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海外でも否定的なNECエレとルネサスとのショットガン結婚

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まだ顔を見たこともない英国の半導体アナリストと先日、電話でディスカッションしていたところ、NECエレとルネサスとの合弁は、(サッチャー改革が始まっていない)30年前の英国だね、まるでショットガン結婚だ、というコメントをいただいた。ショットガン結婚って何?と聞き返すと、子供ができちゃってしかたなく一緒になるような結婚だそうだ。それも、親会社同士が無理やりくっつけた子会社同士の結婚だという。いわば前向きではない結婚のこと。

大企業同士の合併でこれまでうまく行った例は極めて少ない。うまくいく場合は必ず一方が他方を追い出すことで市場から消えてもらい、ライバルを消すというやり方だった。だから1+1=1という図式にしかならない。決して2以上にはならない。もし共に仲良く手を組めば共に仲良く沈んでいく。すなわち1+1<1になる。

日立製作所もNECもともに公共事業依存型の古い時代の企業であり、それを伝統と呼ぶのかもしれない。日立は東京電力など公共事業、NECはNTTに製品を納入してきた、やはり公共事業に強く依存してきた企業である。公共事業をやってきた親企業同士が話し合いして、変化の激しい半導体ビジネスの方向性を示すことができるだろうか。

今回は安易に半導体大手2社をくっつけただけの合併としか見えないとそのアナリストは言う。これまでの歴史では、日立と三菱が合わさったルネサス、日立とNECのDRAM部門が合わさったエルピーダ(坂本社長の来る前の)はどうだったか。エルピーダはひたすら静かに沈没して行くだけだった。ルネサスは合弁した後でも売り上げランクはひたすら落ちていく一方だった。合弁直後は今のNECエレ+ルネサスのように世界3位の半導体メーカーになると単純な算数を当てはめた。しかし、今後の1年、2年後の順位は3位から上がっていくだろうか。そのためのシナリオは発表されただろうか。落ちていくシナリオは、4月20日のニュース解説で紹介したとおりだ。

本当にNECエレとルネサスが合併し、大方の予想通り沈んでいくだけだったとしたら誰が責任をとるのだろうか。親会社はそれをはっきりと示すべきではないだろうか。連結対象から何が何でも外さずに子会社を持ち影響力を及ぼす限り、子会社である半導体メーカーは生き残るための、取捨選択ができない。なにしろ売上を一時的にせよ下げることを許さないからだ。選択と集中をするのなら必ず一時的には売り上げは落ち、利益は確保できる。世界の半導体でうまくいっているところはみんな選択と集中を見直し、切り捨てた部門があるため一時的には売り上げは落ちた。

一方で、日立、NECの半導体子会社経営者は本当は反対だけど親会社のトップが合併しろと強く言うものだから合併せざるを得なくなった、ということなら、半導体経営者は今のうちに解消させることが経営者の責任ではないだろうか。自分の首をかけて合弁会社のベクトルを揃えていく自信があるか。あればその戦略がすでにあるはずだ。しかし記者発表会では戦略に関する発表はなかった。さらに、従業員を思う気持ちがあるのなら、手遅れにならないうちに経営者として責任を持って善処すべきではないだろうか。

なぜここまで強く訴えるか。前回のブログで書いたように変化に対応できない企業はもはや生き残れないからだ。このままでは日本の半導体が危ない。総崩れになる恐れがある。世界の半導体がこの先も数十年に渡って繁栄しつづけるのに対して、日本の半導体は2000年以降世界の半導体の成長よりも低い成長率でやってきた。今回は、さらに悪くなる方向が見えてきたのである。

では、解消してどうすればよいのか。無責任な解消だけを唱えるのではメディアも無責任だろう。私なりに提案すると、IDMであるNECエレとルネサスは、共にファブレスとファウンドリに分かれるべきだろう。ファブレスとして両社とも素晴らしいマイコンや組み込みシステムICのビジネスを持っている。ルネサスはSHコンソシアムを持ち、NECエレも外部のパートナーと一緒にソフト開発でオープン戦略を採っている。広がるマイコン、広がるソフト開発、広がる顧客に対応できる素晴らしいシステムを両社がそれぞれ別個に持っている。そのパートナー戦略を海外にも広げ、自らのコアコンピタンス、すなわちマイコンやSoCのビジネスに集中していけば、それぞれがますます強くなる。ファブを持たないからどこに投資すべきか明白で、投資額もずっと少なくて済む。もしM&Aを行うのなら、NECエレにはない特長を持つ企業、ルネサスにはない長所を持つ企業を選ぶべきだ。補完することで強くなれるはずだから。間違っても同じようなマイコンを持つファブレス同士が一緒になるべきではない。悲劇が始まることはすでに4月20日のニュース解説で指摘した。

これに対して、富士通や東芝、エプソンなどのマイコン/SoCビジネスはオープン戦略を採っていないためユーザーが増えない。むしろ富士通や東芝、エプソンのマイコン、SoCビジネスをNECエレやルネサスが吸収してしまう方が売り手・買い手ともにハッピーになるシナリオが描ける。もちろん、日本企業ではない外国企業のマイコン、SoCメーカーを買収して海外顧客の獲得を推進すべきであることは言うまでもない。

一方、日本国内にはSoCやシステムLSIをサポートするファウンドリ企業が1社もない。台湾やシンガポールだけではない。米国にさえファウンドリがある。ファウンドリとしてNECエレとルネサスは少量多品種生産に慣れているという強みがある。これをさらに推し進めて、両社が一緒になって少量多品種ラインに集中すれば投資額も効率的になる。ファウンドリに集中してすべての工場で少量多品種ファウンドリを徹底してしまえば、ユーザーはセカンドソースがないというリスクから解放される。地震や火災など地理的なリスクは解消される。

さらにIDM出身ファウンドリの強みは、物理設計に関する知識を持ち、DFM(Design for Manufacturing)あるいはDFY(Design for Yield)に強く、しかもEDAツールを補完しながら揃えられることだ。EDAツールメーカーとの協力も得られやすい。プロセスと物理設計との協力により、歩留まり高く1発完動品を得ることは、もしかするとTSMCの次くらいの強みかもしれない。

経営者は「経営責任」という言葉をよく噛みしめてほしい。従業員、顧客、パートナー企業などに対して責任を果たすという気持ちを再認識してほしい。経営トップの断固たる決断に期待する。

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