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今年のキラーアプリは環境ビジネスにあり、半導体市場はここから爆発か

明けましておめでとうございます。
今年は、太陽電池やリチウムイオン電池など、環境関連電子部品がブームになる元年ではないか、と考えている。太陽電池にせよ、リチウムイオン電池にせよ、半導体にもここにビジネスチャンスがある。半導体メーカーにとって太陽電池はやっていない、電池も関係ない、というのではダメ。太陽電池の製造技術はフラットパネルディスプレイ技術と酷似しており、製造装置メーカーが太陽電池へとシフトすることはごく自然の成り行きだが、半導体チップメーカーにも実は大きなチャンスとなる。

フラットパネルディスプレイには欠かせないドライバICと同様に、太陽電池やリチウムイオン電池には、DC-DCコンバータやDC-ACコンバータ、パワーMOSFETやIGBT、パワーJFETなどのパワートランジスタとショットキーダイオードは3相モーターを制御する上で欠かせない。これらのパワートランジスタをドライブするためのICもいる。そのICをデジタル制御できるとさらに管理しやすい。ここにマイコンやプロセッサが使われる。過電流・過電圧保護回路素子、過渡応答ノイズやサージに対する高速動作の保護デバイスやバリスタ、ツェナーダイオードなどの受動部品も欠かせない。

さらに、そういったドライブICを制御するためのさまざまな回路ICも必須だ。電池用途ではパワーマネジメントチップだけではなく、バッテリーマネジメントICも欠かせない。当然、微調整やトリミングのための小容量の不揮発性メモリーや冗長構成の回路技術、アナログオペアンプ、コンパレータなどのアナログICも必要だ。もちろん、マイコン制御でも可能だ。そういった制御回路の制御動作を肉眼で確認するための液晶ディスプレイも要る。その液晶ディスプレイをもっと楽しく人間のジェスチャー動作を読み取るインターフェースとしてiPhoneのようなタッチパネルも面白い。そのタッチパネルを制御するICチップもいる。

太陽電池やリチウムイオン電池の周りにはありとあらゆる半導体チップが必要とされている。だからこそ、半導体ビジネスにとってもこれらの環境デバイスは大きなビジネスチャンスとなるのである。ここに目を向けないわけにはいかない。

半導体メーカーが狙うべき、次の大きなビジネスチャンスは何も携帯電話やITだけではない。グリーンITとしての低消費電力分野だけではない。環境デバイスを安定に動かすのは半導体ICである。太陽電池は太陽が当たっている時しか電流は流れない。夜間は全く電気を作れない。昼間の電気を充電できるリチウムイオン電池は欠かせない。充電制御ICは言うまでもなく、精密な制御や純粋の起電力を測定するための回路ICなども求められるようになる。リチウムイオン電池は、急速充電と充放電サイクルの長寿命化が課題となっている。それを電池そのものの技術ではなく、半導体技術で達成できる技術を開発しているベンチャー企業もある。

半導体プロセスエンジニアからは、キラーアプリが欲しい、次のキラーアプリは何か、を議論していることをよく聞く。しかし、半導体ICを必要とする分野は無限にある。何がキラーアプリになるかは、どのような分野が今強く望まれているか、ということと強く関係する。米Semiconductor International誌のLaura Peters編集長は、今の時代をかつての米ソ冷戦時代の幕開けと似ていると関係づけている。彼女は2005年にナショナルセミコンダクター社CEOのBrian Halla氏の講演を引用し、かつてスプートニク号で有人衛星においてソ連に先を越された米国は、必死になってアポロ11号の有人月面到着で巻き返した。米国の科学技術を復活させ、景気回復には環境ビジネスが最も適していると主張する。オバマ次期大統領は環境へのシフトを加速すると見るアメリカ人の半導体業界関係者は多い。

半導体産業にとって環境こそがキラーアプリとなるだろう。だからこそ、太陽電池とリチウムイオン電池の周辺に欠かせない回路をIC化する、あるいはこれまでよりももっと賢い方法で制御するためのアルゴリズムやソフトウエアを開発し、チップに埋め込んでしまえば勝てる。この環境ビジネスを見逃していると、米国や下手すると台湾のファブレス半導体チップメーカーにやられてしまいかねない。その昔、マイクロ波半導体を開発していたとき、上司から半導体の勉強よりシステムの勉強をしろ、と口酸っぱく言われていたことを思い出す。半導体エンジニアは、システムの勉強をすることでどこにキラーアプリがあるか、学び取ることができると思う。

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