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ボブ・ディランが示唆した現代のワイヤレスビジネス

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シンガーソングライターのはしりであったボブ・ディランの歌に「時代は変わる」という曲がある。米国がベトナム戦争を始めた1960年代に、時代は真の民主主義へと変わるだろう、というメッセージを伝えた歌であるが、実は6月のDAC(Design Automation Conference)のパネルディスカッションでこの曲を紹介し、今の時代がまさにこの歌の通りだと述べた講演者がいた。

6月11日のパネルディスカッション「次世代ワイヤレスマルチメディアデバイス」で、ノキアのJohn Shen氏が携帯電話+PCのコンバージョンにインターネット+セルラーネットワークが加わり、コンバージェンスというよりコリジョン(衝突)状態にあると現代を評した。コグニティブソフトウエア無線、ユビキタスのインターオペラビリティ、など新しいテクノロジーや規格が続出する中で、大きな変革期に来ていることを述べた。最後に紹介した歌が「時代は変わる」だった。


今遅いものでもいつか早くなるかも
旬のものはそのうち過去のものになる
序列や順番は急速に入れ替わり
今ナンバーワンのものがそのうち最後かもしれない
時代はまさに変わりつつあるから


これは「時代は変わる」の最後の部分だ。モデレータであるカリフォルニア大学バークレイ校のJan Rabaey教授は、DACの講演にボブ・ディランの歌が出てきたのは初めてだ、と言いながらパネルディスカッションをモデレートしていたが、現代をよく表していると思う。

DACは本来、LSI設計のEDAツールや技術の会議と展示会であったが、今回初めて参加し、もはや単なるEDAだけの世界ではないことを知った。LSI設計はVHDLやVerilogで設計するだけの仕事ではなく、いまや次のアプリと時代認識を読み取り、さらにユーザーへのマーケティングにより新しいビジネスを勝ち取る時代へ変わりつつある。ワイヤレス技術、ミクストシグナル技術、最新プロセス技術、など新しい時代の新しいアプリと技術に注目したセッションが予想していたよりも多かった。

DACが開催された初日にAppleのスティーブ・ジョブスが3GのiPhoneをデモンストレーションし、日本のソフトバンクが7月から売り出すことを発表している。2.5Gの最初のiPhoneとは違い、ビジネスモデルにも変化をもたらし、今回は前回と違い、通信料を徴収せず、従来のスマートフォンよりも安い料金で売り出す。携帯端末の市場シェアの拡大が最大の狙いだといえる。

DACへ行く4日前には東京国際フォーラムでアドバンテスト展が開かれ、その最終日にクワルコムが自らのビジネスモデルについて講演した。その中で、日本でもマルチキャリヤの時代が来ることを予想しており、これからの携帯電話のビジネスモデルが日本でも大きく変わる予感を述べていた。欧州では携帯電話機が、ある時はOrangeのネットワークにつながり、別の時はボーダフォンのネットワークにつながっているというマルチキャリヤ型のサービスが提供されている。日本ならさしずめ、一つの携帯電話がある時はドコモで受け、別の時はソフトバンクで受けるというようなものだ。このビジネスモデルは、もはやキャリヤ主導型の携帯電話事業ではない。

携帯電話ネットワークやサービスのビジネスモデルはこれから変わっていく可能性がある。もちろん、携帯電話端末そのものも変わる。そして携帯電話を構成する半導体技術も大きく変わりそうだ。3次元の貫通電極TSVは携帯電話から使われ、SiPやPoPなどの新しい半導体パッケージ技術は薄い小さい低消費電力が最も強く要求される携帯電話が牽引する。新しいパッケージ技術が出てくると、スタックチップ、貫通電極、薄いウェーハ作り、ウェーハレベルCSP、薄い樹脂を封入するモールド技術、信頼性を低下させずにシリコンチップを守る樹脂技術、機械的な力に脆いLow-k材料を使ったチップをも破壊させないソフトな成型技術、原油値上がりに端を発した材料コスト低減のための金ワイヤーのさらなる細線化、これらの技術に伴う新しい材料や材料形態、再配線設計技術にも変革が求められる。

今は、アプリケーションから設計技術、製造技術、アプリケーションのビジネスモデル技術など、何から何まで新しい技術が必要になってくる。次の勝者は誰か。もはやインテルやマイクロソフトの時代ではない。携帯電話、ネットワーク、ソフトウエア・ハードウエア、サービス、いずれのビジネスでも従来とは違う新しいビジネスモデルを発明し、実行する企業が新たな勝者になる可能性は極めて大きい。

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