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スーパーコンピュータは市販のMPUで実現する時代

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「スーパーコンピュータメーカーのクレイ社はもはやかつてのクレイ社ではない。がらりと変わっているが今でもスーパーコンピュータのメーカーとして生き残っている」という話を昨年12月はじめに米国でHyperTransportコンソシアムの関係者から聞いた。クレイ社はかつて、ガリウムヒ素半導体でCray-3というスーパーコンピュータを開発していた。クレイ社の前身であったクレイリサーチ社の創業者、セイモア・クレイ氏は自動車事故で亡くなられた。スーパーコンピュータ事業はもはや米国では縮小してしまったとばかり思っていた。

ホームページでクレイ社について調べてみると、昨年11月に新しいスーパーコンピュータCray XT5を発表していた。その内容を読むと、これまでのスーパーコンピュータと設計アーキテクチャが全く違う。

かつてのスーパーコンピュータは、半導体デバイスが性能を決める大きな要素になっていた。シリコンバイポーラのECL(エミッタ結合論理)を単位ロジックとして使ってきて、熱設計も使って電力調整していた。シリコンのECLをガリウムヒ素のFETに置き換えてコンピュータの動作速度を上げようとしていた。CPU用の半導体デバイスは独自に開発され、それが性能を決めていた。

ところが、最新のCray XT5のアーキテクチャは、市販のAMD社製マルチコアプロセッサ、Opteronを基本ブロックのプロセッサに用い、その基本ブロックを3次元マトリックス上に接続した超並列処理を基本としている。この計算するための基本ブロックをコンピュータノードと呼び、それを4個×3個×4個というようなルービックキュービック状のアーキテクチャに設ける。この3個の平面上にサービスノードと呼ぶ、システムやI/Oと接続するための基本ブロックを4個×4個設け、この基本ブロックのCPUにもAMDのOpteronを使っている。OSはLinuxだ。全体で4個×4個×4個のブロックからなるアーキテクチャである。

要は、デバイスで性能が決まるのではなく、I/OやCPU同士のバンド幅で決まるため、6~30GB/秒でCPU−メモリー間やCPU−CPU間、メモリー−I/O間などを転送できるような構成になっている。この転送の標準規格の一つがHyperTransportである。

となると、量子デバイスや光デバイス、ホログラムデバイスなど新しいデバイスを開発したからといってスーパーコンピュータができることにはもはや全くならないということだ。新デバイスの開発ではなく、データを転送するバスやCPUの計算負荷に影響を与えないようにメモリーからメモリーへとか、CPUからCPUへとか、の伝送バンド幅とその構成がコンピュータ全体のスピードを決めることになる。

新聞などで、電子1個で動作するデバイスだとか、極めて狭い空間に電子や光子を閉じ込め、それをメモリーやプロセッサとするような発表を見かけるが、こういった報道はもはや間違いだといえる。計算機の速度を決める要素はもはやデバイスではない。

かつて、スーパーコンからミニスーパーコンへというトレンドの流れがあった。計算の事実上の速度はミニスーパーコンの方が速いのである。スーパーコンの価格は数億円から十数億円、かたやミニスーパーコンの価格は数千円の時代に、スーパーコンは大企業1社で1台しか購入できないが、ミニスーパーコンは大企業の事業部で1台持てた。スーパーコンで数値計算を行う場合、様々な事業部や研究所が使うため順番待ちで1週間待たされたが、ミニスーパーコンだと今日・明日に使えた。実際のCPU計算時間はもちろん、スーパーコンの方が速かったが、待ち時間を含めた事実上の計算時間だとミニスーパーコンの方が速いのである。

同様な話は、大型メインフレームコンピュータからミニコンへのトレンドの流れでも見られた。結局ボトルネックになっているところが何で、それを解決するものが何かによって、計算速度が決まってしまうのは、今も昔も変わらない。少なくとも、高速デバイスが1個できたからといってスーパーコンができると考えることは大きな間違いである。

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