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人との関わり、コミュニケーションが自分の価値を作る

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電子情報通信学会集積回路研究会が主催して、システムLSIワークショップが先週、北九州市で開催された。今回2日目夜のパネルディスカッションのモデレータを引き受けさせていただき、第11回になるこのワークショップに初めて参加させていただいた。総計で320名を超える参加者が一堂に集まり、若い学生の熱心な態度に感銘を受けた。

今回のテーマの一つが「人と技術」である。エンジニア不足、理系人口の減少など、ものづくりニッポンとして極めて深刻な事態に遭遇している今、どうやって人を育て、技術を育成していくか、というテーマは、今後の日本を身も心も豊かにしていく上で追及していかなければならないテーマの一つである。先日、新首相が小中学生との会合で、「20年後の日本をどのようにしていくお考えですか」という質問に「それはみなさんが考える問題です」と答えた無責任さに腹が立ったのは私だけだろうか。この国の将来にとても強い不安を感じた。今回のワークショップにおいて常に「人と技術」を意識しながら講演している大学人の姿から、政府とは別に自分らできることから始めよう、という立場はとても重要だろう。

今回のパネルディスカッションのテーマは「人を育てる技術、技術を育てる人」であった。人がいて社会を作り、それをより良くしていく。これは人類共通に行われてきた歴史であろう。子孫になにか英知や文化、ハードウエア、ソフトウエアを残すことがいままで受け継がれてきたからこそ、今の日本があるはずだ。それを最初から放棄するような国家のリーダーでは日本の将来がないと、結論付けてもおかしくはない。

パネルディスカッションは、一般的な講演が終わり、夕食をとった後の6時半から行われた。ただ残念だったのは、講演ではたくさんいた学生・院生がパネルディスカッションの時には少なくなっていたことだ。それでも20~30名の学生・院生は最後まで話を聞いてくれた。実は、このことはとても重要で、エンジニアや研究者だけではなく社会人として生きていく以上、人と人との関わり、すなわち人脈がきわめて重要になる。これはお金を払ってでも人に会うことの重要性を多くの若い学生が認識していなかったことになる。最初から参加していた学生・院生はほとんどの方が最後まで残っておられた。

大学を卒業して社会に出ると、知人はいうまでもなく、知人が紹介してくれた人や、パーティなどで知り合った人にどれだけ助けられたことだろうか。それによってどれだけのビジネスチャンスが生まれ、自分の収入にプラスになったことだろうか。会社や大学の中だけに閉じこもっていては生まれるチャンスを自らつぶしていることに相当する。

みんな外に出て、いろいろな人を自分の目で見るがいい。元技術雑誌の記者として会社の中にいるのではなく、外へ外へと出ることによって、まだ記事になっていない事実を報道したり、ニュースを見つけたりしてきた。人に会うことによって思いもしないチャンスに巡り合ったり、自分の成長にプラスになることは数えきれない。会社だけではない。近所でも思わぬ人と知り合いになり自分の見分が広がったり、マイナスよりもプラスになることの方がはるかに多い。

はじめての海外出張で英語がほとんど通じず、相手の言っていることの1割くらいしか理解できなかった私は、30歳をすぎてから一念発起して英会話をマスターした。今でこそ英語で記事を書く英文ジャーリストの仕事もしているが、最初の海外出張で出会った人たちに意思を伝えることのできなかったもどかしさは本当にマイナスだったと思う。

英語で意思を伝えることができると、今度は自分の世界がものすごく広がっていく。アメリカの人たち、イギリスの人たち、ドイツ、ベルギー、フランス、オランダの人たち、台湾、韓国、香港、シンガポール、ベトナム、オーストラリア、インドネシア、フィリピン、中国の人たちと技術やジャーナリズムだけではなく、生活や文化、風習、恋愛、国家観、軍事、経済、戦争、時にはセックスや冗談、何でも話ができるからこそ、世界の様子から見た日本の様子を本当に偏見なく見ることができる。こんな楽しいことはない。

海外の人たちとのつながりは言うまでもないが、せめて国内の日本人同士のつながりだけでも人脈作り、人とのコミュニケーションなどが、自分にとってとてつもない価値を生むことになる。これだけは言える。自分の殻だけに閉じこもっていては絶対に成長できない。


津田建二

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