政府、大学などを取材していると、英国株式会社を強く感じた。しかし、政府が資金を提供することが支援では決してない。ベンチャーキャピタルを紹介したり、プロモーションをお手伝いしたりする。起業するうえで必要なオフィスの貸し出しもするが、ある程度売り上げや規模が大きくなると、オフィスのあるインキュベーションセンターから出ていってもらう。英国政府が半導体ビジネスを活性化するため、参入の壁を取り去るとか、大学に対して世の中の役に立たない研究は認めないようにするとか、産業を強めることに政府は協力する。例えば、大学での研究は日本の経産省に相当する省庁が、大学の教育に関することのみ文科省に相当する省庁が監督するような仕組みに変えている。

ベンチャーに対して政府は起業資金を出さないわけではないが、ベンチャーキャピタルVCを数社紹介する。起業したい研究者は、VCにアピールできるようなプレゼンをし、出資金を調達する。場合によってはビジネスモデルを変えざるを得ない場合もある。それでも何とか起業にこぎつけ、会社を成長させ、ある程度成長し資金が回るようになったら最初に持っていた起業時のビジネスモデルを実行するという大学発ベンチャーもあった。

大学発ベンチャーといっても政府からの資金におんぶにだっこの税金の無駄遣いをしているわけでは決してない。グローバルなサプライチェーンを作り、グローバルな顧客を探し、製品を設計、販売していく、というごく普通のビジネスをやっているだけなのである。だから、ビジネスは強い。例えば、医用センサーからの信号を処理する半導体チップを設計しているToumaz社Director of TechnologyのAlison Burdett氏は、「当初の資金繰りは苦しかった」、と当時を振り返る。彼女は英国London大学Imperial Collegeの講師をしていて、上司の教授と一緒に、ベンチャーのToumaz社を立ち上げ、今は右肩上がりの成長路線に乗っている。それでも慢心はしない。常に危機感を抱きながら企業を運営している。

海外から英国への直接投資額が対GDP比で40~50%にも達する英国ではグローバルにものを考え、グローバルに行動することは当り前だ。日本は、小泉元首相の掛け声で海外直接投資額を増やしているが、昨年ようやく対GDP比で2%と数年前より一桁増えた。今や米国でもフランスやドイツでも対GDP比が二ケタ%を行く時代である。いつまでも鎖国を続けていてはグローバル競争に勝てない。

その責任の一端はメディアの姿勢にもあろう。外資が日本企業を買収するとすぐハゲタカだと騒ぎ、本当に日本企業がグローバルに勝つための力を与えず保護し続け、甘えの姿勢を優先するような記事のトーンでは日本企業の弱体化を進めるだけではないか。

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