Semiconductor Portal

HOME » ブログ » 津田建二の取材手帳

金融危機であらためて考える日本のモノづくり

先週は、先進7カ国の蔵相会議であるG7が開かれ、ここのところの株安が象徴する世界経済の低落傾向に歯止めをかけようとする議論が交わされた。リーマンブラザーズ証券が倒産し、モルガンスタンレー証券に三菱UFJフィナンシャルグループが出資するという、稀に見る金融危機を迎えた。G7での発表を受け、ようやく週明けの株式相場は落ち着きを戻し、株価は上昇に転じるようになった。

金融業界が、マネーゲームとしてお金にまで価値を付けてお金を遊び道具に使うようになった。ある意味でギャンブルに近い。ハイリスクハイリターンという金融商品はギャンブルそのものである。挙句の果て、返済能力の明らかに欠けた低所得者層にまで大金を貸すようになり(これがサブプライムローン問題)、貸したお金の運用と称して、証券化してあたかもネズミ講のように分配して行き、結局行き着くところは借金を返せなくてホームレスが大量発生し、金融機関にはお金が入らなくなり、倒産・身売りということになった。

この現代金融危機は自由に物やサービスの販売ができるという市場経済が行き過ぎてしまった所にある。このため、金融機関の救済に公的資金を導入するという社会主義統制経済を導入することで行き過ぎた資本主義を呼び戻そうとしたのが、G7であった。日本はもともと中央政府・霞が関が統制したがる社会主義的な色彩が強い。だから、公的資金で銀行を最初に救った国となった。

学校で銀行や金融商品を教えるようなことがあったというニュースをかつて見たが、日本は金融が強い分野なのか?小学校で教えるべきことは金融ではないはずだ。日本のコアコンピタンスはモノづくりではなかったか。だったらモノづくりをもっと強化する方向に日本のビジョンを立てるべきではないか。ものづくりを強化するなら、当然小学校から理科教育の強化が必要となろう。ものづくりに必要な深い洞察力を備えた人材育成、そのために男女の差別のない教育、外国人と日本人を差別しない教育、人間を尊重する教育を前提にして、考える教育を推進し、ものづくりに欠かせない要素を国を挙げて強くすることが早急に始めるべきことではないだろうか。

お金を遊び道具にするマネーゲームを教えるのではなく、モノづくりを徹底的に教えるべきであり、これが日本を強くする。さらに、マネーゲームではなくビジネスを教える。設計製造した製品に付加価値を高めて売るためである。どのようなビジネスモデルがあるか、どのような人がビジネスをしているのか、どのようにすればビジネスができるのか、さまざまな新ビジネスの例などをケーススタディとして教えていけば、小学生・中学生・高校生・大学生にまでビジネスを理解できるようになる。利益率の高い企業と低い企業の差は何か、有利子負債の大きな企業と小さな企業との差は何か、キャッシュフローを重視するためにはどうするのか、ビジネスを行う上で必要な知識を実例を挙げながら学べるようにすると面白いだろう。モノづくり技術とビジネスという両方の知恵が必要なのだ。

金融危機の影響はモノづくりにも悪影響を及ぼす。特に、貸し渋りが激しくなり、中小・零細企業への融資がされなくなると、黒字倒産でさえありうる。こういうところがつぶれるとモノづくりにとって非常にまずい。

ちょっとした特殊な実験器具を作ってほしいと大田区や東大阪の中小企業にお願いするとすぐに作ってくれる。日本にいると当たり前のようだが、このような国は日本しかないのである。Supporting industryを強化することもモノづくりには欠かせない。韓国や台湾の底の浅さはこのSupporting industryが弱いことだ。欧州やシリコンバレーはSupporting industryはなくても創造的なアイデアがそこいらじゅうから出てくる。日本の強みはこのSupporting industryである。この仕組みが崩れたらモノづくりの明日はない。そのためには金融サイドは貸し渋りが起きないような監視の仕組みやセイフティネットを構築することだろう。

ご意見・ご感想