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産業再生法による新投資ファンドの設立、大学に眠っている技術を探すとは何?

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先の4月22日にようやく「改正産業活力再生法」(通称、産業再生法)が国会で成立した。ここで初めて、エルピーダやパイオニア、日立製作所などへの公的資金を資本注入できるようになる。実際には日本政策銀行を通じての出資となる。ただ、この再生法の改正点には官民の投資ファンドの設立も含まれている。その投資ファンド企業について日本経済新聞が4月23日付けで述べている。

この再生法によって、「株式会社産業革新機構」なるものが生まれる。大学や企業に埋もれている技術や特許を活用して事業を行うための投資ファンドになるというものだ。しかし待てよ、これまで(ここ10年くらい)大学に埋もれている技術で使い物になったものがあっただろうか。その技術で潤った企業があっただろうか。大学に埋もれている技術とは本当に世の中のニーズに合ったものだろうか。

企業のエンジニアはどう考えるだろうか。眠っている技術とは何か。使い物にならない技術のことではないか?企業がとっくの昔に捨てた技術を大学が拾って研究してまた捨てたものではないか。眠っている技術はなぜ眠ってしまうのか。世の中にニーズに合わないから捨てられずに引出しにしまわれたのではないか。そのような技術がどうして甦るのだろうか。そのような技術を発掘するのに会社組織を作り出す必要がどこにあるのだろうか。

世の中に役立つ技術なら、眠らせずに今まさに研究しているはずではないか。ミイラのように眠ってしまった技術がなぜ将来甦るのだろうか。その根拠は何なのか?

そもそも技術移転と称して、大学の研究した技術を民間へ移転しようとして失敗した大学があった。大学の研究成果で企業が使えるものは眠っているものではなく、今すぐ必要なもののはずだ。しかも、企業からの要請で研究したものであれば有用であるが、企業と遊離して得られた研究物が本当に企業の役に立つだろうか。この視点がこれまでの技術移転議論で抜けていなかったか。

企業の研究開発でも同じこと。ユーザーのニーズを無視して作られたものはさっぱり売れない。誰も買わないものを良い製品だと信じて売り込んだとしても価格が全く折り合わない製品なら誰も買わない。だから顧客に対するマーケティングが重要なのである。お客様は決して神様ではないが、お客の声に謙虚に耳を傾けるという姿勢がなければ、世の中に役に立つ、すなわち売れる商品はできない。

同じように世の中のニーズとトレンドにマッチしていれば、その事業は成功するだろうが、もし時期が遅れてしまったり、あるいはまったく時期早尚だったり、ユーザーのニーズとぴったり合うということは実に難しい。運もあるが、マーケティングしてみる努力も必要だろう。

もう一度大学に立ち返って、大学の教授先生は世の中のニーズや企業人に謙虚に耳を傾けているだろうか。あるいは霞が関のお役人は民間企業のニーズに耳を傾けているだろうか。大学で眠っている技術とは何か、もう一度謙虚に民間企業、あるいはユーザーに聞いてみて再定義する必要があるだろう。さもなければまた、天下り先を確保するためにこの組織を作ったと悪口を言われかねない。

さらにもっと言うのなら、「企業内で良いアイデアの製品やサービスを考えたのに、その企業では使ってくれない、いっそのこと自分で事業を立ち上げたい」。こう考える人の事業プランをくみ取る姿勢こそ、株式会社産業革新機構が果たすべき役割ではないだろうか。こう考えた人たちはかつてApple社を立ち上げたスティーブン・ジョブスであり、アラン・ケイであった。同じような考えで起業したのがSilicon Blue社である。生まれてまだ間もないこの会社のトップはある大手のFPGAメーカーにいたが、低消費電力の新型FPGAを考え付いたが、その企業がアイデアを生かしてくれないから、Silicon Blue社を立ち上げた、と同社CEOのKapil Shankar氏は私の質問に答えた。

こういった新しいベンチャー企業の手助けをするのが株式会社産業革新機構ではないかと思う。

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