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世の中の役に立つ重要な研究を考え抜いた結果、ノーベル賞につながった

今年は、日本人ノーベル賞が物理学3名、化学1名というかつてないほどの大勢の方が科学の分野で受賞された。本当におめでとうございます。同時に、同じ日本人として誇りに思う。日本人が優秀な民族であることを示してくれた。2002年に小柴昌俊氏、田中耕一氏が受賞して以来の快挙である。

これまで半導体分野では、江崎玲於奈氏、白川英樹氏が受賞された。江崎氏は量子力学的なトンネルダイオード、白川氏はプラスチックトランジスタを発明された。江崎氏はトンネル効果を起こす接合1個のダイオードだけではなく、多数のトンネルを並べた、いわゆる超格子という概念へと発展させた。超格子の概念はその後、歪シリコンへとつながってきた。まさに現代の半導体技術の中にまでも入り込んできている。

今回の受賞者を眺めてみると、物理学賞を受賞した最年長の南部陽一郎氏、化学賞を受賞した下村脩氏ともアメリカ在住で、米国の大学の名誉教授である。日本人ではあるが、すでに米国籍を取得したアメリカ人でもある。一方で、受賞者の一人、京都大学名誉教授の益川俊英氏は英語が嫌いで一度も海外へ行った経験がない。すべて基礎研究に従事する人たちだ。受賞された研究は40年も前のものだという。

今朝の日経新聞には、江崎玲於奈氏と、今回の受賞者の中で最も若い小林誠氏の対談が掲載されている。小林氏は、若い人に伝えたいことは何か、という質問に対して、「新しいブレークスルーは多様な考え方の中から出てくる。どこにチャンスがあるかわからない」と述べられている。南部陽一郎氏は、「ずっと先のとてつもないことを考えるのが好きなのです」と言っている。

今回の受賞の要因について決定的な報道はまだ出ていないが、40年も前の研究が実は人類の役に立っていることが最近になってようやくはっきり分かってきたからではないだろうか。化学賞の下村氏が受けた研究はクラゲの中のバイオルミネッセンスを出すたんぱく質を見つけ、それがDNA解明やがん治療の役に立っていることが分かってきた。物理学賞受賞者は、素粒子すなわち物質を構成する基本粒子の研究に取り組んでいた。そのきっかけは、超電導現象を表すクーパー対が崩れてしまう仕組みの解明だった。わずかなエネルギーで構成されるクーパー対は、歪シリコンや歪超格子などを直線的な1次元方向に走る電子の様子と似ており、クーパー対の崩れというテーマは半導体デバイス物理にも共通するテーマである。

基礎研究が何の役に立つのか、最初は基礎研究に従事する当の本人さえわからないことが多い。しかし、誰もチャレンジしたことのない全く新しい分野を切り拓くという精神が今回の結果に結びついたと各氏は言っている。

一方で、全く自由に研究することがすばらしい成果を生むということは何十年も前から言われていたが、ノーベル賞受賞者のふるまいをただ単に真似たり、自由に好き勝手に行動することが世の中に役立つ成果を生むわけではない。

今回受賞者に共通することは、受賞対象の発見にたどりつくのに、考え考え考え考えつくしたことだ。南部氏は四六時中常に考えること、益川氏は今回の仕事の発見には3時間程度の睡眠で1ヵ月も考え続けたと言っている。自由に研究するとしても考え抜くことがなければ、単なる個人趣味のわがまま研究にすぎなくなる。

基礎研究はもちろん重要だが、将来役に立つテーマや人を見抜く力をつけることも重要だろう。趣味のわがまま研究とノーベル賞級の研究とは、はたから見ても区別がつきにくい。きちんと判断区別できる人間を組織化し、育成していくことはこれからの基礎研究の在り方に必要ではないだろうか。そのためには、小林氏が示唆しているように、いろいろな分野を認め合い、互いに学ぶことが世の中に役立つ研究につながっていくのだろう。ほかの分野の人たちの考えや意見を交流することはきわめて重要である。

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