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生き残るものは強者ではない、賢者でもない、ダーウィンの示唆が生きる現代

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進化論を著したチャールズ・ダーウィンの言葉を、全く違う企業2人のアメリカ人から聞いた。メンターグラフィックスのCEOであるWalden Rhines氏とザイリンクスのシニアバイスプレジデントのVincent Ratfort氏の二人の別々の日に行われた講演だ。4月初めにサンフランシスコで行われたGlobalpress Connections主催のeSummit2009において、引用したダーウィンの言葉は、「生き残る種は強者ではない。極めて賢い者でもない。変化に最も柔軟に対応できる者だ」である。

チャールズ・ダーウィンの言葉

ザイリンクスのシニアバイスプレジデントのVincent Ratfort氏,メンターグラフィックスのCEO Walden Rhines氏


片や、設計・検証ツールベンダーであり、もう一人はプログラム可能なロジック半導体デバイスメーカーである。立場の全く異なるメーカーの経営陣が考えることが同じだということは、半導体産業がその方向に動いているという意味である。すなわち、半導体ビジネスの経営判断は迅速に行い、過去の成功体験に縛られたり、歴史の囚人になったりしてはならない。今も含め今後の未来がどうなるか、それを人よりも早く予測し、それにいち早く対応していくビジネス姿勢こそ、生き残る上で最も重要な戦略であろう。

日本の半導体産業にあてはめるなら、日本の半導体メーカーがかつて世界のトップに立っていたという昔の成功体験はすべて忘れ、垂直統合で成功したことをすべて忘れ、大企業同士の合併の失敗経験を生かせ、というようなことだろう。今、日本の半導体産業の業績悪化を不況時代のせいにする向きがあるが、決してそのようなことではない。2001年のITバブル崩壊以降、世界の半導体産業の平均の伸び率よりも、国内半導体産業の伸び率はぐんと低いままでやってきた。2008年まで事業を改善しなかったからだ。だからいつまでたっても半導体メーカーの業績は悪い。

時代はダーウィンの言うように変化に対応できない企業は淘汰されていく。その危機感のない企業はなおさらである。3年前に富士通副社長であった小野さんと年末のパーティでお話ししたことがあり、その時同氏は極端だが今までのすべてを否定し今までと違うことをやれ、と部下に言っていたそうだ。これまでと同じことをやっては世界の半導体産業の伸びに追い付けないからだ。まさに正論だと思った。これまでその通りにやってきたからこれからもその通りにやるという考えは今は間違いである。今までダメだったからこそ、今までとは違う方法を考えるという方が時代認識としては正しい。

考えなければならないことは、世界の半導体の平均成長率よりも日本の半導体はなぜ低いのか、それを高めるためには何をすればよいのか、という冷静な分析だ。その分析結果をもとに新しい戦略を考えていかなければならない。

では、世界の半導体産業の潮流はどのようになってきているか。半導体チップの設計も製造もともに複雑になりすぎているため、もはや1社では対応できない。コスト的にもリソース的にも難しい。だからこそ、半導体メーカーは自社の得意な所に集中し、未経験の技術は無理に自社開発せず外部から購入する。これによりどこにも負けない製品をどこよりも早く出荷でき、競争力を付けている。

かつての半導体メーカーは製造装置や設計CADツールを自社開発していた。今はそのようなところは1社もない。今はそれがさらに進んでいる。設計でさえ、システム設計・論理設計と配置配線の物理設計を分担する企業も現れている。物理設計ならどこにも負けない、という企業だ。製造はトランジスタレベルの前工程と多層配線の後工程に分けられている。組立・検査工程はもはや外注だ。

工程があまりにも複雑になり、それぞれ自分の得意なところを手掛ける企業が現れ、それを水平分業モデルと呼んでいた。日本は垂直統合モデルで頑張ると言われてきたが、ここまで複雑になると垂直統合モデルはもはや成り立たない。例外は唯一メモリーメーカーである。大量生産が必要なビジネスだからである。SoCやシステムASIC、ASSPなどはもはやファブレス、ファウンドリに分ける方が実は投資効率ROIが高い。ファブレスはIDM(垂直統合半導体メーカー)よりも2倍以上の高いROIを持っていると言われている。

この1週間のニュースで、IDMであるSTマイクロエレクトロニクスの決算発表がなされ、2009年第1四半期に4億ドルの営業赤字を計上したことが明らかになった。インテルは研究開発投資にアラブの資金提供を受けた。富士通は40nm以下のプロセスはファウンドリに依頼することを決めた。東芝は後工程を外部に移すことを決めた。これらのニュースはすべて自社ができることに集中し、不得意あるいは差別化できない工程を外部に移転することで自らの競争力を強化しようという動きだ。2008年は大手IDMで売上の上がったところは1社もない。不況とはいえすべて前年よりも沈んだ。しかし、いくつかのファブレスは不況にもかかわらず前年よりも業績は伸びた。

こういった複雑になりすぎた半導体ビジネスを経営者がどれだけ認識しているか、によって新しい時代に生き残れるかどうかが決まる。もはや垂直統合モデルでは対応できなくなっている。まずこの認識が必要だ。世界の半導体ビジネスの流れは間違いなく水平分業へと向かっている。

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