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業界再編に潜む危ない罠

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最近の新聞によると、NECエレクトロニクス、東芝、ソニーとの業務提携から一歩進んで合併という報道がみられるが、各社はいずれもその報道を否定している。

NECエレクトロニクスと東芝のシステムLSI部門との合併話は水面下で以前にもあった。

しかし、企業間の競争が激しいから合併して一つにまとめようという議論ははなはだ乱暴である。1999年にNECと日立製作所のDRAM部門が合併してエルピーダメモリを作ったが、ただ単に合併すれば解決するというものでは決してない。

この大企業同士が合併した当時を思い起こしてほしい。エルピーダメモリは創立2~3年しても座して死を待つのみの状態ではなかったか。DRAMという微細化と大口径化がすべての設備投資型ビジネスを遂行するはずの企業が投資のための資金をNECも日立も提供せず、ただじっとこれまでの顧客をメンテするだけで、売上は毎年じり貧になり、赤字垂れ流しの企業になり下がるだけであった。まさに瀕死の状態で手がつけられない状態だった。

2002年に坂本幸雄氏が社長兼CEOとして招聘されてから今日に至るまで、血のにじむような努力をされた結果、営業利益率が10%を超える優良企業にまで成長した。エルピーダはNECと日立が業界再編で一緒になったから回復したのでは決してない。リーダーが働く人たちを鼓舞し、引っ張ってきたからだ。

坂本氏はエルピーダにやってきたとき会社の体をなしていないことに驚いた。役員はゴルフ三昧、毎日の通勤は黒塗りのハイヤーで送り迎え、海外出張はファーストクラス、そのくせ生産ラインの設備投資には一切お金を出さない。赤字は垂れ流し。

エンジニアはプロセス歩留まりが80%もいっているのだからもういいやという気持ち。営業は代理店をカバーしているから顧客まで回る必要はないという気持ち。おんぶにだっこの典型的な大企業病そのものだったという。

このような瀕死の会社を立て直したのだから、もちろん坂本幸雄氏は並みの経営者ではない。世界でも指折りの経営者の一人であろう。ただ、私は坂本氏を賛美するつもりでこれを書いているのではない。半導体業界を再編すれば日本の半導体は復活するという意見に反論しているだけである。企業数を減らしても半導体産業は決して復活しない。エルピーダの例で分かるように、復活のカギを握るのは、プロフェッショナルな半導体経営者である。

経営の素人が口を出しては歩むべき道を間違える。経営とはほど遠い官公庁そのものや、官公庁向けの事業をコアとする大企業では市場経済の半導体競争に勝つことは極めて難しい。なぜ第三セクターの事業が失敗するか。市場経済での経営経験のない天下り役人が経営するからである。この意味でも霞が関主導の業界再編が成功するとはとても言いがたい。

ではどうやって半導体企業は復活するか。半導体企業がこれまでの自らを否定し、まったく新しいビジネスモデルを構築し、コアコンピタンスを追求し、世界の半導体企業と競争するための戦略を立て、変身できれば、間違いなく復活する。かつて、これを実行し復活を遂げた企業こそが、インテルでありTIであり、IBMである。ほかにも成功しているプレイヤーは多い。高性能リニアICに特化して40%超というとてつもない営業利益率を達成したリニアテクノロジー社、瀕死の状態の百貨店方式からアナログに集中して復活を遂げたナショナルセミコンダクター社、IDMからファブレスに変身しプログラマブルなpSoCに集中し始めたサイプレス社。世界の半導体企業はこのようにして復活を遂げてきた。決して企業同士の寄せ集めではない。


津田建二

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