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編集権と企業倫理

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米国の大手メディアのニューズコーポレーションによる米大手新聞ダウ・ジョーンズの買収が正式に決まった。ダウ・ジョーンズは日本でいえば、日本経済新聞に相当する経済新聞のWall Street Journal(WSJ)を発行している新聞社である。株式指標も提供しており日経とよく似ている新聞社だといえる。そこが、一般大衆紙を発行しているニューズ社に買収されたわけである。

世界的なメディアの再編はこのケースに限ったことではない。世界的な大手通信社のロイターと、金融から法務、科学などをカバーする総合メディアのトムソンが合併する話を役員同士で5月に始めたことを明らかにした。B2B出版で世界最大規模の売り上げを誇るリード・エルゼビアが、教育出版部門の一部を英ピアソンに売却することを決めた。ピアソンは世界的に定評のあるフィナンシャル・タイムズやエコノミストを発行する新聞出版社だ。タイムワーナーがCNNやAOLを買収したことも記憶に新しい。

評判の良いメディア経営者が別のメディアを買収する場合には、それほど大きな問題にはならないが、今回はなぜ問題が出ているか。ニューズ社は、地上波もケーブルも衛星も含めたテレビ局を持ち、さらに数十もの新聞も持つ。しかし、スキャンダラスな話題やヌードまがいの写真を掲載するような超大衆紙のザ・サンでも有名である。ここが、質の高い経済情報を提供してきたWSJを傘下に収めることで、経営者が編集部門に口を出すことをWSJ側は警戒している。

ただし、ダウ・ジョーンズ側にも油断があったようだ。8月1日付けの日経新聞によると、大株主のオーナー一族は、会社に対して無理な配当を要求したという。2005年度は6000万ドルの純利益に対して、8200万ドルという異常に高額の配当を支払ったと伝えている。オーナーは編集権には口を挟まなかったとはいえ、常識はずれの配当をもらっていたところに、ニューズ社のマードック氏が目を付けたのだろう。

日本では株式上場していないメディアは多く、オーナー株主の意図に左右される懸念はある。しかし、どこの誰が買うかわからない買収の危険はない。どちらが得かを議論しても始まらないが、株主や企業経営者が編集権に対して理解を示し、言論の自由を尊重するという自主独立の精神を重んじるかどうかによって、そのメディアの価値は決まると思う。これを理解していればメディアの独立性が損なわれることはない。一方で、株主でもあるオーナー企業経営者には、自分の利益だけを求めない潔さが常に求められる。


津田建二

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