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標準化・相互運用性を技術以上に重要と認識できるかが成長のカギ

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先週、京都で開かれたエレクトロニクス実装学会関西支部主催のワークショップで基調講演させていただく機会があった。ポスターセッションもあり、新しい実装技術、半導体パッケージング技術の最先端分野を見ることができた。私だけではなく、参加されたベテランエンジニアの方々も最先端の製造技術が日本で多数生まれていると実感したと述べていた。

やはり、日本のものづくり技術はすごい。関西での実装技術のレベルはかなり高い。信頼性が高く、チップが割れない、ICチップ基板内蔵技術が続出し、世界に先駆けて実用化されようとしている。TSVによるシリコンインターポーザ技術や、25μmピッチと微細なCoC接続技術、樹脂をクッションとして用いる20μmピッチのAuバンプ接続技術などの発表もあった。

一方で、この半導体産業全体ではビジネス的には売り上げが伸びず利益も伸びていない。つまり、技術的にはすごいものを持っているのに企業の収益に貢献していないことになる。すごい技術がお金になっていないのである。

なぜか。何人かのベテランエンジニアと話をしていると、どうやら企業の経営層が技術以外の、標準化や相互運用性(インターオペラビリティ)などについて全く理解を示さず、標準化活動には出張すら許さない場合があるそうだ。実は今、時代は変革期にあり、標準化や相互運用性が技術以上に重要になってきていることに経営層が気づいていないのかもしれない。

パソコン用プロセッサしか作ってこなかった米インテルがなぜダントツの半導体メーカーになったのか。ちっぽけな英国のCSRがなぜダントツのBluetoothファブレスメーカーになったのか。東京大学の小川紘一先生によると、インテルはPCIバスを提唱しそれを標準化することでマザーボードメーカーやチップセットメーカーがPCIバス上で動くインテルプロセッサと一緒に使わざるを得ない状況を作り出したことが大きいという。同じことがCSRにもいえる。最大7個のデバイスまでつなげられるBluetooth規格の上で、さまざまなメーカーのBluetoothデバイスが本当に接続できて干渉がないのか、徹底的に調べた。どのメーカーのBluetoothデバイスも実際に動くかどうか、この相互運用性を確認するのに時間がかかった。Bluetooth特有の設定の面倒くささも日本企業には苦痛だった。この間、多くの日本企業が痺れを切らしBluetoothを捨てた。このとき技術では日本企業は先行していた。しかし、相互運用性を馬鹿にし、その結果ビジネス機会を失った。携帯電話でも3Gで世界に先駆けていたNTTドコモが標準化に大失敗して今やガラパゴス現象とまで言われる状況に陥ったのも全く同じであり、このような失敗例は枚挙にいとまがない。

せっかくの技術を持っていても、海外企業に使ってもらえなければこのグローバル時代では宝の持ち腐れになってしまう。マーケットの広い海外でたくさんの顧客に使ってもらうための仕組み作りこそが、技術以上に大切なのである。標準化や相互運用性の確認にコラボレーションを図り、使いやすい規格を議論しつつ、さらに新しい技術を開発してその規格に載せていけば多少の辛抱で大きな市場を手にすることができる。これこそ、技術を売り上げにつなげられるのである。

エンジニアはこれを上司に説得すべきだろうし、上司は理解に努めるべきであろう。これがうまく回れば、企業は伸びていく。経営層は、エンジニアが上司とうまく話ができるような環境を作ることが仕事である。エンジニア、マネージャー、経営層がうまく回れば企業はぶれない。強くなるはずだ。

半導体や部品メーカーがまるでバブルブームのように殺到するカーエレクトロニクス分野でも、世界標準になろうとしているAUTOSARをどう取り込み、ユーザーの意向に沿った規格を取り込んでいけるか、ここでも一歩間違うとガラパゴス的カーエレクトロニクスになる危険性をはらんでいる。

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