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最先端技術で低価格製品を大量に作るためのビジネスこそ半導体の真骨頂

ウェーハレベルパッケージングという最先端の実装技術を使い、低価格の製品を作り、市場の大きな中国やインドの安い携帯電話用に売り込む。9月25日に東京港区の竹芝にあるインターコンチネンタル東京ベイホテルで開催されたテセラ社(Tessera Technologies)のセミナーに出て、付加価値の高い最先端技術を使って低価格の製品を作るテセラの戦略を目の当たりにして深く考えさせられた。

とかく日本企業は、付加価値を付けて高く日本国内に売ることを長い間やってきた。典型的な例が携帯電話だ。携帯電話にさまざまな機能を付け、国内市場に売ってきた。付加価値の高いものは高く売れることを信じて、まずは日本市場、次に海外市場へと向けてきた。しかし、中国をはじめとする海外市場では惨敗した。

日本企業は低コスト技術を馬鹿にしてきたのではないだろうか。低価格にするための技術は付加価値が付かず安くしか売れない、と思い込んでいるのではないだろうか。半導体ビジネスの世界は実は違う。低価格にするための技術が必ずしもローテクを使っているわけではない。むしろ、低価格にするための1チップソリューションは、微細化と複雑な回路の設計技術の固まりである高集積技術が必要だ。しかし大量に使われ大量生産可能だから安く売れる。例えば、テキサス・インスツルメンツ社の前会長のトム・エンジボス氏にインタビューしたとき、彼は機能をたくさん付けたアプリケーションプロセッサは先進国向けに、基本機能をすべて集積した1チップLSIは発展途上国向けにそれぞれ設計すると言ったことを思い出す。

多数の機能を盛り込んでカスタマイズすることは高く売れるが、必ずしもハイテクとは限らない。汎用で高集積のASSPはハイテクだが、低価格である。どこのだれもが使えるような汎用でしかも高集積な1チップLSIが大きな市場の発展途上国向けの機器に売れたら、高い売上を得ることができる。それは高集積なハイテクを大量に安く売るビジネスである。

かつてのDRAMがこれに近い。高集積なハイテクだが、量産できる低価格商品だ。日本企業はかつてDRAMで大いに儲けた。ところが、今はカスタマイズが付加価値を生むと考え、市場は小さいが高く売れる商品にしか目が行っていない。

ビジネスが潤うのは、ハイテクを使った低価格商品ではないだろうか。もちろん、市場の需要を無視してはいけない。作りすぎると予想以上に買いたたかれ、たとえハイテクでも安すぎるという結果に陥ってしまう。今のDRAMやNANDフラッシュがこれに当てはまる。別名Rubber stamping industry(ゴム印で押すだけでできる商品)ともいわれるメモリーは、ロジックやアナログほど設計が複雑ではない。ある意味では誰にでも作りやすい商品だ。

ではどこに大きな市場があるのだろうか。言うまでもなく中国やインドで大量に売れる製品市場だろう。携帯電話や5万円PCなどが有望だと見られている。インテルのAtomプロセッサとそのチップセットはまさにこの市場を狙ったものであるし、テセラが狙うのは画素数がVGA程度の安いカメラ付き携帯電話機市場である。

テセラの夜の懇親パーティで、日本企業はやはりグローバルになれない、という大手半導体メーカーのエンジニアがいた。しかし、このままでは必ずじり貧になる。否が応でも海外企業が海外だけではなく国内市場にもやってきて、日本企業だけが国内を見ているという状況では負けるしかないからだ。もっとグローバルにものを考え、グローバルに行動しなければ企業は本当に滅びてしまう。

グローバルな企業がどのようにものを考え、どのように行動しているか、セミコンポータルが主催したSPIフォーラムではそのヒントを海外企業からもらった。3月の半導体エグゼクティブセミナーではIBMの味園真司氏がIBMは設計の拠点を今作るとしたらどこを本部にすべきか、という視点で考えインドに本拠地を置いた、と述べた考えは、マクドナルドの戦略と共通する。マクドナルドは、今、世界のどこで生産している牛肉が最も安いかを常にチェックし、ある時はオーストラリアから、別の時はブラジルから買い付け、世界中に展開しているマクドナルド全店に供給する。

要は、ビジネスの視点をグローバルに置き、考えるのである。セミコンポータルは9月にもグローバルに視点を定め、セミナーを開いた。海外のものの考え方を紹介した。次回もグローバルな知恵を借り、ヒントをもらうセミナーを企画しようと思う。

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