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ベンチャーの起業に求められる企業倫理への理解

日本ではベンチャー企業がなかなか育たないという嘆きの声をよく聞く。ザインエレクトロニクスのように成功したところはあるが、米国のシリコンバレーのベンチャー企業とは成功する企業の数が違う。この原因には、ベンチャーキャピタルが初めから資金を提供しないで、起業した会社がうまくいくことがわかって初めて資金を提供してくれることが多く、最初の起業時に資金が集まりにくいからだという声もある。

大学発のベンチャーに対しては文科省からの資金は比較的容易に得られやすいが、成功した事業はほとんどない。逆にいえば税金の垂れ流しにもつながっている。むしろ、ビジネスの成否審査、技術の審査が甘いのかもしれない。何のために起業するかという社会的ミッションに欠けているケースがある。自分の金儲けだけを優先して起業していないだろうか。何年か前の日経ビジネスに大学発ベンチャーで得られた資金を使って売り上げゼロのまま、外車を乗り回している若者を採り上げた記事があった。

起業するのなら、世の中の役に立つことから始めるべきだろう。加えて、会社を軌道に乗せるための工夫も含めた戦略を考えなければならない。自分が経営者となって起業することばかりが選択肢ではないはずだ。ヤフーを成功させたジェリー・ヤン氏は、検索サイトを立ち上げる時、自分はマーケティングが得意で、同じ大学のデビッド・ファイロ氏は技術が得意だが、経営は経験がないため自分たちに社長業はできない、として外部から社長兼CEOを連れてきた。経営は経営のプロに任せることが会社を立ち上げ、健全に持続させる方法だと若い学生たちは考えた。

翻って日本の若い人が起業したい理由は、本当は何なのか。サラリーマンが嫌だから?自立したいから?縛られることが嫌だから?お金を儲けたいから?お山の大将になりたいから?松下幸之助さんや本田宗一郎さんのような素晴らしい経営者は、最初にまず社会的ミッションを掲げた。自分が儲けるために事業をやるのではなく、事業を継続させるために利益を生み出すのである。ときどき、企業は利益を追求することしかしない、という人がいるが、これは正しくない。

お金儲けは決して悪いことではない。利益が出なければ事業は継続できないからだ。そうなれば顧客は困る、従業員は路頭に迷う、社会の進歩が遅れる、など社会的な不利益が生じる。だから利益を求める。一方で、利益を求めない団体でさえ、必ず資金はいる。それが税金かもしれないし寄付かもしれない。しかし一時的な寄付なら事業は継続できない。結果的に無責任になる。税金は国民から集めたお金である。それこそ、人様のお金だから大事にしかも透明に使わなければならない。

これが利益の追求が第一となると、ホリエモンや村上ファンドのように不正な手段を使っても構わないという、倫理を度外視することにつながってしまう。法律の解釈ぎりぎりのところでビジネスを行うということは、ビジネス倫理は完全にクロである。ビジネス倫理がしっかりしていれば法律の解釈で迷うことはないはずである。米Texas Instruments社の元CEOジェリー・ジャンキンス氏は、かつて日本のジャーナリストの問いかけ、「企業倫理と利益のどちらかをとらなければならない究極の選択に直面したとき、どちらを優先するか」に対して、躊躇なく「企業倫理だ」と答えたという。この企業倫理優先の考えが不可欠なのである。

ヤフーでは、最近になってジェリー・ヤン氏がCEOに就任したが、事業を続けてきて経営を理解できるようになったから経営者となった。経営を知るために何を学び、どう社会に貢献するか、という明確な答えを持って起業の準備をしなければ、会社は成功しない。


津田建二

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