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ドイツのインターネット事情の悪さから見えてきた日本の美観への鈍さ

ドイツのホテルではインターネット料金が24時間で22ユーロ(3000円弱)と高くて驚いた。無線でも有線でも同じだ。無料のワイヤレスLANなんて存在しないようだ。ミュンヘンの見本市会場ではワイヤレスLANはあることはあるが、プリペードカードを購入して使う仕組みだ。カードにはIDとパスワードが書かれており、パスワードは銀ペーストのような薄い膜で隠されており、コインで削って出てくる。なぜインターネットが高いのか。ドイツ人に聞いてみた。

ミュンヘンの電車の中では、他の国の人と同様に電車の中で携帯電話をかけている人をときどき見かけるため、携帯電話事情が他の国と同様に進んでいるのかと思っていた。しかし、ドイツではワイヤレスLANだけではなく、携帯電話そのものも遅れている、とインフィニオンの広報マンのクリストフさんは言う。言われてみて人々を注意して見ると、日本のように電車の中で携帯電話を見ている人は一人もいない。電話をかけている人はときどき見かける程度だ。電車のなかで電話を使うことがマナー違反だとする国は、日本以外にはない。ドイツでも他国同様、電車内で電話をかけることに対して文句を言ったり、マナー違反だとする風潮は全くない。日本だけが異常なのである。日本では携帯電話を電車内でかけることができないということを外国人に言うとみんな驚く。変わっているね、日本はと。

話が少しずれたが、無線LANやインターネットが普及しない理由を、この長髪イケメン広報マンは、ドイツではいまだに携帯などの無線電波が脳に悪影響を及ぼすと思っている人が多いからだ、と嘆く。インフィニオンがときどきADSLやVDSLなどの高速チップを発表しているが、日本ではVDSLなどはほとんど普及しておらず、みんな光に変わっている。光ファイバの浸透は日本では当たり前になっている。デジタル機器では常に遅れたグループにいる私でさえ、家では光ファイバを使っている。

ドイツでは光ファイバは幹線以外、全くありえない。FTTH(fiber to the home)の世界から隔離されている。なぜか。これもクリストフさんは、だって光ファイバを敷くには道路を掘らないとだめだから、コストがかかるんだよと答えた。光ファイバの考えも日本とは全く違う。どう違うか。

ドイツの家は規制が多い。美観を重視するため、電柱は住宅地には立てられないことが多い。ドイツに限らず欧州では住宅の壁や屋根の色を統一し、窓の枠には白を塗るという規制のある国が多い。住宅に統一感を持たせ、美観を重視するからだ。光ファイバケーブルの敷設は文字通り道路に埋設する。このため電柱は立てない。日本と違って電柱にゲートウエイ装置をポッと置くことができない。だからコストがかかるのである。住宅の美観を優先するか、光ファイバを優先するか、日本は美観を二の次にしている。

私の住んでいる住宅地では美観上という理由で、テレビアンテナを立てずに共同アンテナを別の場所に設けケーブルでテレビを見ている。テレビのアンテナを屋根の上に設置している家はゼロではないが少しある。住宅業者は美観上、共同ケーブルでテレビを見てくれと、住宅を購入するときに言っていた。しかし一方で、電柱はバンバン立ててくる。電柱には電力線だけではなく電話線、テレビのケーブルに加え、光ファイバケーブルまでも引きまわしているため、電柱から出ているたくさんの数の電線の見苦しいこと極まりない。美観と言いつつ、電柱のケーブルが何本も引きまわされている状況は、逆に美観を100%損ねている。

光ファイバは確かにデータレートが速く使い勝手は良い。しかし美観を無視したやり方で本当にいいのか、疑問は残る。もちろん、ドイツのように光ファイバ=地中を掘って埋設、という図式ではいつまでたっても光ファイバはやってこない。美観を維持したまま、コストを安く、光ファイバをひけないものか、知恵はないのか。あればビジネスチャンスだ。

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