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オープンなコラボレーションは半導体だけではない

半導体に限らず、これからのエレクトロニクス産業ではコラボレーションがキーワードになりそうだ。IBMのマイクロエレクトロニクス部門がコラボレーションを進めるのに加え、オランダのフィリップス社もオープンイノベーションを標ぼうしている。いずれも一言で言い表すとすれば、一つのシステムを開発するのに必要な知恵を出し合える仕組みを作ることオープンなコラボレーションである。

これまでは水平分業という言葉で表わされてきて、日本は垂直統合が強いと日本企業はよく言っていた。垂直統合を昔から推進してきたIBMやフィリップスまでが水平分業、すなわちオープンコラボレーションを口にしている。日本だけが垂直統合にいつまでこだわるのだろうか。

垂直統合=ブラックスボックス化、という図式を語る経営者もいた。技術の流出を恐れるからだ。しかし、これまでの技術の歴史の中で、1社だけが技術を閉じ込めていて発展が続いたことがあっただろうか。オープンにしてみんなでわいわいディスカッションして初めて人々の知恵が生きてくるのである。結局、オープンが常に勝ってきた。

では、水平分業とか、オープンコラボレーションにすると技術が流出してしまうのか。実は、オープンとはいってもコンポーネントのインターフェースをオープンにしているだけで、コンポーネントの中身はブラックスボックスにしている。だから、一つのシステムは、ブラックボックスのコンポーネントをつなぎあわせて形成するが、そのつなぎ合わせる接着剤がインターフェースとなる。コンポーネントはハードウエアでもソフトウエアでも構わない。部品でも装置でも構わない。一つのエコシステムを形成するコンポーネントをブラックボックスにしてつなぎをオープンにする。このインターフェースをみんなで作ることがオープンコラボレーションである。

かつて、三洋電機しか作れない光ピックアップと、機能満載の台湾MediaTekのチップセットがあれば誰でも中国でもどこでもCD-ROMやDVDプレーヤーが作れた。この場合、光ピックアップとチップセットの中身はブラックボックスであった。だれもまねできないブラックボックスを作り、それさえ組み合わせれば誰でもストレージ装置が作れた。コンポーネントのブラックボックスだけを抑えていたため、三洋電機もMediaTekも大いに潤った。垂直統合企業は中国などにコスト的に負けていった。東京大学ものづくり経営研究センターの小川紘一氏は垂直統合の敗北をこのように分析した。パソコンにおけるインテルもマイクロソフトもブラックボックス化したコンポーネントを作っているのである。

1970年代はじめ頃、メインフレームコンピュータが成長期にあり、ソフトウエア技術者が不足するということで、ソフトウエア危機が叫ばれた。それをOS、ミドルウエア、アプリケーション、APIなどと階層構成にして、それぞれのレイヤーだけを開発できるような仕組みを作り、ソフトウエア危機を乗り切った。今のSoC開発やシステム開発の問題はまさにこれに似ている。

垂直統合でソフトウエア全体を開発することはもはや不可能になってきた。SoCの開発も同じだ。だから、大きなシステムをいくつかのコンポーネントに分け、このコンポーネントを各企業が開発し、自分のものにする。中身はブラックボックスでよい。しかし外側は他のメーカーが使えるような共通インターフェースを作り、A企業さんにもB企業さんにも使ってもらえるようにする。これが今、成長のカギとなっている。

SoCもいろいろなIPコアや自社のブラックボックスコアなどからなっている。どこに注力し、どれを外部から買うかを明確にすると他よりも早く開発でき、利益を生み出せる。これが勝ち組につながる。


津田建二

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