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今イギリスがおもしろい

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最近、いろいろな取材の中で、イギリス企業の名前が登場することが多い。マイクロプロセッサの世界では、ARMがプロセッサIPベンダーとして携帯機器関係の人間の間では有名な企業であるし、CSRはBluetoothチップのトップ企業である。Imagination TechnologiesはグラフィックスIPで最近、伸びてきている企業だ。3G通信モジュールではIcera社がエマージング企業だ。

今の元気なイギリスを再構築したのは、言うまでもなく、マーガレット・サッチャー元首相である。1980年代初めまで、イギリス=暗い国、元気のない国であり、英国病とまで揶揄されていた。イギリスでは十数年間、労働党政権が続き、社会主義的な考えが横行してしまっていた。社会主義の国では、一生懸命働こうが働くまいが賃金は同じ。労働者の意欲はわかない。政府役所も民間もみんなこのような考えだった、とサッチャーさんは回想録の中で述べている。

サッチャーさんが打ち立てた、国民みんなが豊かになる国のビジョンは明解だった。
「民間企業が自分の意思と責任で自由に経済活動のできる国を目指す」。

これが英国病を救う彼女の理念であった。このビジョンを実行するために、構造改革を行った。市場への参入を促すために規制をできる限り取り払い、規制を牛耳っていた官僚の力を弱めるため、行政改革も行った。規制がなくなれば行政の仕事は減る。辞める人もたくさん出てくる。では、辞めてもらった人に再就職の世話をしなければならない。そのためにイギリスへ外資をどしどし呼び込み仕事の場を提供した。当時のイギリスの産業は海外へ出ていった企業が多く、空洞化していた。これでは職は得られない。だから彼女は日本にまでもやって来て、イギリスへの企業進出のPRに努めた。NECがスコットランドへ進出したのはこの頃だ。

構造改革には、抵抗勢力の反対がどこの国でも付きまとう。かつての自動車メーカーの雄、ロールスロース社を海外メーカーが買収した時は、英国内のマスコミや一部の保守派は英国魂を海外へ売るのか、と叫んだ。しかし、ダメになった政府系企業を救うためには買ってくれる外資に頼らざるをえない。抵抗勢力からは、「鉄の女」と言われながら自分が正しいと信じた構造改革を断行した。

あれから20年。サッチャー改革は、保守党だけではなくトニー・ブレア元首相の率いた労働党にまでも受け継がれた。駐日英国大使館の方々と話をすれば、今でも「私たち官僚の仕事は、民間企業の市場への参入を手助けすることです」と胸を張って言う。

今、イギリスへの外資の直接投資の対GDP比は40%近い。これに引き替え、日本は小泉首相の掛け声で外資の日本市場への参入を促す政策をとった結果、GDP比率は昨年、ようやく2%に達するようになった。2000年ごろは0.2%という数字で鎖国同様であった。今でも外資アレルギーというか、外資が企業を買収したり投資したりすると、ハゲタカファンドだと騒ぐマスコミもいる。

40%も外資に買い占められているイギリスは、海外へ魂を売っただろうか?イギリスではなくなってしまっているだろうか?イギリスの誇りをなくしてしまっているだろうか?すべてノーである。むしろ、イギリスには海外からの投資を促進する庁がある。さらに外資を呼び込もうとしているのである。

今年の正月の日本経済新聞では、今の日本の経済を変えるには英国の構造改革というお手本があるのになぜ利用しないかと、問いかけていた。

今イギリスでは、実に賢い技術を開発している企業が続々と誕生している。それも設計専門のファブレスだったり、チップの中の極めて特徴的な賢い回路、すなわちIPコアのプロバイダだったりする。製造部門を持たなくても十分能力を発揮して、ビジネスにつなげている。

さ来週17日から英国、主に南西部のロンドン、ケンブリッジ、ブリストルのスマート企業や政府の考え方、工業会やTLO(技術移転機関)のあり方などを取材に行く。セミコンポータルのサイトで次々と紹介するつもりである。ここに日本を強くするためのヒントがあるに違いない。

その前の一週間はスペインのバルセロナでMobile World Congressに取材に行く。携帯電話機能では日本が世界一進んではいるが、油断大敵。どこに落とし穴があるかわからない。3Gでは世界のトップに立っているはずだったのに、どこでどう歯車が狂ったのだろうか。携帯電話では鎖国になっている。また、携帯電話のパイオニアであったモトローラの携帯電話事業は2位から3位へ落ちた。この世界は息もつけないほど目まぐるしく変わる。この状況でグローバル市場へ打って出てその成果が出てきたルネサス。この企業も目が離せなくなってきた。来週は、Mobile World Congressの話題をお届けし、その後イギリスの状況をレポートする。

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