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今回の金融危機から専門家に任せてはいけないことを学んだ

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日銀が15日に発表した日銀短観によれば、企業の景況感がかなり悪化しているという。短観は日銀が企業に対して行ったアンケート調査の結果である。これは企業の経営者が景気を悪くなると考えていることを表している。景気が悪くなっていることは事実だが、必要以上に悪いと考えてはいないだろうか。日本の円は、85年のプラザ合意を思い出すほど高くなっている。1ドル90円という絶好調の好景気の時のように円高になっている。昨日は一時89円という値を付けた。

世界、特に米国と米国への輸出に頼っていた国々や、金融危機のとばっちりを受けた欧州などは日本よりもずっと悪い。だから円が高いのである。日本はこれらと比べてまだましなのに、なぜ不況、不況というのだろうか。必要以上に悪いと言っているような気がしてならない。マスコミやメディアがあおっているかもしれないが、マスコミのせいにしてはいけない。世界の景気と日本の景気を自分で考えて判断すべきではないか。確かに、半導体製造装置業界は未曽有の受注減だから不況といえるだろうが、むしろアセットとみなす製造装置のビジネスモデルを考えなおしたり、半導体チップのビジネスモデルを考えなおしたり、景気を良くするための方策を議論していくべきではないだろうか。

半導体、エレクトロニクス産業、製造業を30年近く追いかけてきた筆者にとって、専門という縛りはもはや要らないように思う。学生から若いエンジニアの時代は半導体物理を専門としていたが、そのような専門という言葉はもはや意味を持たない。今は半導体物理の専門家ではない。しかし、シリコン半導体はまだまだわからないことが多いと思う。もはや専門家ではないのに、pn接合でさえ明らかになっていないとずうずうしく言おう。疑問に思うことがあるからだ。順方向に電圧をかけていく時のエネルギーバンド構造が厳密にどう変わっていっているのか、抵抗成分はバンド構造にどう働いているのか、その時のボルツマン分布を描く電子はpn接合バンドをのり超えるのか、抵抗によるバンドの傾きで転がり落ちていくのか、空乏層によって形成されたバンドの端での量子力学的な電子の反射はないのか、などについて本当にわかっているとは思えない。専門外であっても何にでも疑問を持つことが大事だと思う。

同じようなことが今回、金融の世界で起きた。私たち半導体関係者は金融の専門家ではないからと言って、金融問題を深く考えることをしてこなかったが、今回金融の人たちは住宅ローンの債権化によって利回りを生めると考えた。とんでもない素人ではないかと私は疑いを持った。お金を貸している相手が低所得者(サブプライム)であり、しかも日本のサラ金のような高い利息で貸し付けておいて、本当に返せるとまともに考えていたわけだから。ちょっと考えても無理だと思うのが常識だろう。

何が言いたいかというと、自分は専門外だからという言い訳で考えることを放棄してはいけないということだ。専門外であってもおかしいことはおかしい、と言うべきではないだろうか。2年前にシリコンバレーに行き、タクシードライバに1軒の家の値段を聞いた時、1億数千万円だと言った。自分の常識ではこれはバブルだと直感した。一般庶民がそのような高額の家を買えるわけがないからだ。事実、その前までシリコンバレーの住宅は数千万円という常識的な値段だった。

つまり低所得者が1億数千万円もする家を買えるなんて到底思えないだろう。しかし、世界の金融専門家は、低所得者層が1億円を優に超える家を買ってローンを返せるとマジで考えていた。だから今回、金融関係者が素人だといえるのである。

ということは、私たちは経済の景気がどうなるか専門家と称する人たち、コンサルタントと称する人たちの意見に頼ってはいけないということだ。あくまでも自分の耳、目、知識、常識、嗅覚などを信じて自分で考える習慣をつけようではないか。事実、原油が1バレル140ドルまで上がった時のテレビで見た数名の経済専門家の予想はすべて見事に外れた。中には200ドルまで行くと予想した専門家がいた。こういった専門家に頼ることはもうやめようではないか。どんなに専門外と思われる分野でもそれなりの知識で武装し、自分のこれまでの知識と照らし合わせながら考えていけば、先が見えてくるものだ。

必ずや半導体産業の明日はある。これをどう自分のものにしていくか、考えよう。

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