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マーケティングの重要性

日本の半導体メーカーの弱点は何かと業界のベテラン関係者たちに問うと、まずマーケティング力がないと答え、次に経営能力が乏しい、という答えが返って来る。経営能力は、ひとまず置くことにしてマーケティング能力について考えてみる。

米国メーカーを取材していると、半導体エンジニアからマーケティングのマネジャーへと出世したという声をよく聞く。マーケティングを担当するのはエンジニア上がりが多い。サムスン電子のマーケティング部門を見ると、マーケティングマネジャーにPh.Dや工学博士が多いことに気がつく。日本では、「マーケティングに回されたよ」と、卑下する声を聞く。しかもエンジニア出身者は少ない。この違いは何か。

マーケティングの重要性を経営者だけではなく、中間管理職がしっかりと認識していないためではないか。マーケティングが行うべき仕事として、顧客の声をしっかり聞き、世の中の動きを捉え、自社の行くべき道を探り経営層に伝えることである。少なくとも海外企業のマーケティング担当者は顧客を訪問し、技術動向をしっかりと見ている。彼らはエンジニアでありアナリストでもある。

1980年代後半のDRAM全盛期では顧客の声を聞くというようなマーケティング手法は要らなかった。次に設計すべき製品の仕様がわかっていたからだ。当世代の4倍の容量の製品を作るだけだった。このためにリソグラフィ寸法は2/3にシュリンクし、チップ面積を2倍に増やして4倍の容量を実現してきた。その後はさらにシュリンクして量産版を作るといったシナリオが決まっていた。顧客が何を望んでいるのか、調査する必要がなかった。ニブルモードやバーストモードなどは些細なことでしかない。

しかし、待てよ。世の中のどのような製品を見ても顧客の要望を調査もしないで設計する製品なんてDRAM以外にあるだろうか。ルイヴィトンやコーチのバッグ、バーバリの洋服、どのような製品を見ても顧客の要望を汲み取って成功してきた。DRAMだけが例外なのである。

この例外を当たり前と受け取ってきたところにいまだにDRAM文化から抜けきらない半導体メーカーの弱さの原因があるのではないか。顧客の声に耳を傾けるというマーケティング手法のイロハが行われていないように見える。サムスンは、博士課程を修了した学生を研究所ではなく、マーケティング部門に送り込む。マーケティングでは顧客の声をただ一方的に聞くのではなく、話によっては逆提案して顧客の提案を改善し、よりよいものを作るという作業が必要なのである。このためには顧客の要望を十分に理解し、咀嚼する能力が欠かせない。顧客とディスカッションして得られた次世代の製品仕様を工場の設計者に持っていく。

これまでの日本の電機メーカーでは工場のエンジニアの方が技術をよく知っていた。だからこそ、自分らの技術を顧客に押し付けるという風潮があった。これでは顧客のほしい製品は作れない。もちろん売れない。しかし、顧客のニーズをもっともよく知るマーケティング担当者が工場の設計者に伝える方が顧客の夢を実現しやすいはずだ。だからマーケティング担当者には優秀なエンジニアのバックグランドのある人材が必要なのである。

本来あるべきマーケティング担当者がエンジニアリングの知識を持ち、世の中の動向を見据えたアナリストであれば、日本の高い半導体技術と相まってグローバルで十分勝負できると思う。顧客に高い価値を与えられるからだ。この顧客とは日本市場だけではなくグローバルな顧客を指すことは言うまでもない。


津田建二

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