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国産技術にこだわる国粋主義がかえって日本を弱くするのではないか

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国境をなくしたコンソシアムにおけるコラボレーションが進む中、日本では日本独自のコンソシアムを作るべしとか、国産のOSを浸透させようとか、時代錯誤的な発言を最近いくつかのセミナーで聞いた。本当に日本独自開発の技術は日本のためになるのだろうか、考察してみる。

SEMATECHにはもはや連邦政府の税金が全く投入されていないし、IMECに投入されるベルギーフランダース地方の税金の比率は毎年下がっていく。民間企業主体のコラボレーションのコンソシアムが地球上にすでにできているのに、なぜ日本独自のコンソシアムが必要なのか、その理由はよくわからない。企業はグローバルへどんどん進出し、市場を開拓してゆかなければ競争に勝てなくなり、日本市場をもはや相手にはしていられない。SEMATECHやIMECでさまざまなノウハウを手にいれ、日本企業がそれを元に業績を伸ばしていくという構造を崩すほどのメリットはいったいどの程度あるのだろうか。

携帯電話のOSとして国内でトロンが一部使われてきたが、トロンで今後もさまざまなアプリケーションプロセッサ上で動かすことができるのか、サポートはどこまで充実させられるのか、携帯メーカーや半導体メーカーは不安に駆られることが多い。欧州発の携帯電話向けOSのSymbianなら、Nokiaがこれまでも今後も載せることを決め(買収でさらに強固になった)、NTTドコモまでがSymbian Foundationへの参加を表明した。Symbianは誰もが安心して今後も継続して使えるOSだと認められた。もちろん、AppleのiPhoneやGoogleのAndroidというコンペティタが登場したことも背景にはある。

日本にとって国益とは何か。何を国益と定義するのか。Google辞書で国益を引くと、「対外関係における国家の利益」とあるが、国家の利益とは何か。あいまいなままの言葉で終わっている。実はこの定義を国会議員や霞が関からまだ聞いたことがない。そこで、私なりに定義してみる。国益とは、国民みんなが豊かに生活できるような社会に見合う、国としての利益、だと考える。

日本企業が汗水流してモノを生産し売っても利益を稼げなくなると、国家にとって税金が入らなくなる。外国企業をたくさん日本へ誘致して外国企業や外国人が日本で税金を納め、その税金で日本人が豊かになるのであればそれは国益ではないか。海外進出して、売上を伸ばし利益を確保する企業はその法人税を日本に納め、国を豊かにすることに貢献する。要はどこで生産しようが、日本国に税金を納め、国民が豊かになるのなら、国益になるはずだ。

つまり、日本のコンソシアムでなくても海外のコンソシアムに参加して、すぐれた製品を開発し、売上や利益を伸ばすことができれば、それは大きな国益となる。逆に、日本独自のコンソシアムを作り、日本企業の参加を呼びかけたとしても、企業がトップエンジニアを社内に温存し、セカンドランク、サードランクのエンジニアをコンソシアムに送り込むとしたら、そのコンソシアムの活動はどう評価すればよいのだろうか。

コンソシアムで得られた経験を製品開発に生かすことができず、売上・利益を伸ばせないとすれば、その企業が国へ納める税金は少なくなり、国益に反することにならないだろうか。つまり、国産、日本発の独自技術ということだけで、世界に通用しないものなら、国益に反するものと言わざるをえない。

となると、あえて国産とか、日本企業だけの集まり(コンソシアム)とか、独自OSとか、こういったものは本当に国益に適ったものなのか、みんなで議論すべきではないだろうか。テレビ討論などで使われている国益という言葉は本当に国民を豊かにするものだろうか。格差社会、貧富の差の拡大、年収300万円で暮らせると主張する大金持ちの評論家など、矛盾だらけの社会だからこそ、本当にみんなが豊かになれる社会を創出するという視点で半導体コンソシアムを考える必要があろう。

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