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技術を理解するための教育が必要

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やはりアメリカのベンチャーはすごい技術を引っさげてくる。先日、EDN Japanセミナーで来日したQuellan社CEOのD. Tony Stelliga氏は、この時期に合わせて新製品を持ってきた。

Quellan社のRFノイズキャンセラのチップはわずか1mm角未満と小さく、しかも180nmのCMOSプロセスという、いわゆる枯れた技術で作った“すぐれもの”なのでコストは安い。昨秋発表した製品と比べ、肝心要のノイズキャンセル回路は同じだが、今回はユーザーの利便性を考えて初段にLNA(ローノイズアンプ)とフィードバック用のDAコンバータを2個集積した。にもかかわらずチップ面積は前回と同じ1mm弱角しかない。

これはアナログ技術でEMI電磁波ノイズをキャンセルするチップである。ノイズレベルを減らすため、たとえばテレビなど欲しい信号を抽出できる。なぜ今アナログか。むしろ、「古い」デジタルでノイズを減らす方法はこれまでにもあった。しかし高速フーリエ変換などで信号強調するため回路規模がどうしても大きくならざるをえなかった。つまりコストが高くなった。

ところが、このQuellanのチップは1mm角にも満たない。アナログとデジタルをうまくミックスしたのがこのチップである。アナログの高周波回路でデジタル変調する技術を採り入れている。デジタルだけの方式と比べて、まちがいなく安く製造できるため、世の中へのインパクトは極めて大きい。この原理は、Technology フォーカスを読んでいただければわかると思うが、私自身は昨年秋に、最初のバージョンの話を聞いたが、回路のフィードバック部分を明らかにしてもらえなかったため、完全に理解できるところまで到達できなかった。しかし、今回は原理をよく説明していただけたので、深い内容まで理解できた。

この米国のベンチャー企業から新製品に対してコメントを求められたため、すごいイノベーションを安い技術で実現した旨を正直に伝えたら、プレスリリースに私のコメントが載っていた。長い記者経験で、自分のコメントや記事がほかのメディアに引用されたことは何回かあるが、米国企業から新製品ニュースリリースのコメントを求められてそれが掲載されたことはこれまでになかった。半導体という専門分野をずっと追いかけてきた自分の人生が、ある意味で報われたようなうれしい気持ちになった。

日本には産業アナリストはたくさんいるが、技術アナリストというべき人は皆無に近い。米国には技術アナリストがいて、企業のニュースリリースにもときどきコメンテータとして登場する。これはアナリストのバックグラウンドにもよるかもしれない。多くのジャーナリストは大学のジャーナリズム学科を出てすぐにメディア企業に勤務する。米国の技術アナリストはエンジニアを経験した人が多い。日本でも1970年代の日経エレクトロニクスの記者はほとんどがエレクトロニクスメーカー出身のエンジニアだった。最近の日本のジャーナリスト、アナリストにはエンジニアの経験者が少なくなってしまったのかもしれない。

Quellan社のような製品を理解するためには、高周波アナログ回路と、高速フーリエ変換、デジタル変調技術、D-A/A-D変換、などエレクトロニクスの知識がなければ難しい。これらを短時間で習得するにはほかのエレクトロニクスの知識があれば比較的容易だが、理科系のエレクトロニクスの知識がなければもはや最先端技術の理解はかなり困難を極めるに違いない。やはり、原点は教育にある。


津田建二

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