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ラバースタンピング産業から脱皮して高付加価値産業へ転換する方法を考える

Rubber stamping industry(ゴム印で押すだけでできる産業製品)という言葉がある。ゴム印を作りさえすればそれを何回も押すだけで製品が出来てしまうような産業を指す言葉だ。メモリーやフラットパネルディスプレイ(FPD)がこれに当てはまる。これらは一見、ハイテクに見えるが、設計はさほど難しくない。一つのセルや画素を作ればあとはそれをたくさん並べるだけである。これまで日本の得意製品はまさにラバースタンピングインダストリーだったかもしれない。

ある意味で誰でもすぐに追いつける産業である。だから台湾や韓国が日本人以上に努力すれば追いつくことはやさしい。セルや画素を1個うまく設計すれば、あとは並べていくだけだからだ。メモリーもFPDもいまや台湾や韓国が強い。FPDは日本をずっと追い越してしまった。似たような製品は液晶ドライバもしかり。

ロジック設計はこうはいかない。回路ごとに設計しなければならない。ASICがまさにこれだ。しかし、顧客ごとに回路を作りなおさなければならず、労力がかかるばかりで収益が伸びない。これに対してASSPは大量生産できるロジックだから、半導体産業で利益を生む製品である。ところが日本はASSPに弱い。日本発のASSPがなかなか生まれない。ASSPはA社にもB社にも使える製品だからこそ、A社とB社の共通項をくくり、最大公約数を求めるという作業が必要になる。これがマーケティングの原点となるはずなのだが、日本企業はマーケティングをいまだに軽視しているという声をよく聞く。

ハードウエアだけではない。ソフトウエア設計でも同じようなことが言える。似たようなサブルーチンを何度も書いたり、同じようなやり取りをひたすらやるだけの作業でプログラムが膨れ上がるのなら、腕力でできる。むしろ、人間の手を使わなくてもよい。ソフトウエアの書き換えでいろいろな機能を実現できる組み込みチップに焼き付ける、賢いソフトウエアは誰もが欲しがる。

もっと少ない行数でプログラムを書くにはどうしたらよいか、ということにも知恵を絞るべきではないか。40年近く前のコンピュータ=メインフレームの時代に、パソコンという概念を生み出したアラン・ケイ氏に数年前インタビューしたとき、WindowsのXPは4000万行という膨大な愚かなソフトだと彼はこき下ろした。100万行程度で高度なソフトウエアを生み出せる手法を考えることこそ、人間の知恵であると言った。

どうしたら万人共通の回路ができるか、どうしたら性能がよく回路規模の小さなICを設計できるか、どうしたら少ないソフトウエアで組み込みシステムに応用できるか、どうしたら少ないマスクで品質を損なわないICを製造できるか、どうしたら少ない回路でマルチコアや並列処理を実行できるか、どのようなメモリーとロジックでもTSVで接続するためにはどうしたらよいか。ひたすら考え、実験してみて、考え直して実験を繰り返して、最適解あるいは革新的な解をみつけることができれば、おそらく簡単に追い付けないICができるだろう。これこそ、挑戦である。

さらに、生み出したチップの売り方にも知恵を絞り、知的財産権としてのビジネスにもつなげるためにどうしたらよいのか、このことについても考え抜き、新たなビジネスモデルを生み出す。これを日本企業が身につければ世界には決して負けない。

逆に外国から知恵の詰まった技術を即座に買い、日本の得意な製造技術と組み合わせて、世界にない製品を誰よりも早く作り出すこともよい。日本にないものと日本の得意なものを組み合わせることで競争力のある製品を作り出す能力は日本人にはある。

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