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カーエレクトロニクスから始まる半導体チップのトレーサビリティ

11月10日の週は、丸丸1週間ドイツのミュンヘンで開かれたエレクトロニカ2008を取材する機会に恵まれ、併設されたWireless Congress 2008やカーエレクトロニクス関連のセミナーなども含めて取材した。カーエレクトロニクスセミナーでは、インフィニオンのハイブリッドカー向けの3相モータードライブ用モジュールの発表とともに個別取材で話をうかがうことができた。カーエレクトロニクスでは部品のトレーサビリティへの関心がきわめて高いことがわかった。

トレーサビリティへの関心が高いのは、自動車という人命にかかわるシステムを取り扱うからである。自動車用のECU(電子制御ユニット)にID番号を振ることは言うまでもないが、内部の半導体デバイスや部品、材料に至るまでいつどこでどのようにして製造されたものなのかを同定するID番号を付けてもし問題が起きた時にすぐに対処できるようにしたい。部品や材料がモジュールや最終製品に使われてもいつ誰がどこでどのようにして作ったのかを同定しておけばエンドユーザーが問題を起こしても元をたどることができる。


Infineonのハイブリッドカー向けモータードライブモジュールInfineonのハイブリッドカー向けモータードライブモジュール
左下の2次元バーコードにモジュールのID情報を入れている


半導体チップのトレーサビリティとは、チップがいつどのロットから切り出されたシリコン小片なのかを即座に判明できるようにID番号をふったりウェーハから切り出したチップを正確にコンピュータ管理したりする技術である。問題が起きた時には、いつのロットなのか把握できれば他のチップに対しても追跡し、早めに問題に対処できる。

半導体デバイスのトレーサビリティは偽物対策にも有効だ。これまでは、いわゆる捺印を押して製品番号とロット管理番号を把握するようにはしている。しかし、昨今の産地偽装問題、偽物ブランド問題などが起きている現状をみると、捺印を消して書き換えることはいくらでもできる。時々耳にするのは、1GHzで動作する半導体チップの製品番号やロット番号を書き換え、2GHz動作と称して売りさばく詐欺が存在しているという話だ。

パソコンに入っているプロセッサが2GHzで動くはずなのに、なんだか遅いなあとぶつぶつ言いながら仕事していると、それが実は偽物のプロセッサだった、ということがありうるのだ。パソコン用途では現実問題となっているらしく、米インテル社は半導体チップのトレーサビリティ問題には強い関心を示している。パソコンユーザーなら騙されたで済むかもしれないが、人命にかかわるカーエレクトロニクスでは絶対に許されない。

プロセッサやSoCが機能しなかったために車が事故を起こしたら、、、。デバイスの応答速度が遅かったために事故につながったとしたら、、、、。アラームを鳴らすべきスレッショルドがずれてアラームが鳴らず事故につながったとしたら、、、。自動車エレクトロニクスでは、半導体チップが本物であることは事故を回避するための第一歩にすぎないが、偽物は決して許されるべきものではない。保証すらできないからだ。

では、どうやってIDをつけるのか、どうやってチップを管理するのか、そのデータフォーマットはどうなるのか、SEMI(国際半導体製造装置材料協会)では半導体チップのトレーサビリティに関して協議を進めてきた。いまその実態はどこまで来ているのか。それを知る機会をセミコンポータルは提供する。12月18日東京・港区虎ノ門の虎ノ門パストラルにおいて、SPIフォーラム「車載半導体、品質とトレーサビリティのインパクト」を開催する。トレーサビリティの実態を知らずに自動車エレクトロニクスはもはや語れなくなる。

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