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ムーアの法則はもはや時代遅れ(続)

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−半導体産業は腕力から知力の時代へ


東京・品川で先週、開催されたARM Forum 2007に出席した。このコンファレンスからもムーアの法則はもはや意味がないことがはっきり見えてきた。半導体LSIはトランジスタ数の多さを競い合っているのではない。機能の多さ、消費電力の少なさ、性能の高さ、ソフトウエアの軽さ、これらの総合性能を争っている。数十億トランジスタ/チップのレベルまで来ると、もはや腕力から知力の時代へと移っているのではなかろうか。

英国ケンブリッジに本社を置くARM社がこれまで開発してきたプロセッサコアIPは、消費電力をできるだけ減らして性能を確保することを特長としてきた。ハードウエアはトランジスタ数をできるだけ減らし、ハード的に消費電流を減らすための手法に加え、ソフトウエアもできるだけ軽くすることを主眼において開発してきた。この結果、軽いソフトでトランジスタ数も少なく、消費電力も少ない、というIPコアができた。トランジスタをできるだけ増やさない、ということを心掛けて機能を集積してきた。

このARM Forumの基調講演で話をした、デンソーの石原氏はソフトウエアを軽くすることに主眼を置き、自動車用マイコンを開発してきたことを述べた。自動車用途ではリアルタイム制御が不可欠で、メモリーをチップに内蔵することが至上命題となっている。メモリーを集積する半導体チップはメモリー容量を増やすとどうしてもチップ面積が大きくならざるをえなくなる。このため、デンソーはメモリー容量をできるたけ減らすコンピュータアーキテクチャを採った。そのためにはコンパイラなどのソフトウエアをできるだけ減らす、すなわちコード効率を上げソフトウエアサイズを減らすことに注力してきた。

最近取材した、英国Imagination Technologies社のグラフィックスIPコアは、グラフィックスの描画性能を維持しながら、消費電力を競合メーカーよりも2ケタ減らすためメモリーのバンド幅(データレートに相当)を少なくした回路を開発している(http://www.semiconportal.com/archive/executive/gui.html)。携帯電話機にこれからグラフィックス機能がどんどん入っていくが、消費電力の低減がカギとなる。トランジスタ数はできるだけ減らしたい。

前回、紹介したQuellan社のノイズキャンセラチップも、同等の性能を維持しながらチップ面積を1桁以上小さくしたアナログ・デジタル混載チップもトランジスタ数の少なさを自慢する。

もちろん、すべてのLSIがトランジスタ数の減少を狙っているわけではない。相変わらず機能を上げるために集積度も上げているチップもある。メモリー単体のDRAMやフラッシュなどは、今まで通りトランジスタ数を増やす方向に向かっている。メモリーほどの集積度はないが、センサーやアクチュエータをマイコンに集積する動きもある。高インピーダンスのセンサーはノイズを拾いやすいため、インピーダンス変換・増幅のための回路も同時に載せる方が回路として扱いやすいからである。

集積度の向上はもちろん、小型化の追求という面もある。しかし、小型化の要求の強い半導体は電池使用で動作させることが多いため、消費電力の低減も求められる。すると、集積度を増すことだけが能ではないことに気がつく。一つの機能を実現するのにできるだけ消費電力の少ないチップを設計することが求められることになる。

ムーアの法則がゆっくりしたスピードになることは、半導体産業が飽和するからではない。成熟するからでもない。半導体というシリコンチップにソフトウエアを、それもできるだけ軽いソフトウエアを搭載するようになってきたからだ。ここには腕力勝負のトランジスタ数争いではなく、賢いソフトウエア、賢いアルゴリズム、賢いハードウエア電子回路が強く求められるようになって来る。

半導体産業の構造変化をよく見ると、腕力から知力へと変わっていることに気がつく。これからの半導体産業を制する者は知恵者であろう。


津田建二

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